欧米ブランドに「負けていないぞ!」

May 31, 2023

【村木るいさん連載】オンラインとリアルは相互に補う、という話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。

今回はオンラインとリアルは相互に補う、という話。コロナ禍による変化と、オンライン、オフラインの特長を生かしたワークスタイル、レザーイベントの運営の今を村木さんの視点でリアルに提示します。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「イベント終わるとしばらくはぐったり」ムラキです。

先日、東京レザーフェアにあわせてイベントを3日間行ってきました。

無事に終わりましたが、コロナ禍による強制的な10年の進化は色々なところで影響を及ぼしています。
コロナだからテレワーク!オンライン!と思われがちですが、最近は「やっぱりオンラインは限界がある」とも思います。

今回は下記について報告や説明をします。

・コロナ禍で急激に出てきたオンラインシステムの昨今

・オンライン飲み会・テレワークにおける新人教育

・リアルイベントの減少

・ではリアルイベントは駄目なのか?

結論としては、「革やものづくり、なんてのは実際に触らなきゃわからない情報が多い」「だから、リアルとオンライン、情報で補完しあわなきゃいけない」、です。

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コロナ禍で10年は時代が強制的に進んだ


コロナですが、良いことも悪いことも10年の時間は強制的に進んだ、と思います。実際問題、革業界でも各種会社で「高齢の社長が引退された」、「高齢のじいちゃん職人がやめた」「重要な内職のおばちゃんがやめてしまった」などの悲鳴を聞きました。

コロナ禍で出てきたオンラインシステムは今見返すとどうなっているか、ということを簡単に書いていこうと思います。

オンライン飲み会、どうだった?

コロナの初期に出てきたオンライン飲み会を何度か試してみました。で、現在はさっぱり行っていません。

実際にやってみてわかりましたが、オンライン飲み会ですと「あ、私は喋りすぎたから次はあなたがしゃべる番だね!」「相手がしゃべりたそうだ」などの些細な情報が拾いづらい。これが致命傷でした。

また、「こいつの話くどいから、私は違う人と話そう」ということもできないのも致命傷だったように思えます。

ただ、オンライン飲み会やオンライン会議が増えたことにより、「場を管理する管理者を任命しないといけない」「管理者はトップの人じゃない方がいい」「たとえトップでも管理者の言うことは聞く」などのルールを守ろう、という暗黙のルールはできたように思えます。この暗黙のルールにより、これ以降のオンライン会議のルール作りは急速に広まり、高齢のえらい方でも参加する空気が形成されたように思えます。

実際、「60歳越えて高校の同窓会をオンラインをやったよ。翌週、その中で仲のよかった友達5人でオンライン飲み会したよ!」や、「名古屋、兵庫、鹿児島の機械屋同士でオンライン会議したよ」など、今までそういうことを一切拒否していた年代が使うようになったのには驚いたものです。

テレワーク時代の新人教育や社員のコミュニケーション

コロナ最初期の時の新入社員や新入学生はほんとに大変でした。特に学生さんは入学、即座に休校でオンライン、ということでしたので現場の先生方の苦労を考えるとほんとにお疲れ様です、と心から言いたくなります。

このドタバタで被害も大きかったのですが、このコロナがなかった場合、学校や仕事場におけるオンライン化・テレワーク化は不可能だったんじゃないかな、とすら思っています。

若手に聞いたところ、IT業界などではすでに新人などは「テレワーク化されていない職場では働きたくない」という声も出てきているとか。

私のような若手じゃない人間からしたら「じゃぁ今の時代若手は楽だな!」「おじさんの若いころはなぁ・・・」と愚痴ろうかとも思ったのですが、先日読んだ本や実際の若手に話を聞くとそうでもないようです。


上記は、「ゆるい職場」という 今年頭に出た書籍の著者による記事です。文中で著書の8割はまとめられているように思えます。

内容をまとめると、

・現代はコロナによるテレワーク増加や、人手不足により間違いなく若い人にとって働きやすい環境になっている

・働き方改革や法整備によりブラック企業、と呼ばれる環境も減っている。残業も減っている

・その一方で残業減少により給与が減っているのも事実

・これらにより、若手は職場が『ゆるい』と感じており、自分の若い時代のキャリアをここに使っていいのか、と不安に思う

というようなもの。

また、テレワークが増えたことによりOJT(オンザジョブトレーニング=実際の仕事を通じて指導する)がやりづらくなっているとか。上司も上司で若手がどこで躓いているかを判別しづらい。若手も「これを上司に言ってもいいのだろうか」というので悩みが聞きづらいとか。

多分、今現在は失われた30年からの脱却をする過渡期であり、若手も上司も新しい環境に慣れる時期なんだと思います。オンラインですべてを終わらせるには多分まだ5年から10年くらいは慣れる時間が必要です。同時に「そんなの慣れられない!」という人間が出て行くのにもう10年かかるかな、と。

コロナが一段落ついた今、いろいろな企業、事業者を見ていて思うのは、「コロナの最中に将来のために何かをやっている会社は、落ち着いた今伸びているな」ということ。

今の時代は、コロナ前の成功体験なりにすがりつくのではなく、10年進んだ未来に適合しないと生き残れないんだろうな、個人も会社も、とは思います。

オンラインは10年は進んだと思う。では、リアルは?


