欧米ブランドに「負けていないぞ!」

April 27, 2022

【村木るいさん連載】80歳のバッグメーカー現役話と、靴の型紙作れても靴は作れない、という話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、80歳の鞄メーカーと、靴の型紙作れても靴は作れない、という話。ひとつの道を極めている、つくり手(サンプル師)にじっくり取材。幅広く活動する村木さんが、つくり手の立場からリアルにお届けします。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

人気イベント「本日は革日和♪」。今後の予定、スケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。
  「本日は革日和♪」

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毎度です! 「久々に東京でイベントやると思ったら立て込んできて真っ青」のムラキです。3月は過去一番忙しく、5月はイベントが連続で入ってきています。

次回の「東京レザーフェア」の日程は、5月26日(木)~27日(金)となりますので、これにあわせて、5月27日(金)~28日(土)で「本日は革日和♪ in 東京」をやります。「東京レザーフェア」を見た帰りにでもお立ち寄りくださいな。コロナ対策のために時間帯・予約制・完全入れ替え制となっています。
今月の投稿では、ふたりのサンプル師に聞いた話を紹介します。バッグのサンプル師のお父さんが80歳でメーカー業をしているので、その展示会をやる、という話。そして、靴のパタンナー(まぁ、サンプル師の方です)は職人の靴作りには敵わない、という話です。両方ともひとつの結論、「餅は餅屋」につながっています。

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80歳のバッグメーカーの個展をやるってどういうこと?何売りつけられるの?


大阪のバッグサンプル師の中村さんは、生まれた時から家業としてバッグを作っていました。このたび、80歳になるお父さんが東京・表参道で個展を開催する、とのことで話を聞きました。

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こういう個展とか展示会って行く人間としては、「なにか売りつけられるのかな?」とか「仕事頼まなきゃいけないのかな」「同業他社はいけないのかな」、とか思いがちだけどどうなの?

中村さん
「あ、そういうふうに思われちゃうか~。ないよ、なにも売るものは。来たからって何か買わなきゃいけない、ということはない。なーーーんもないよ。
だからお金なんて持ってこなくて良い。それに同業他社だろうが、ハンドメイド作家さんだろうが、職人さんだろうが自由に来てもらってほしい。趣旨は、『ほら、この業界で80超えたじいちゃんでもこうやって生きている』『若い人ならもっと出来ることはある』と励みになればいいなぁ、というだけのことやで」

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えっ! 本当にそれだけの目的?

生き残れたのは人の縁があったから

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別に何か売る、とかもなしにこのイベントやるのかよ。

中村さん
「せやで。でもな、うちの父さん、超絶技巧がある! というわけでもないねん。僕はサンプリ師やけど、その父ちゃんだからすごい技術がある! というわけちゃうんよ。
技術ちゃうねん。メーカーとして生き残れているんは、技術じゃなくて人の縁を作ってきたからやねん。
OEM主体だから取引先の問屋さん、仕入先の材料屋、外注先の裁断屋や漉き屋、縫製職人さん、などの人の縁があったから生き残れたんよ」

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人の縁、って曖昧だよね? 素人考えで言うなら、モノつくれるなら、金儲けできるやん、と思うけどちゃうの?

中村さん
「何度も言うけど、うちのお父ちゃんって超絶技巧あるわけちゃうねん。
ムラキくんは僕をサンプル師と見てくれるよね。でも、サンプル師だから超絶技巧ある、というわけちゃうねん。ただ、世間一般でいう超絶的な技工はできないけど、超絶技巧があるように技術を分解して、できるように見せているだけやねん。
技術を分解して、誰でもできるように仕立てているだけにすぎない。誰でもミシン縫ってス~~~~~っと縫えるように技術を分解しているだけやねん。
アタッシュケースを作るなら、うちの父ちゃんができるように父ちゃんが持っている技術に分解しているだけに過ぎない」

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あぁ、なるほどなぁ・・・。

技術を"分解する"という意味。メーカーは自分ができることをやるだけ、という意味

中村さん
「自社でブランド作るなら、超絶技巧でもいいと思う。でも、うちの父ちゃんや僕がやってきたように、OEMで大量に数をある程度の工賃や金額で回そう、と思った場合、超絶技巧じゃあかんねん。僕だけができます! という技術じゃ数は作れない。昨日バイトで入った人が縫えるように技術を分解して誰でもできるようにしなくちゃいけない。それが"数を回す"という意味やねん」

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メーカーっていうと、すごい技術がある! と思うけど違うの?

