January 29, 2020
村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/キッズレザープログラムと「職人になりたい!」という人向けの話
カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」
今月は村木さんが委員を担当するプロジェクト「キッズレザープログラム」のご紹介と、つくり手を目指すかたにご覧いただきたいお話です。日本のものづくりの未来に希望を。
当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。
<http://ccrui.sakura.ne.jp/kawabiyori/>
毎度です!「今年は暖冬なので過ごしやすいですけど、商売している人は大変だな」と思いつつ、バイクで毎日通勤しているムラキです!暖冬だとバイク通勤はほんとに楽です。空気が乾燥すると大気中の水分が減り、空気が澄んでいる気がしますので運転していて気持ちいいものですな。
さて、2019年12月にキッズレザープログラムの会議があり出席してきました。
今回は下記の話を。
・キッズレザープログラムってなに?そんなことやって意味あるの?
・その場で議題にあがった「子どもさんが将来革でものを作る職人さんになりたい、という相談があった」という話と結末
・革業界は「職人」という言葉の定義が曖昧
などを書いていきます。
目次 [hide]
キッズレザープログラムってなに?
なんのためにそんなことしているの?
そんなことをするよりも今、革製品が売れないと意味がない!という声も
具体的にはなにをしているの?
お子さんから「将来革鞄や靴を作る仕事につきたい」という質問が来ました
職人仕事は早ければ早いほど良い
住み込みで働ける場所あるの?
革業界は「職人」という言葉の定義が曖昧
職人になりたい!というのは曖昧な言葉なんだよ。
鞄靴財布なりの業界に入りたいならば
で、相談のあった子はどうなった?
露骨な宣伝になるけど、そういうセミナーをやります
キッズレザープログラムってなに?
日本皮革産業連合会(JLIA)が行っている取り組みで、私、ムラキは2012年の開始当初から関わっています。えっ!もう8年!?あのとき学んだ小学生も下手すりゃ高校生とか、20歳か、、、
HP:~革を学ぼう!革で遊ぼう!~ kids' leather programs
Insta:leatherkids (@leatherkids) on Twitter
過去の記事
2013年 革育、もといKLPで東京出張に行ってきた: レザークラフト・フェニックス
2014年 キッズレザープログラムの出張に行ってきた報告:山ほどいるんだ、専門家は。。専門家、はね。: レザークラフト・フェニックス
2017年 皮革産業連合会のキッズレザープログラムの会議に行っている、という話 | phoenix blog
2018年 キッズレザープログラムに送る革を準備していた。こんなハギレ革でも助かっている、という話し | phoenix blog
なんのためにそんなことしているの?
革という素材を幼いときから触れてもらうためです。小さなときに触ったものは将来親しみを感じてもらえます。将来的に革製品を買ってもらうor革業界で働いてもらうためにも種まきは重要という話ですわ。
当初も現在も目的はブレていないのですが、「お子さんに革を知ってもらう」という取り組みの中で、子ども向けに革の紙芝居などを行うと同伴者の親御さんも興味深く見たりします。なるほど!お子さんにアピールするというのは親御さんにアピールするのと同義なんだな、と学ばせてもらいました。
そんなことをするよりも今、革製品が売れないと意味がない!という声も
うん、こういう種まきをしてこなかったから今、革製品が売れなかったんちゃうんかなぁ。
この取り組みは成果が出るのに10年はかかる。今、じゃなくて、将来革業界で食べていく人のためにもやっておかなくちゃいけないわけで。
具体的にはなにをしているの?
初期の頃はワークショップなどを行っていましたが、人員・費用で問題がありました。
で、考えられたのが靴、鞄、財布メーカーやタンナーさんで不要となった裁断済みの革などを1箇所に集約。で、要望があれば相手にダンボール1箱分のハギレ革を送る。それを授業や活動の中で自由に使ってください、というものです。
キッズレザープログラムを行う前のお約束ごとは下記の通り。
・もらった革でお金儲けなどをするのは厳禁
・活動報告は出してもらう
・キッズレザープログラムを採用してもらう前にきちんとJLIAから専門家を派遣して、キッズレザープログラムの意義や、「他ではこういうことをしましたよ」という説明を受けてもらう
ハギレ革などは下記のものでも十分役に立っています。
キッズレザープログラムに送る革を準備していた。こんなハギレ革でも助かっている、という話し | phoenix blog
みんなの声|~革を学ぼう!革で遊ぼう~ kids' leather programs
常時ハギレ革などはキッズレザープログラム事務局で募集しています。みかん箱1つ分くらいを寄付できるならば代引きにて送ってください。ただ、倉庫の状況などで左右されますので事前問い合わせ<メール:leatherkids@jlia.or.jp>は必須です。
※倉庫をやっている人の都合で2020年4月まで大量のハギレ革の受け入れは難しいです。「いらない革あるんだよ!」という方は、受け入れ可能になれば連絡しますので問い合わせだけでもしてあげてください。
革いいBank|~革を学ぼう!革で遊ぼう~ kids' leather programs
お子さんから「将来革鞄や靴を作る仕事につきたい」という質問が来ました
職人仕事は早ければ早いほど良い
キッズレザープログラム事務局「だから、ムラキさん、どこか良い所しらない?」
めちゃくちゃ大雑把な質問だなぁ(´・ω・`)
キッズレザープログラム事務局「キッズレザープログラムは全国の児童館や養護学校、小学校などに送っていますよね?その中でネグレクトのシェルターさんからも要望が来たので送っているんですよ」
ネグレクト、、児童虐待ってこと?
