欧米ブランドに「負けていないぞ!」

April 26, 2023

【村木るいさん連載】タンナーに革製作を依頼した人のセミナーをやりつつ、「最悪は想定を乗り越えるからこそ最悪だ」と実感した話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回はタンナーに革製作を依頼した人のセミナーをやりつつ、「最悪は想定を乗り越えるからこそ最悪だ」と実感した話。村木さん主催セミナー(トークイベント)で、千葉県の獣害対策により生じた原皮を利活用している事業者が登壇。サステナブルな革づくりの現状を村木さんがまとめました。
また、オンラインイベントの運営についても紹介されていますので、自社で企画する際や担当になった場合の参考になさってください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「失敗の話を嬉々として話すのは関西人だけですよ」と言われた村木です。

関東では、「失敗話をすると自分の評価が下がると考えられるのでわざわざ失敗話をしたがらない」と言われましたわ。失敗のほうが学べることは多いのになぁ。あと、「自分じゃない失敗の話」って聞いていて面白いですしね!

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さて、今回の話は、
・セミナーの内容「鹿・イノシシを獣害対策から経済の円環に入れるチバレザーの面白さ」
・先日行ったオンラインセミナーのやり方とトラブル・対応策
というものです。

オチを先に話しておくと、
「オンラインセミナーも革づくりもトラブルの原因追求が一番たいへん」
というものです。

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獣害対策のイノシシや鹿から作られているチバレザー


今回、千葉県の獣害対策から原皮を引っ張り、タンナーで革を作っている1008(センノハ)株式会社さんを招いてセミナーを行いました。




獣害と害獣の違い

獣害は、「イノシシやシカ、クマ、サル、ネズミなどの、野生動物によって起こる害のこと 」。


害獣(がいじゅう)は、「人間活動に害をもたらす哺乳類に属する動物一般をさす言葉である。人間の多い地域では、家畜などの飼育動物以外はほとんどがこれに含まれる可能性がある」。


獣害対策、害獣駆除、という言葉は正しいわけです。
ですが、獣害駆除、というのは言葉的にちょっと違うわけです。

チバレザーはこの獣害対策として狩られたイノシシや鹿を千葉の解体場で解体し、そこから出てきた原皮を姫路のタンナーさんで作ってもらっています。

セミナーで「こんな人に聞いてほしい!」ターゲット層を設定

第一部は作り手。革でなにか作っている人・商売している人。獣害の鹿やイノシシはどういう革?自分のものづくりに応用できるかな?と思っている人向けです。

第二部は第一部の上級バージョン。ならびに、「自分でタンナーに頼んだら安く済むんちゃうか!」と思っている人。獣害駆除で肉で利益出ないから革で利益だそう、と思っている人。

結論から言っておきますが、「タンナーさんがいても革づくりはめちゃくちゃ大変!」「お金が溶ける!」。

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土に還る、のが特徴のチバレザー

獣害対策、としてイノシシや鹿が狩られ、肉を使い、皮も有効活用、というのがチバレザーのコンセプトです。その代償、というか、特徴として、必ず傷があります。ダニ傷や喧嘩傷、ひっかき傷、など確実に傷があります。まぁ、牛、豚なりの肥育農家で育てられていない動物である以上は傷があって当然です。ですので、「傷がない革がいい!」といっても不可能です。

で、ジビエでは当たり前の特徴以外に、この革の特徴として「土に還る」が生産のコンセプトとなっています。

使っているタンニンの薬剤は土に還ります。さらに仕上げ加工もしていませんので、汚れも吸いやすいです。それが嫌な人はご自身でレザーラッカーなりで仕上げ加工をしてください、というものです。

第一部は肉を食べよう!という話が半分。そうしないと革が出ない、というオチ


 


今回のセミナーはオンラインとオフラインの両方で行いました。


オンラインの参加者は北は北海道、南は高知県までご参加していただきました。ご参加いただいた皆様、トラブルが多かったのにほんとにありがとうございました!