中村さん
「違う。誰でもできるように自分が持っている技術を分解して運用するのがメーカーの仕事やねん。
メーカーは自分が作れない仕事は受けるべきじゃない。工程が右から左にス~~~~~っとこなせる仕事をやらないと火傷する。作法が違う」

というような話を動画で公開しています。

上記の話を軽く文章でまとめていますが、実際は1時間弱あります。

「メーカーという仕事は超絶技巧があるわけじゃない」
「ただ、量産という仕事はメーカーに任せた方がいい」

などをまとめていますので、ご興味のある方はご覧ください。

結論として言うなら「餅は餅屋」という話です。

また、過去の下記blogでも同じことを書いていますので、ご覧ください。



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前述の、サンプル師 中村さんによるバッグ教室は、大阪のレザークラフトフェニックス 3Fにて開講しています。


さらに、古瀬シュースティリスタ研究会(現在、受講生募集中です)も、レザークラフトフェニックス 3Fで開講しています。この古瀬シュースティリスタ研究会は「靴の型紙を感覚じゃなくて論理的に解説する」がモットー。でも・・・

靴の型紙をつくれるけど、靴の吊り込みは時間がかかる、という話

古瀬シュースティリスタ研究会 | 足を熟知して靴を考える

古瀬さん
「ムラキさん、バッグのサンプル師 中村さんと僕の話は同じだよ。僕は型紙をつくれる。でも、靴の吊り込みができるわけちゃうよ」

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でもあなたは大阪で靴の型紙を教えているよね? 受講生的には靴の吊り込みなり靴を作る、ということができる、とイメージしちゃうよね?

古瀬さん
「あぁ、ちゃうよ。僕は靴の型紙をつくれる。木型がちゃんと型紙とあっているか、などの検査はできる。でも、型紙から革を裁断して靴を作る、というスキルは低いよ。それは吊り込みの職人さんのほうが優れている。絶対に。僕は単に型紙をつくれるだけやで」

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素人考え的には型紙作るなら靴つくれるんちゃう、と思うやん?

古瀬さん
「それは違うスキルだよ。

靴の型紙作るってのと、靴を実際に作るは全然違う。
靴の型紙を作る場合はどこに神経が通っているか。どこに筋肉が通っているか。その上で革がどこを押さえるか、などをきちんと把握して作らなきゃ駄目。感覚の前に理論が必要なんだよ。

僕は間違いなく靴の型紙を作る。木型の検査とかもできる。

でも、靴を作る、ってのは別のスキル。僕が作ると吊り込みの職人さんが10分でできることが、僕がやると1時間かかっちゃう。型紙を作る、というのと、靴を作る、は別のスキルやねん。一人の人間が全部やるのは大変やで」

職人という言葉を日本人は好きすぎる

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前回のJLIAblogでも書きましたが、言葉と意味の定義はすごく重要です。量産をする窓口である"メーカー"と実際に量産生産をする"職人"というのは似ているが全く違う職種です。


職人、という言葉から「全部できる」と思いがちですが、実際はサンプルを作る職人仕事と、量産仕事は全く別の世界です。実際に量差をするために段取りを組んでくれるメーカーという仕事は人の縁を基調というプロの仕事です。

餅は餅屋です。 

ネットがどれだけ発達しても人が積み重ねた"縁"は安易に手に入るモノではありません。

もし、これを読んでいる方が「僕は売れっ子Youtuberだから、自分オリジナルの財布を100個作りたい」「100個作るから、手作りイベントでつくる人を探そう」と思ってもうまくいくかどうかは博打です。「量産」、と「1個を丁寧に作る」のは別の問題だからです。

職人、とメーカーは別の世界です。上記のサンプル師 中村さんや、靴の古瀬さんに量産を相談しても無意味です。量産ならば職人、ではなくて、メーカーの仕事です。

鞄なりバッグなり小物メーカーは下記のリンク先から組合を見て、そこから加入社を見ることは可能です。

餅は餅屋

今回長文のblogを読んでいただいた方にはこれを覚えておいてくれたら幸いです。

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今後のイベント予定

5/27.28(金.土) 

本日は革日和 in 東京」(事前予約制)を行います。

本日は革日和♪in東京 22.5/27.28(金土)久々の展示会・初心者枠作りました | 本日は革日和♪

6/2~6/4(木土) 

「素材博覧会 KOBE 2022 夏」に、「本日は革日和♪」でブース出展予定です。

素材博覧会 KOBE 2022 夏


プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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