キッズレザープログラム事務局「それも含まれますが、虐待以外にも育児放棄されたお子さんなどを匿う場所があるんですよね。で、キッズレザープログラムに関わってもらい、ハギレ革を提供。工作の時間などで革を材料として工作してもらっていたんですよ。
ある時、先生から『普段勉強などをしない中学生の子がこの時間だけすごく真面目にしている。将来この子が鞄や靴制作などの道に進むことは可能なのか?』という相談がきたんですよ」
ん~、、、キッズレザープログラムは靴や鞄の組合からも理事の人が来て、会議に参加しているから聞いてみよう。鞄会社社長さん、どないなん?
「ムラキくん、中学校卒業からミシンや裁断などの仕事に来てくれるならかなり望ましいね。」
大学卒業とか高校卒業じゃなくていいの?
「大学卒業してきてもらうのはそれはそれでありがたいけど、やってもらう仕事は営業や生産管理、企画などの仕事になるね。ミシン踏んだり裁断したりをしてもらうことはないかなぁ」
なんでまた?
「理由は2つ。
1つは若いほうが成長速度が早い。大学卒業よりも高校卒業。それよりも中学卒業のほうが向いている。教室通っていた、とかはどうでもいいかなぁ。
もう1つは給料の問題。
ミシンを踏むような職人仕事って最終的には『1日いくつ作れたら~~円払う』という仕事になる。重要なのはこちらの指定する品質を納期までにきちんと仕上げられるか、という問題だよね。
大学卒業で24歳だとするよね。でもミシンを踏む仕事って別に大学卒業の学歴って関係ない。これは中学卒業した子もそうだよね。大学卒業1年生も中学卒業1年生も給料は同じになるわけだ。
で、最初の1年は1日3個ほどしか作れなかったのが、働いて5年経てば1日10個、10年経てば1日20個作れるようになる、と。大学卒業しようが、中学卒業だろうが、1日10個作ったなら同じ給料になるんだよね。『僕は大学卒業したのに給料は同じなんですか!?』と言われたら同じだよ、としか言いようがないんだよ。それに、若いほうが成長早いから、10年かかることを中学卒業した子は5年でできることもありえるしねぇ」
早ければ早いほど良いってことか。
「大学卒業が悪い、というわけではない。ただ、職人仕事するならば大学卒業という学歴を加味した給料は払えない、ってことだね」
住み込みで働ける場所あるの?
キッズレザープログラム事務局「先方から住み込みで働けるような場所がいい、と言われたんですけど、そういう場所はあるの?」
ん~、、、今の時代数は減っているんだよなぁ。
それこそ先日のJLIAblogで書いた豊岡鞄なんかはあったような。(>村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/豊岡鞄のセミナーを聞いたり、型紙セミナーを運営して思った 知ってもらう大切さの話)
地方の鞄作っているメーカーやランドセルメーカーは寮があるような場所もあるね。靴会社も大手になれば確実にある。
キッズレザープログラム事務局「関東が良いとのことなんですよ(´・ω・`)」
ん~、そこらはJLIAに相談かなぁ。私も関東のメーカー事情とかわからんよ。
まぁ、行った先が地獄だとしてもJLIAとしては仲介に入れないだろうけどね。
キッズレザープログラム事務局「ひどいところもあるってこと?」
ひどい、というか、雇う側と雇われる側、双方の認識がズレている、というケースは多いだろうね。
『自分が若い時はこうだったので今もこうしている』『職人や職人仕事という言葉の捉え方が違う』などが原因で不幸になっているケースはちょこちょこ見かけるなぁ。
革業界は「職人」という言葉の定義が曖昧
キッズレザープログラム事務局「もうちょい詳しく言うと?」
あまり詳しく書きすぎるとまた恨み買うんだけどなぁ。ん~と、、当たり障りなく書くならば、、、
革業界って「職人」という言葉の定義が定まってないんですよね。別に教室卒業した子が1年でお金積んでお店建てて「靴職人です!」と名乗っても良い。今回話したように「鞄メーカーで住み込みで働いて3年たったので職人名乗っています」というのでも良いわけで。
キッズレザープログラム事務局「問題ないの?」
だって革業界の「職人」って資格もないし、試験もないからね。
JLIAがやっている技術認定試験もあるけど、「これを取らなきゃ職人と名乗れない」ということもないし、この試験を取ったら「これをやってもいい」という技術的なこともないよね。
鞄・ハンドバッグ・小物技術認定(皮革部門)試験について | 革製品技能試験
