欧米ブランドに「負けていないぞ!」

September 25, 2019

村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/ものづくりの甘美な地獄が味わえる請負職人の世界

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。今回は、ものづくりの甘美な地獄が味わえる請負職人の世界という話です。

ものづくりの現場を支えている、請負職人とは? 「つくり手」のリアルな現状を村木さんが徹底解説! 独立して、ものづくりを仕事にしたいかた、ぜひご一読ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしておりますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。
当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

人気イベント「本日は革日和♪」。今後の予定、スケジュールなど、下記のリンク先をチェックしてください。今週末は横浜でのイベント出展、ホームグラウンド・大阪と同時開催! 村木さんのセミナーは横浜で行われますのでお見逃しなく。

また、今回のエントリの文末にも書かれていますので、最後までじっくりご覧ください。

  「本日は革日和♪」
  <http://ccrui.sakura.ne.jp/kawabiyori/>


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毎度です!「前回のblogは知り合いメーカーからはそれなりに好評だったけど、請負職人などは苦い顔していたなぁ。今回のblogは双方から嫌がられるだろうな」村木です。

前回の話は

・メーカーという職業がないと量産品はうまくまわらない
・請負職人は歯車と同じ
・そこらの話がわからない人が量産に手を出すとろくなことにならないよ

というような話でした。

で、今回は請負職人の話。
革製品業界には靴や鞄、財布、ランドセルなど様々な請負職人が存在します。

結論だけ軽く書いておくと

実際に材料から完成品を作る、というものづくりの美味しい部分だけを食べ続けられるという甘美な地獄が続くのが請負職人

という話です。


目次 [hide]


請負職人の定義ってなに?


請負職人はどれくらいいる?


なぜ請負職人の組合がないのか?


請負職人はなぜSNSやHPを持たないのか?


「えっ!請負職人はHPなりSNSで仕事募集すればいいのに!頼みたい人たくさんいるだろうに!」


請負職人の面白さ


請負職人の辛さ


作りたいものなんか全く作れない


仕事をくれるメーカーは敵じゃないけど味方でもない。


メーカーには請負職人に仕事を与える義務はない。


請負職人は足元を見られやすい。


「メーカーが悪い」というつもりはない


請負職人が年収1000万円稼ぎたいと思ったらどうすればいい?


1 ものづくりの量をさらに増やす


2 企画・デザイン・営業、という他の要素も自分で行う


儲けようと思うと一人じゃ難しい!とわかるときが来る


次回は


イベント予告




請負職人の定義ってなに?

鞄メーカーの社長さんとの話

「ハンドメイドのイベント行って職人、と名乗っている若い子に請負の仕事頼めるかと思ったのに駄目だったよ!あいつら職人です、と言っているのに請負の仕事出来ないじゃないか!」

うん、そうだろうなぁ。言われた人も困っただろうに。

革業界に関しては「職人」という言葉の定義が決まっていません。
別に学校卒業したばかりの人が「職人」と名乗っていようが、メーカーで5年働いた人が独立して「職人」と名乗ろうが自由なわけです。

鞄メーカーの社長にしたら「『職人』って言ったら、メーカーが仕事を投げて、それを受け取って完成させる請負職人のことだろ!」と考えなわけです。それ以外の「職人」というのは想定していないわけで。実際皮革用語辞典で検索しても職人なんて項目はありません。

皮革用語辞典|社団法人日本皮革産業連合会 JLIA

メーカーさんと自称職人さん。この両者が出くわすと、お互いの「職人」像が異なるため食い違いが生じます。どっちが正しい・悪いという問題ではないわけです。

ですので私は「メーカーやクライアントから仕事をもらって言われたものを作る職人=請負職人」という定義で話しています。「いや、それは職人だろ!」「いやいや、お客に真摯に寄り添ってオーダーで作る、というのだけが職人だ!」など様々な声もあるでしょうが、とりあえずこのblogのこの記事内では「請負職人とはそういうものだ」と思ってください。

請負職人はどれくらいいる?

はこの国では「鞄や財布、靴の請負職人」がどれくらいの数いるのか、という統計データは存在しません。

「えっ!この皮革産業連合会のHPには『ハンドバック組合』『靴組合』とかあるから、ここに聞けばわかるんじゃないの?」

皮革企業大図鑑 | JLIA 日本皮革産業連合会

この組合のHPに行くと色々な会社さんが登録されているのがわかります。ですが、これらはメーカーであり、請負職人さんではありません。組合というのはメーカーのためのものであり、請負職人のためのものではないからです。

なぜ請負職人の組合がないのか?