出席者は、作り手さんや、ハンターさん、地方行政の方などもおられ、多彩なメンツでした。その各々に興味ありそうな話をしてもらいました。くわしくは上のブログをまた見ておいてください。

第一部は革の特徴や「イノシシや鹿の肉食ってくれないと革は出てこないんだよ!」という話を重点的にしてもらいました。前半20分は肉の話ばっかりです。下の画像はプロジェクタ資料です。

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ちょうど、TLA(Thinking Leather Action)に通ずるところのある熱い内容でした。


第二部は「タンナーで革づくりってこんなに大変!」という技術、じゃなくて、依頼する立場の苦労の話

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「解体場とツテができて原皮が手に入ってタンナーに持っていったら革は作れるのか?」「革屋飛ばして金積んでタンナーと付き合えば、安く革は手に入るのか?」というような意地悪な質問をしました。

結論から言うと「おすすめできない」というものでした。だろうなぁ・・・。

不確定要素が多すぎるのです。
革は。

下の動画で彼の失敗話をしてもらっています。



 


失敗しないと経験値は積めない

専門家だからこそ、失敗をする。新しいことをするなら失敗をして当然

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上の動画でも言われていますが、8~9月に仕込んだ革は革の吟面(革の上部部分。一番頑丈)が溶けてしまったそうです。

この場合の原因ですが、複数考えられます。
・タンナーの技術なのか、薬品なのか
・元の原皮の保存方法か
・原皮を取る解体の方法なのか
・屠畜した時期なのか
・イノシシや鹿がどれだけの栄養状態にあったのか

これらすべての原因をひとつひとつ調べたり、対照実験をするしかありません。

対照実験>ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験。 除いたときと除かないときの結果を比較する。 医療や統計学では対照試験ともいう。 コントロール実験。

失敗のお金は誰が払うか?

失敗はマイナス、ではなく、「同じの条件下でやれば同じ失敗をするのか」まで調べなきゃいけないわけです。では、その費用は誰が負担するのでしょうか?もちろん「革を依頼した人間」です。

さらには、各々の専門工程のどこに問題があるのか、を調べなきゃいけません。
タンナーさんも解体場の人も誰も他業種のところにまでいって原因追求なんてしてくれません。
電話して怒鳴られたり、実際に行って説明するのは誰でしょうか?

もちろん、「革を依頼した人間」です。 これが従来では革屋さんがやる仕事なわけです。

労力を提供して、お金を払うのも「革を依頼した人間」です。

失敗したからお金払わない、は駄目なわけです。依頼者はお金を払って、「あぁ、専門家がこうやれば失敗するんだ。お願いしている専門家さん、失敗を次に活かしてね!お金は払うから」と言わなきゃいけないわけです。

ちなみに、前述の8~9月の革づくりがうまくいかなかったのは「水温が上がりすぎるため、8.~9月は仕込まない」という結論になったそうです。

失敗はほかでも生かせるのか?

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専門家は失敗を積んだならより良くなるし、ほかでも生かせるのか、というとケースバイケースです。

例えば、上記のセミナー中に北海道の方が、「水温高いならば北海道でタンナーを作れば問題ないのだろうか?」というとても良い質問をいただきました。

これも本編で言っていたのですが、「多分、今度は冬には寒すぎるから違うトラブルが起きる」とのことです。過去に聞いた話では、「姫路の革を作る製法は姫路のタンナーだからできる。例えば違う地域の川の水を使うと同じレシピでも作れなかった」ということもあるそうです。

違う地域に行くと今度は違う失敗があります。例えば、この革などはあくまで「千葉の地域で捕れた鹿やイノシシの原皮から作った」革でしかありません。

捕獲した地域や時期によっても微妙に皮は変わり、革に影響します。

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だから、このチバレザーを鞣しているタンナーさんが習得しているのはあくまで「千葉の特定地域の皮を鞣して革にする技法」です。もちろん埼玉なり高知の鹿やイノシシでもうまくできるかもしれませんが、それを知るためには一度作らないといけません。

設備がでかいので、量産のことを考えると20~30枚を一気に仕込まないと同じデータは取れません。「練習で1枚鞣してよ!」といってうまくできても、20~30枚仕込むと問題が発生しかねません。これが革づくりの恐ろしいところです。

第一部、第二部はまた後日お知らせします。下のリンクをご覧ください。



ここからはネットでどう配信するか。環境はどういうものだったか。実際にどう失敗してリカバリーしたか、を載せていきます。興味ない人は全くないでしょうし、興味ある人は以下の箇条書きでもご理解いただけると思います。

配信はこういう環境でやろうとした

・マイクロソフトTeamsの会議機能+ノートパソコンのOBSで配信
・カメラはビデオカメラをノートパソコンに接続。OBS経由で取り込み予定
・音声はボイスレコーダーを保険として録画しておく
・ビデオカメラには外部マイクを接続
・事前募集はこくちーずで作成。支払いは銀行振り込みか、paypalによるクレジットカード支払い
 ※こくちーず、便利ですよ、ほんとに。
・保険and後日販売用にビデオカメラで全体撮影
・私自身MVNOを2つ契約。それぞれでテザリング予定。さらには会場となるレザークラフトフェニックスのwifiも保険として使う予定
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実際にあったトラブル