これはあくまで「技術認定試験」だから、「技術があるかどうか」を定める試験。取れたら胸を張って良いと思うし、「取ったから給料あげてくれ」と言うべきだと思うなぁ。ただ、「取ったから独立しよう!」「お店やろう!」というのは全然違う話だよね。
「だから職人という言葉を定義しよう!」というつもりはないよ。それよりも職人という言葉は曖昧なので、『自分が思う職人という言葉の定義を他人に強制・強要するのはやめようね』というのがこの項目の本旨かな。
「職人募集!」とか「職人教育します!」というのを見たときに、「募集者が考えている職人、というのは何をさすのかな?」と疑問に思ったほうが良い。
逆に「職人募集したいなぁ」と考える人は、「当方が考える職人はこういう定義で、こういう仕事をしてもらいます」と、自分の考えを伝える努力をしたほうが良い。
ここらあたりが曖昧だと、「職人教育、というから入ったのにひたすら裁断ばかりさせられた!」とか、「職人になりたい、というから雇ったのに糸切りを2日間させたら辞めた!」というような不幸な結果になるよね。
職人になりたい!というのは曖昧な言葉なんだよ。
「職人になりたい!」と言っている人のイメージと、私が考えている職人のイメージが一致することはほぼありません。
「お店を経営して人を働かせつつモノを作って売る職人になりたい!」と考えるならば、「モノづくり」よりも「営業」「企画」「コミュニケーション」能力のほうが重要だったりする。
「オーダーを受注してモノを作って売る職人になりたい!」と考えるならば、「営業」「デザイン」能力のほうが重要だったりする。
「メーカーから請負の仕事をしたい!請負職人になりたい!」と考えるならば、「モノづくり」の技術を高めたらできる。
(>村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/ものづくりの甘美な地獄が味わえる請負職人の世界)
ここらを曖昧にして活動をすると不幸なケースになることが多いように思えます。
鞄靴財布なりの業界に入りたいならば
例えば望んだメーカーさんがあり、そこで縫製なりのモノづくり仕事をしたい、というならば。
2年ほど修理業界に行くと勉強になりますね。靴でも鞄でも。「完成品をバラしてもとに戻す」というのはものすごく勉強になります。2年間みっちりと修理業界で働いてから望んだメーカーに打診すると向こうは興味もってくれますよ。
靴業界で修理修行しておくと鞄や財布メーカーに行くときにも立派なウリ文句になるねぇ。
まぁ、そこから「修理面白いからこのまま修理業界でやっていきます!」という子も何人か見たけどね (´・ω・`)
で、相談のあった子はどうなった?
キッズレザープログラム事務局「結局関東のメーカーさんで住み込みで働ける場所があったのでそちらに面接に行ったそうですよ」
いつか会えたら幸いですな。
露骨な宣伝になるけど、そういうセミナーをやります
1/30(木)-2/1(土)の3日間、横浜で行われる素材博覧会で「しくじりハンドメイド作家さん」「お金の話をしよう!~ハンドメイドの値段の付け方」というセミナーをやります。どちらのセミナーも「結局自分がやりたいことはなにかをきちんと決めて行動しよう」「時間、一番大事!」というオチとなります。他に革セミナーなど行います。
素材博覧会 YOKOHAMA 2020 冬
>素材博覧会 YOKOHAMA 2020 冬セミナー・ワークショップ一覧
2/20(木)には「大阪府皮革業界総合研修」というセミナーで、大阪の西川商店さんという爬虫類のバッグメーカーさんと「気持ちよく働ける会社作りで、人が人を呼ぶ。」というセミナーをやります。
こちらでは「西川商店に入って生産管理などもする職人さんが独立したい!と言ったときに、西川商店はどういう聞き取りをしたか」「そして彼は今現在何をしているか」なども解説します。
紹介blog:大阪府皮革業界総合研修 第1回が面白かった&今後の予定セミナーが濃ゆい | phoenix blog
プロフィール
鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター
東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。
最近のブログ記事
- ジャパンレザー NEWS【まとめ】<9月第2週>
- 【村木るいさん連載】「人に話したくなる革の話」腱鞘炎にならないための考え方とカッターナイフの話
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