本気で書くと確実に既存職人とメーカー双方から嫌われるので書きませんが、オブラート2枚に包んで言うならば「集団活動が苦手な人が多いから」だと思います。(俺はそうじゃない!という人もいるでしょうがご勘弁を)

集団に所属するメリットを感じない人が職人には多く、偏屈者も多いです。過去においては職人で組合を作ろう、という話もあったのですが、たち消えたり空中分解したそうです。腕のある職人には「そんなのに所属して俺の技術とられたらどうするんだ!」「年間~万円払ってそれ以上のバックあるのか!俺にメリットねぇ!」という主張をされた人もいました。

また、メーカーにしたら請負職人同士がつるんで「あそこのメーカーは工賃~円」「えっ!俺はもうちょっと安かったぞ!あの野郎、値切っていやがったな!」などの情報交換されるのは嫌なわけで。

ドイツの職人組合=ギルドやゲゼレ、マイスター制度などは国としっかり結びついた制度となっています。権利もあるが多くの義務も存在しますので、現状の日本では運用は到底無理だろうな、と個人的に思います。

 

請負職人はなぜSNSやHPを持たないのか?

請負職人でSNSやっている人は少ないです。意識的にやっていない、というわけではなく、自分から何かを発表するのが得意じゃない人が多いように思えます。HPをやっている人は更に少ないですね。

「えっ!請負職人はHPなりSNSで仕事募集すればいいのに!頼みたい人たくさんいるだろうに!」

請負職人はある意味「営業やデザインや企画などをやりたくなくて、ものづくりだけをやりたい、という一点集中突破」職種と言えます。

例えばアパレルの人が請負職人を捕まえて「俺の望むカバンを50個作ってくれ」と言ってもうまくいきません。前回のblogで書いたように請負職人はどこで材料を買えるのか。どこで加工をお願いできるのか。どんな革の種類があるのか、などを知らない人が多数です。だから、そういう人はメーカーに依頼しろ!というのが前回のまとめなわけです。

村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/自分の思った鞄や靴の量産依頼したい時にはメーカーに頼んだほうが確実、という話 | JLIA 日本皮革産業連合会

請負職人は基本的に「自分の要望だけを主張する人との会話」を無駄と考える人が多いです。
「アパレルだろうがやる気ある若い子だろうが、『どこでこの材料買えるの?』『海外ブランドと同じようなコバ仕上げをお願いするのにはいくらかかるの?』などいちいち聞かれるのはうっとおしい!」と考えるわけです。

結局「そういうめんどい設定や交渉は全部このメーカーさんにお願いしているので、俺に仕事頼みたいならばそっちに連絡して!」となるわけです。だからSNSなんてのをやる請負職人も少ないわけで。

請負職人の面白さ

以前多数の高校生たち相手に請負職人の職種を話したことがあります。

学生さん向けに革の請負職人ってどんな仕事か話してきた | phoenix blog

朝から晩までこもりっきりで1人でものづくりをします。私の場合はパートさん使っているので数人でものづくりをします。世間での売れ筋は知りませんし、決まった仕様のままに、納期に間に合わせるように働きます。

私はパートさんと一緒に仕事しますが、100%請負職人一人っきりでやっている人もいます。そういう方は1週間に会うのは奥さんなり旦那さんなりのパートナー1人と、取引のある営業さんAさんと他社営業Bさん、と3人しか会わない、ということも十分ありえます。朝から晩まで自宅工房に引きこもって延々とものづくりを行います。

高校生「そ、それは面白い仕事なんですか!?」

あ、ごめん。別にビビらせるつもりも、自分の仕事を卑下しているつもりもないんですわ。朝から晩までものづくりだけ考えられる、というのが天国なわけです。お客さんのオーダーを聞いてオーダー品を作る、という仕事をするならば、お客に信頼されるように普段から情報発信したり、お店経営して小洒落た雰囲気を作り、オシャレな服を着て、場合によってはテレビやラジオに出て宣伝。流行のカバンなり靴なりを勉強などしなくちゃいけません。そういうのってすごくめんどくさいんですよね。

その点請負職人は与えられる生産の仕事をどれだけ効率よく出来るかを考えるだけで良いんですよ!自宅工房ならば通勤もありません!仕事はメーカーから全部整えられてやってくるので後はどれだけ自分自身を効率よく動かすか、というパズルを考えるのと同じです。手の動きひとつ、工具の置き場所一つ変えただけで5秒短縮出来るから、1000回やったら5000秒=80分ちょい削れる!というのが面白いと思える人には天国ですよ。あと、人と喋るのは苦痛、という人にもおすすめです!

