欧米ブランドに「負けていないぞ!」

February 22, 2023

【村木るいさん連載】皮革・革製品のサステナビリティとチャットAIの可能性

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は当連合会の皮革・革製品のサステナビリティを発信していく「Thinking Leather Action(TLA)」事業とチャットAIの可能性について。勉強会のレポートと実際にチャットAIを活用した感想をご紹介。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。


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毎度です!
「ほんとにもうこの半年のAIの進歩は・・・」村木です。

だいたい、「2022年はVR元年!」とか「2001年は電子書籍元年!」などと言われたりしますが、記憶にあるだけでVR元年と言われているのは3回目です。電子書籍元年は5回くらい「今年こそ歴史に残る元年なんだよ!」というものが起きましたねぇ。電子書籍元年、と一番最初に言われたのは確実に20年前ですよ。

ただ、昨年、「2022年はAI技術元年」と言っていいくらい進歩がすごかったですね。将来ターミネーターのスカイネットのように「AIが人類を支配だ!」という流れが生じたときは、「2022年が発端だったなぁ」と言われるのは間違いないですね。

今回は、

・JLIAで新しく始まった「Thinking Leather Action(TLA)」というものは何をするのか?

・革やレザー、という言葉をきちんと知ってもらう努力

・チャットAIに革、レザーを聞いてみよう!

・ChatGPTとBingの違い

・AIが得意なこと・不得意なこと

という内容です。

結論から先に書くと、「AIだって所詮道具」「道具を使える人はさらに使えるようになる。苦手意識持つ人はさらに苦手になる」というものになります。

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「Thinking Leather Action(TLA)」とは?


1月下旬に大阪で行われた「Thinking Leather Action(以下 TLA)」の勉強会。このほか姫路や豊岡、東京などで開催。日本皮革産業連合会(JLIA)会員団体や皮革産業の組合の関係者が参加していました。


TLA 事業の概要は?


皮革業界内において「天然皮革はエコ、サステナブルな素材であること」を立証し、自信を持って売れる環境をつくる。

皮革や革製品を売りやすい世の中へ。

皮革業界で働きやすい世の中へ。


皮革業界に限りませんが、キャリアを重ねれば重ねるほど、消費者が何を疑問に思っているか、というのは理解しにくくなります。

えっ!そこでつまずいていたの?とか、これは常識で皆さん知っていると思っていた、なんてことはザラにあります。




上記blogでもあげたように、日本タンナーズ協会は次の発信をこの近年強く行っています。

・革は食肉産業の副産物を利用している

下のようなパネルを展示したり、動画を作ったり。このような動きは即効性はないですが、100人のうち2人が「へぇ、そうなんだ」と思ってもらえたら、将来革に対しての炎上なりが起きた時に、「いや、それは違うよ」「ほら、こう言っているから調べようよ」という動きが出る可能性が多少はあがります。

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上のような動画やパネル展示以外にも、ちょうどこのblogを書いている日の「繊研新聞」(2023年2月21日 1面)に早速、このTLAのメッセージ広告が掲載されました。

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ウェブサイトやSNSは・・・


TLAは現在、ウェブサイトやSNSを準備中です。勉強会で配布されたパンフレットはありますが、勉強会参加者用のみとなっています。今後はビジネスパーソン向け、ユーザー向けの配布物もつくられると思われます。

革、レザーって???

皮と革の定義


多分80回以上やったと思いますが、「人に話したくなる革の話」、という初心者向けセミナーで最初に話すのは、革と皮の違いです。

写真は、JLIAの「皮革の出来るまで」というDVDです。

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2009年から販売かぁ・・・、多分日本で一番このDVD見たのは私のはずです。全セミナーで放映していますので。

さて、動画の中でも解説されていますが、皮を「なめす(鞣す)」ことで革が作られます。鞣しの定義は次の3点です。

1) 耐熱性を付与すること。コラーゲン線維を化学的に架橋することにより安定化させると耐熱性が向上する。鞣剤の違いによって耐熱性が異なるが、これは鞣剤による化学結合の違いを反映している。
2) 化学薬品や微生物に対する抵抗性を付与すること。
3)皮に必要な物性と理化学的特性を付与し、いわゆる「革らしさ」を与えることである。

皮革用語辞典 鞣し


端的に言うなら、耐熱性や耐薬品性を与えること。あとは「革らしさ」という「その定義はなに?めちゃくちゃ不明瞭だな!」という条件が入っています。よく革の専門家と飲むと、この革らしさってなんやねん!で議論になります。

「食肉業界から副産物としていただいた皮は鞣しをすることで革になる」わけです。

英語で皮と革はなんていうの?