・会場となるフェニックスの教室スペースだが、docomoが恐ろしく回線速度が遅い。300kpsなんて数字久々に見た
・手持ちのMVNOの1つはdocomoだが、他方はau。こちらは80MBなり速度があるので、配信大丈夫だろ!と思ったら、テザリングしたら速度が10MBなどに低速になってしまう。この時点で真っ青
・近くにいた知人にグローバルwifiを端末ごと借りたが、これもdocomo回線なのか、配信場所だけ速度がものすごく遅い
・セミナー開始の時間が迫る どうする!?

対処法

・スマホのau回線は爆速だったので、最終的には2時間のセミナー中、ずっとスマホを片手で保持してプルプル震えながら参加
・スマホをスタンドで立てかけていたら、途中で「バッテリー20%ですよ!」と
・手持ちのPD充電対応のモバイルバッテリーをPD充電可能なタイプCケーブルで充電。おかげで20%以下にはならずに配信を続けられた
・オンライン参加者には謝罪して、撮影していた動画を無料でプレゼント、と言っておきました

反省点と良かった点

・定額で多人数・事前徴収の必要があるセミナーは、こくちーずの有料プランで参加料を回収代行依頼したほうがいいな。依頼しておくと一覧で「この人は払った」「払っていない」が一目瞭然。paypal経由でクレジットカード振込も可能。
 ※こくちーずは「キャンセル待ち」や参加者csvダウンロードが基本機能としてあるので、とても楽です。


・まさか4つの回線を使っても全部死亡寸前とは思わなかった。想定が甘かったな、と。今どき都会のど真ん中であんなにdocomo回線が通じづらい場所があったんだなぁ
・スマホ用の三脚買っておこう
・PD対応のバッテリーとケーブルなかったら多分止まっていたな


・ウェビナー専門ツールをあきらめて月額サブスクで契約するべきか?


・ビデオカメラ用意しておいてほんとに良かった。カメラと録音機材はどれだけ持っていても無駄にならない。高い機材一つよりも信頼おける型落ち品のカメラ2つのほうが安心感あります。(私が使っているSONYのビデオカメラ、多分8年ほど前のやつです)


最悪を想定していてもそれを乗り越えてくるのが最悪

配信話については興味がない人は全くないと思います。ですが、技術の話を聞いてほしいわけじゃありません。

「最悪に備えていたが、そんなものはあっさり乗り越えてくるのが最悪」「それでも色々な対抗策用意していたのでなんとかなった」=「卵を一つのかごに盛るな」ということです。


これはオンラインの話に限らずです。最初に話したチバレザーで走り回っている1008(センノハ)株式会社さんも同じです。失敗なんて起こり得るんです、必ず。その時に走り回るか、手持ちの秘密道具なり、人の縁を使えるか、です。


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なにかひとつの選択肢にすがりつくのではなく、いつでも最悪を考えて、選択肢を複数用意しておかないといけない。それでも最終的には覚悟決めたら大概のトラブルは解決できるよ、という話でした。

今後予定(&お知らせ)


●4/28(金) 「フェニックスナイト」
 「レザークラフトフェニックス」(大阪・奥なんば)で月末恒例の夜間延長営業「フェニックスナイト」を開催(20時まで営業)。革の無料セミナーなど行います。



5/25(木) 「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」
「東京レザーフェア」と連動して行う「浅草エーラウンド」の会場内で「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」を予定しています。毎年5月の恒例になってきている"ぷち革日和"です。

午前は上記の千葉レザーさんを招いて大阪でやったのと同じセミナーを開催予定です。午後は大阪の古瀬シュースティリスタ研究会の古瀬氏を招いての靴の専門セミナーをとりまとめしています。


5/26(金)~5/27(土) 「本日は革日和♪ in 東京」
「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」の翌日は会場を変更して、「本日は革日和♪ in 東京」を開催予定です。今回も事前予約制(有料・お土産あり)です。

●最近メールマガジンのやり方を変えました。
何を言っているやら、と思いますが、写真使ったり、リンク繋いだり、と考えるとこのほうがいいかな、と思いまして。これで遠慮なく写真とか使えます。古いネット利用者なのでメール容量が大きくなるのには罪悪感感じますので。メールマガジンの冒頭と末尾にはそこだけでしか書いていない雑談をちょっとだけ書いています。


プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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