請負職人は「1つ作ったら〜〜円」という歩合制ですので効率よく行動すればするほど賃金があがります。3つ作るのに1時間かかったものが、1時間で6つ出来るようになったら実質給金が倍になったのと同じです!自分が全部やるのではなく、誰でも出来る作業ならばパートさんなり内職さんなり使えばもっと効率よくなります。

1人でやっているならば支出は糸と両面テープ、糊くらいしか費用がかかりません。働けば働くほどお金は入るし、賢くものづくりすればするほど給金もあがります。

ほら、請負職人って楽しそうでしょ!

高校生「そうかな?(;・∀・)」

後日高校生からの感想文で「社会にでて人付き合いが嫌になったら、この仕事思い出します!」と書かれていましたわ。良かったのかな、こんな話して(´・ω・`)

請負職人の辛さ

まぁ、楽しいことばかりじゃないから人生面白いわけで。さて、冷水ぶっかける「請負職人の辛さ」を書くと。

作りたいものなんか全く作れない

作りたいものは趣味で作ることはありますが、請負の仕事で「これしか作りたくない」と言ってもその仕事が来るとは限りません。むしろ来ないケースがほとんどです。

また、「こうしたほうが綺麗にできる」なんて勝手に判断して行動したら駄目です。あくまで仕事をくれたクライアント=メーカーの仕様どおりに作らなきゃいけません。

仕事をくれるメーカーは敵じゃないけど味方でもない。

会社にしたら社員が一番大事ですので、いざというときには請負職人なんてぶっちぎります。会社が最優先です。でも請負職人を潰すわけには行かないのでそのギリギリを攻めてきます。

過去に聞いた事例では請負職人が「この納期では無理です」と言ったところ「徹夜してでもあげなきゃ駄目だろ!」と言い放ったメーカーさんもおられたそうです。徹夜して体壊したら意味がないんですけど、メーカーさんのクライアントの都合最優先にしたわけですな。

メーカーには請負職人に仕事を与える義務はない。

メーカーさんは「この職人腕が悪い」と思ったら仕事はくれなくなります。他に良い職人見つけたら仕事をくれなくなります。メーカーさんが仕事取ってこなかったら仕事をくれなくなります。

ある日突然仕事がなくなることもありえるわけです。

某メーカーさん「若い子ならば失敗したり言うこと聞かなくても3回チャンスあたえるけど、40越えた人間には1回失敗したらもう仕事持っていかないよ。ムラキよぅ、40越えた人間がもう自分のやり方変えられるケースは稀だぜ」 あぁ、耳が痛い

請負職人は足元を見られやすい。

前述している職人組合が存在しないことで「これくらい出来たら工賃はこれくらい」「体壊すレベルまで働いたら駄目だよ。健康診断行っとこうね」などの情報交換や扶助制度が存在しません。仕事を投げるメーカーにしたら「職人さんは職人同士で情報交換せず、孤立している方がありがたい」と考えがちです。

結果的に職人は工賃の基準を持たず、「えっ、それだけ手間かかることをそんな工賃でやっているの?」と言うケースもありえます。当の本人はそれに気づいていない場合もありえますし、「儂、もう引退したようなものだから孫のおもちゃ代金稼げたらええねん」という人もいます。

「メーカーが悪い」というつもりはない

「メーカーという役割が悪人なんだな!」と考える人が出たら困るので書いておきますが、メーカーが悪いわけでもありません。メーカーもメーカーで請負職人がいなくなると仕事が回らなくなりますので壊滅させたいわけではないんです。単に「請負職人同士で連帯されたくない」「情報共有などされたくない」と思っているだけです。あれ?悪人っぽく見えるな(;・∀・)

請負職人は自分で材料を仕入れる・デザインを考える・交渉する・営業する・販売する、などを放棄して「ものづくりに特化」した職種です。これらの作業なりを全部やってくれるメーカーさんがいないと自分は存在しない、という自覚があります。

お互い持ちつ持たれつなわけですな。

請負職人が年収1000万円稼ぎたいと思ったらどうすればいい?

