朴 相俊

在日韓国人として、日本で生まれ育った私は、1998年から2000年まで、韓国のソウルに留学していた。
当時の韓国は、まだまだ物価が安く、特に革製品は、日本のそれに比べて、各段に安かった。

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ソウルに梨泰院(イテウォン)という街がある。
韓国でも有数のショッピング街なのだが、革を扱う店や問屋が特に多かった(少なくとも当時は..)。
アメリカ軍の基地がある街で、それに合わせたように仕立て屋が多く、必然的に革問屋も多かった。
今でも街を歩くと「オーダーメイドいかがですか?」と声をかけられるはずだ。

あるとき、私が友人と二人で梨泰院をブラブラと歩いていると、ある革問屋にぶつかった。
その店は、革製品も取り扱っているのだが、仕立て屋兼、革問屋だった。
さまざまな色の革が、カーペットのようにクルクルと丸められており、それがとても安い。

友人がなかでも、銀色に染められた革を非常に気に入った。
訊けば、その革をロールごと購入すれば、あとはちょっとした手数料だけで、いろいろと加工してくれるらしい。
いくら安いと言っても、当時のレートで1ロール4万円くらい。
一人で購入するには、学生の身分だとまだまだ高い。

友人はその後、革問屋に足繁く通うようになり、1ロールで、どれくらいの商品が取れるのかを店主と熱心に打ち合わせていた。
そのうち、共同購入者を集いはじめた。
私はその熱意に負け、その革でショートパンツをつくることにした。
ポケットの位置や、ファスナーも指定でき、何より自分のサイズに合わせた完全オーダーメイド。
加工費も含め、約1万円程度だった。
結局、その革からは、ショートパンツを2本、ロングパンツを1本つくった。
これがなかなか好評で、数人で革を購入することが、内輪でちょっとしたブームになった。

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ある日、そのショートパンツを履いて、例の革問屋を訪れると、店主がバツの悪そうな顔で、私たちのところに寄ってきた。
そして一言。「ちょっとの間だけ、日本語を使わないでくれよ」と。
見れば、革を購入しに来た日本からのバイヤーらしき3人組。
店主は値切られたフリをしながらも、私たちが購入した価格の3倍近くの値段で、バイヤーたちに革を売っていた。

そのバイヤーが「安い!日本で買ったら3倍はするぜ!」と興奮気味に言っていたのを、今でもハッキリ覚えている。
当時はまだ日本で革製品も購入したことがなかった私だが、漠然と「日本は革が高いんだな」と思ったものだ。
物価の違いはあれど、日本はやはり革製品が高いように思える。
少なくとも気軽に買えるものではない。

韓国に旅行へ出かけたことがある人ならわかるかもしれないが、日本の市場と、韓国のそれは、若干ニュアンスが違う。
日本では、問屋や専門店が仕入れのために利用するのが市場だが、韓国では一般人が、どの市場でも普通に買い物ができる。
韓国人の多くは市場を利用しているし、市場が生活に根付いている。
だから安い革製品と出会う確率が高い。
先述した梨泰院も、市場と名前はついていないが、市場のようなショッピング街なのだ。

私自身は、日本製の少々値が張る革のバッグを4年近く使っているが、品質はやはり良い。
衰えるどころか「味」が出てきて、気にいっている。
ただ、身近に韓国のように、安価で革のオーダーメイドができる店があったら、また何かつくってみたい気もする。

それぞれの国に、それぞれの文化があり、それは革にも及ぶ。
韓国は、手軽な金額で、惜しげもなく消費するものと考える。
日本では、それなりの金額を出して購入し、長く愛用するものと考える。
同じアジアの国なのに、その違いは大きい。

ちなみに、例のショートパンツは、すっかり太ってしまったため、押し入れ奥深くに眠っている。

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