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動画でも解説されていますが、

皮=skin
革=Leather

となります。人間の生々しい肌をケアするのは「スキンケアローション」であって、「レザーケアローション」ではないわけです。革の靴や鞄をケアする製品には、「レザークリーム」なり「レザーローション」なりが書かれているはずです。

ですが、このレザー、、という単語が曲者でして。

カタカナでレザー、と書かれると日本国内では明確に定義づけがされていません。

床革や合皮製品を「このカバンは本革です」と言って販売すると、家庭用品品質表示法で「それは駄目だよ」と規定がされています。ですが、~~レザーという単語に関しては明確な基準がありません。だって、「レザー」というのは英語をカタカタに直しただけの単語です。定義づけされていないわけですね。




チャットAIに革とレザーの違いを聞いてみよう

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さて、最近話題のチャットボットAIで遊んでみましょう。
使ったのはマイクロソフトBingです。

「革とレザーの違いってなに?」と聞いてみました。

一般の消費者向けの回答としては100点に近いかな、と思います。多分私が書くともっとくどくなります。ねちっこくなります。一般消費者向けならばこれくらいのほうが理解しやすいだろうな、と思います。


チャットAIがものすごく急激に進歩している



昨年のblogでも書いたようにイラストAIが進化していたのですが、この数か月でチャットAIがすごく進歩しています。遊んでみたのですが癖が強いです。

※チャットAIはどれもアカウント作成と認証が必要となります。ものによっては認証に3日ほど待たされたりします

回答の正確性は・・・

まずは最もメジャーなChatGPTですが・・・、日本語で質問したら答えてくれます。英語で質問したほうが回答は早くなりますが、もちろん英語で返ってきます。

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最近ちょっと調べていた「ももんじ屋」について。
ももんじ屋は江戸時代に肉料理専門の料理屋さんです。

で、歴史を聞いてみました。


この回答、誤認!?

岡山にそんなお店もないし、梅干し専門でもないです。チャットAIは所詮ネット上にある情報からしか引っ張ってこれないのですが、そもそも100%誤認の情報をどこから引っ張ってきたのかもわかりません。

さらに違う質問。大阪府における2019年の犯罪カテゴリトップ10の数字を調べてみました。回答口調は海原雄山口調で、と思って質問しています。さらに質問で多少誤字を入れています。

Maicrosoft Bingは出典書いてくれるのが素晴らしいが制限も多い



Maicrosoft Bingはマイクロソフトが提供するだけあって、「Webブラウザー マイクロソフトエッジを導入して」「スマホにもBingを入れて」などの導入が求められます。ここまでやりましたが、順番待ちで3日間待たされました。

で、このBingだと出典を書いてくれるのがとても助かります。

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今度は、「2019年の豚・牛・馬の国内からでてくる原皮の総量を教えてください。」という質問をしてみました。

こちらのBingでは出典元となった統計ページも書いてくれています。が、こちらの出典元の統計ページには牛馬豚の屠畜数は書いていますが、原皮の出荷量なりは一切書かれていません。回答にも「ただし、これらの数値は飼養頭数や屠畜頭数をもとにした推計値であり、実際の原皮総量とは異なる場合があります。また、馬に関しては重種馬と軽種馬に分けて考える必要があるかもしれません。」と書いてあります。これはものすごく良心的です。

見てみたい数字がどこにあるか、というのを知るためには便利なツールだと思います。ただ、正確さが判断しにくいので、データの確認は必須です。
blogタイトル5つあげてみて

「チャットAIについてのblogを書きます。関連事項は次のとおりです。これを踏まえてblogタイトルで適正なものを5つほど出してください。革素材、サステナブル、チャットAI、chatgptとbing」

今回のblog書く上でタイトルをあげてもらいました。

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あー、これは面白いですな。
革素材、サステナブル、チャットAI、ChatgptとBing、と4つの要素を入れてみたのですが、サステナブルは形容詞として認識しています。ネット上ではサステナブル、という単語は形容詞として使われているケースが圧倒的に多いからですね。「ChatGPTとBing」は共に名詞として認識しています。