請負職人でパートさん雇って内職も使っている請負職人さん「ムラキさん、年収1000万円ほど行きたいんだけど、どうすればいいと思う?」

リスクを負えばいいだけちゃう?ってのが回答だなぁ。

「企画・デザイン・ものづくり・営業」が、「ものを作って販売する」際に必須な4つの要素だと私は思っている。請負職人はこの中で「ものづくり」だけやっている人。もし更に儲けたい!と思うならば方法は2つ。

1 ものづくりの量を更に増やす
2 企画・デザイン・営業、という他の要素も自分で行う

この2つだよね。

1 ものづくりの量をさらに増やす

ものづくりの量を更に増やす、ってのは機械に投資して労働効率を良くする。あるいは、人を雇って自分じゃなくても出来る仕事は全部そちらにぶん投げる。機械投資しても、機械を扱う人を増やさないと生産性は上がらないので結局は「人を雇う」ということに帰結する。

ところが、ものづくり特化の請負職人という人間は、そもそも人としゃべる事や人を管理する事が苦手な人が多い。だから、「人を雇ったら効率良くなって儲かるだろうけど、一人のほうが気楽だなぁ」とその場に止まっている人は多いよね。

また、ものづくりの量を増やしたとしても、仕事がそもそも存在しないと意味がない。仕事増やすためにはメーカーに連絡取ればいいだけ。

「良いメーカーあります?」

よくそういう質問受けるけど、良いメーカーだとしてもあなたが良い職人、という保証はできない。逆に私にとって良いメーカーだと思ってもあなたにとって良いメーカーとも限らない。だから紹介出来ないんだよね。

だからオススメは組合HPに載っているメーカーに「自分が持っている設備のリストとこういうものが作れます、という写真を郵送で送る」だけでいい。10社に送ったら8社は連絡来るんじゃないかな。実際この方法やった人は「ムラキさん、簡単に仕事来ましたよ!」と驚いていましたわ。まぁ、メーカーの中も良し悪しはモチロンあったそうですが。

2 企画・デザイン・営業、という他の要素も自分で行う

世間でなにが売れているかを調べ、デザインして、自分で営業して販売していく。材料も自分で仕入れて生産していく。要は今までメーカーさんがやっていた面倒くさい要素を自分でやってしまう、ってことですよね。もちろん売れなきゃ1円にもならない。なにが売れているか、なんで売れているか、このデザインはほんとに売れるのか?どうやって売れば良いんだ、などを自分で考えるというすごく面倒くさい作業がある。

「そういうのが嫌だから請負職人やっているんじゃないですか!」

そうだね。でも、人を雇うなり、企画・デザイン・営業という他の要素も自分でやる、などのリスクを負わないと今以上には儲からないよ┐(´д`)┌

儲けようと思うと一人じゃ難しい!とわかるときが来る

まぁ、これら1,2をやり始めると実際に自分で作る作業よりも生産管理や営業などが忙しくなる。で、いつか気づく。「あれ?俺はものづくりやりたかったのになんで人の管理に頭悩ましたり、革の手配して車で配達などしいているんだろ?」 おめでとう!君は請負職人からメーカーに変わった!

そう、儲けたい!と思うと自分ひとりでやる限界が来るんですよね。請負職人に限らずですが、1人でやろうと思うといつかは限界きますよね。┐(´д`)┌

次回は

イベント報告などを挟んだり、イベント予告などを挟むと思いますが、その次くらいに「請負職人で食べていくにはどうするか」「弟子システムの歴史と今」などを喋れたな、と思いますわ

イベント予告

下記イベントに革日和として展示取りまとめたりセミナーなりやっています。

9/26-28 素材博覧会in神奈川県 横浜
10/4.5 ジャパンレザーアワード in東京二子玉川
10/12 アイドール in大阪
10/18-20 A-ROUND in浅草 東京
11/2.3 革日和in名古屋 一宮
11/16 兵庫皮革まつり
12/4.5 革日和in レザーフェア 浅草東京

詳しくは下記HPを御覧くださいな

本日は革日和♪


プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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