アラン・マーフィー

こんにちは、私は日本で英語の教師と作家をしている、バンクーバー(カナダ)出身のアランといいます。バンクーバーは非常に美しい街で、横浜の姉妹都市となっています。冬は東京に比べて厳しい寒さですが、夏は25度くらいで湿気もなく過ごしやすい街です。

私が、初めて日本に来たのは、約30年前。香港、タイ、マレーシア、インドネシア、ネパールをめぐる、アジア旅行のついででした。ごちゃごちゃしているし、ベジタリアンには好意的ではなかったので、日本に留まるつもりはありませんでした。ところがいつしか、日本の長い歴史と、奥深い文化に惹かれていきました。
友人の一人が言いました。「鋼のように頑なに見えても、一皮むけば、竹の子のようにやわらかい」と。これが、私を妻や、2人のかわいい娘と共に、日本にとどめた、"wabisabi"の精神を表しているのです。

130424_1.jpg私は16歳のときに、バンクーバーとビクトリアの間の島で、夏の間大工仕事をして過ごしました。その時に、叔父が古い革の手袋をくれました。丁寧に作られた手袋は、強く、そして柔らかい肌触りでした。革の何がすごいかといえば、強度と柔軟性だと思います。大工仕事は、釘を打ったり、木を鋸で切ったり、コンクリートを流し込むといった作業が多かったので、手袋のおかげで怪我もしませんでした。一度だけ、金槌で釘ではなく自分の親指を打ったことがありましたが、その時は、革の手袋でも防げないこともあるものだと思いました。

この大工の経験によって、私は革の特質を知りました。その後、大学の考古学の授業で、古代社会において服、靴、住まい、ベルト、更には、ボートにまで革が重宝されたことを学びました。シカ革をはじめ皮革の耐久性は、確実に人間社会の発展に貢献していることを知りました。

実は、英語にはたくさんの革に関する慣用句が存在します。
"as tough as leather(革のように丈夫)"、"as tough as old boots(古い革靴のように丈夫)"や" as tough as shoe leather(革靴のように丈夫)"といった表現です。物に対してこの表現が利用される場合は、大抵、前向きな意味です。例えば、"この車は革のように丈夫だ"と言う場合は、30年経っても車の状態がよいということを意味します。

ところが、人に対して使う場合は、前向きな意味と後ろ向きな意味があります。
働いている人やスポーツ選手が"as tough as old boots(古い革靴のように丈夫)"といわれた場合、勤勉で諦めないという前向きな意味で使われます。
一方、話し合いをするのが難しい人や頑固な人が"as tough as old boots(古い革靴のように丈夫)"と表現された場合は、対処するのがとても難しい人という後ろ向きな意味として使われます。

また、1830年代のイギリスでは、山羊革の手袋が大流行しました。柔らかく、品の良い手袋は紳士達に非常に人気がありました。
そのため、繊細さが要求される話題、例えば、離婚やお金の貸し借りの場面で、"must be treated with kid gloves(山羊革の手袋のように扱われるべきだ)"と表現されたりします。更に、政治的な話、例えば領土問題を話す際にも、同じ表現をします。

叔父からもらった大工用の革手袋は、もう私の手元にはありません。
20年前、クリスマスを祝うために妻とバンクーバーへ帰省をしたときのことです。雪が降り、とても寒い冬でした。手袋を持ち合わせていなかった私のために、父が羊毛の裏地のついた革手袋をくれました。父はもう何年か前に亡くなりましたが、今もその手袋だけは残っています。
温かく、柔らかく、そして強い、まるで私の父そのままの手袋です。

130424_2.jpg

facebook witter

このページの一番上へ