上記にあげたのは、「コロナになり人間もオンラインに対応できるようになった」という一例として書いています。その一方でリアルはどうなったでしょうか?

リアル展示会が消えていっている

この数年で驚いたことはたくさんありますが、印象的だったのは下記の事例です。

●高級時計の展示会 バーゼルワールドが中止





イベント出展社にしたら、コロナで強制的に「オフラインイベントに出なかったらどうなるか」「その浮いたお金をネット広告に費やしたらどうなるか」という実験ができてしまったわけです。ほんとに10年進んだなぁ、世界は。そして「リアルイベントに多大なお金でなくていいんじゃね?」「やるなら自分たちでやればいいんじゃね?」と気づいてしまったわけです。

これらの商材は五感のどれに訴えているのか? リアルイベントはだめなのか?

ゲームなどはゲーム実況やeスポーツがより知られるようになったから、というのはよくわかります。ゲームは五感のうち、視覚と聴覚に頼り切っている媒体ですので、オンラインと相性が良すぎます。

他方、高級時計も五感のうち、視覚情報が強すぎました。持ったときの質感なども重要だったのですが、やはり消費者的には視覚情報が第一義だったようで。

革は触らないとわからない情報が多すぎる

先日行った「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」イベント報告

「東京レザーフェア」会場9Fにて行われた「浅草エーラウンド」にて、「本日は革日和♪」としてセミナーを二つ取りまとめました。

一つは、大阪の靴の型紙制作の古瀬さんを招いての実演を見学するセミナー。他方は、当ブログ4月更新分でお伝えした千葉レザーの話。




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両セミナーは「実際に見る」「実際に触る」のがとても重要でした。


「本日は革日和♪ in 東京・八広」
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「東京レザーフェア」の会期が木曜・金曜なので、「本日は革日和♪」は金曜・土曜に行いました。


コロナになり来場者の緊急連絡先を確保しておかないといけない、費用捻出のために事前予約制かつ有料化(入場料1,000円で2,5時間滞在可能)。1日2,5時間✕3枠✕2日、という設定ですね。

トータルで来場者は2日で60人くらいです。

「わずか60人?」と思われるかもしれませんが、入場料1,000円、かつ、事前予約までしてきた60人以上もの方が来場してくださいました。つくり手対象のイベントですので、そもそもの市場規模も小さいですしね。

お金払わない1万人よりもお金払う100人のほうが大事

このイベント、出展料は私個人が運営していますのでそれほど高くないです。ただ、来場者はせいぜい数十人くらいしか呼べません。そもそも数百人来たらイベントが破綻します。

出展者の中にはほぼマンツーマンで1時間以上喋っているだけ、という人もいます。私などは客寄せパンダ的に来場者に20分くらいで「人に話したくなる革の話」や「固定と摩擦」の話をしていたくらいです。


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これらの話などをオンライン動画であげたらそりゃ1年やれば数千再生なり稼げるかもしれません。ただし、それは「無料で、単なる作業しながら見ているだけ」の数千回です。

それよりも、確実にお金を払ってきちんと聞いてくださる10人のほうが遥かに価値があります。そして、その10人は1,000円払ってきちんと聞いてくださっているわけです。

革は丁寧な接客を心がけないと売れないし、革素材と食材は似ている

革素材は金属や布に近いと思われますが、個人的には食材に近いと思います。触感や匂い、聴覚、なども使って判断するわけですから。

どれだけきれいな写真を使って説明したり、小綺麗なお兄ちゃんが商品説明したとしても、それは見た目と機能性しかアピールできません。革素材は触らないとわからない情報が多すぎます。

オンラインが悪いわけではない。リアルとオンライン、両方で補わないといけない


例えば、インフルエンサーなりユーチューバーなりに仕事を依頼すると「登録者数✕~~円」なりが要求されます。ですが、この登録者数の「質」がさっぱりわかりません。お金で買った登録者かもしれませんし、登録しているだけで見てくれない人かもしれない。更には無料だから見ているだけの人かもしれないわけで。

今回、革日和の出展者にしても動画なりSNSをやっている人は多いです。ですが、漠然とオンラインだけでやっていても登録者数も増えませんし、お金も儲かりません。

リアルイベントで見てもらって、そこから登録してもらったり。逆に、オンラインでSNSや動画を見て、そこからリアルイベントに来てもらう。そのうえでお金を払ってもらう。

現状の登録者数を稼いでお金儲けする、というシステムはどこまでいってもYouTube=グーグル、という神の手のひらの上です。彼らの都合一発で売上などぶっ飛んでしまいます。更にはどんどんと競争相手は増えていっています。それがわかっているからこそ、ユーチューバーさんたちも数年前から準備をしてきていました。今から、オンラインの数字を増やすことに価値を見出してももう遅いわけで。




数を稼ぐよりもきちんと革は触ってもらって、信頼してもらって、お金を稼がなきゃいけないわけです。
鞄でも靴でも革素材でも、革の販売は、売り手の信頼を売る商売だな、と思うわけですわ。

実際に革を触ってもらいたい、ムラキの今後予定




プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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