その一方で、「革素材」「サステナブル」に対して「チャットAI」「ChatgptとBing」では絡み合った事例がネット上に存在しないためか、うまく絡めることができなかったようです。

結果的に、「チャットAIに対するblog」に対するタイトル付けとなっていますね。AI的には、「革素材」「サステナブル」という単語よりも「チャットAI」という単語に対する事例が多かったのでそちらを最優先にしたんでしょうな。

5つあげてくれたアイディアの中では、「革素材とサステナブルなチャットAIの可能性」が一番それっぽいです。でもサステナブルは形容詞として革素材に対してかかるものであり、チャットAIに対しては変なつながりとなっています。


以前のイラストAIでもそうでしたが、AIは所詮道具でしかありません。

100点な完璧を求めるよりも、「30点や50点や80点でもいいから、どんどん出して!それをこちらでアレンジするから!」という使い方が便利かな、と思います。

今回のblogタイトルで言うなら、「サステナブルな革素材とチャットAIの可能性」あたりがしっくり来るかな、と思います。この最後の10点アップは人間がやったほうがやはり今の時点では手軽だと思います(半年後はひっくり返っているとは思いますが)。

Bingは便利なのだが制限が増えてきている

2023年2月21日の時点で突然、「1日の質問は50回までね!1回の質問のやり取りは5回まで」などの制限を打ち出してきました。

新Bingのチャットは1回5ターンまで。1日のチャット数も制限 - Impress Watch

まぁ、Bingはこの制限よりも、「最初に登録したら順番待ち3日間」の制限が一番きつく感じます。

AIが得意なこと苦手なこと

さて、AIはこういうことができる!苦手だ!という前に、使い手である人間が「きちんとした文章を書く」「AI様にわかってもらえるように細かく書いていく」ことが現状では大事です。多分これが大前提、かつ、一番大事だろうな、と思います。

その上でAIが得意なこと苦手なこととしては・・・

ネタ出し・アイディア出し

上にも書いたように、文章のアイディアを考えつかせるのには便利なツールです。下は前回のblogのタイトルを考えてもらったものです。


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3個ほどあげてもらって、その後「10個あげて」といったら5個ほどあげて、「これで合計10個だよね!」と言ってくるなぁ。いやいや、合計8個やろ、それ。

一般的な知識

下はヴィーガンレザーについて訊いてみました。

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一般的なヴィーガンレザーに関するネット記事から構成されているように思えます。こういうまとめとしてはBingは便利だな、と思います。

ただ、当たり前のことですが、ネットに書いてあることからしか答えられない、というのが最大の欠点でもあります。本や新聞などのオフラインに書いてある情報は拾ってこれませんね。

ここらへんが致命傷ではあります。手持ちの電子書籍を読みこんでくれると助かるんですが、多分もう1年ほどかかりそうですね。それができたらものすごく楽になるんですけどねぇ、私の動き方的には。

統計ページ

統計ページから数字を拾ってくるのは得意です。ただ、必ず元の出典ページで数字の裏取りをしないと大やけどしそうではあります。「それじゃ使えないじゃん!」と思うかもしれませんが、「どこにその数字があるか」を教えてくれるだけでも大変助かるんですよ。

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上は革靴の輸出入の金額を知りたい、と聞いています。で、JLIAの統計ページから情報をまとめてくれています。JLIAの統計ページ、ほんとに意味あるんですが、そこからデータ探すのが大変なので、ある程度の場所を教えてくれるのは大変助かります。


今回の結論は、「AIだって所詮道具」「道具を使える人はさらに使えるようになる。苦手意識持つ人はさらに苦手になる」


2か月前に書いたblogと同じオチです。

所詮は道具ですので、これをどう使うかは人間次第です。あとまぁ、100%信用しきれません。裏取り調査をしなくてはいけませんが、「どこを調べたら良いか」がわかるだけでも便利な人には大変便利かと思います。

文を書く人やイラストを書く人、などに限らず、とりあえずは触ってみておいて損はないツールだと思います。

ムラキの今後予定



このイベントに客寄せパンダとしてでています。AIやYouTube見ても書いていない・教えてくれない・体験できない、「摩擦と固定」に関する話をします。体験してもらいます。



今回ご紹介したTLAやレザーと革の表記問題などを喋りつつ触ってもらいつつ、3月3日(金)に大阪で行います。日本最大級のタンナー、山陽さんの偉い人に来てもらって喋ってもらいます。

プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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