欧米ブランドに「負けていないぞ!」

July 31, 2024

【村木るいさん連載】魚を鞣すオーシャンレザー社の見学と獣害革づくりに大事な話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。

今回は、高知に出かけ、魚を鞣すオーシャンレザー社を見学した話と、獣害革づくりに大事な話について。SDGsの観点から未利用皮革が注目されていますが、農林業・漁業への被害を軽減すべく、有害捕獲された個体の利活用が広がりをみせています。そんな新しい革づくりについて村木さんが独自の視点でレポート! ぜひ、ご覧ください。

*   *   *

通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


*   *   *

毎度です!「灼熱の博多でした」ムラキです!!

今月7月は、「本日は革日和♪」を福岡で行ってきました。やはり違う地域で実際に革を触ってもらうのは大事なことです。

さて、今月は、

・高知のオーシャンレザー社は自社で鞣しから製品づくりまで行う
・地方で獣害駆除から革を作れば利益出る!と思う人に欠けている視点

という話です。オチはいつものごとく「革なんて所詮食肉の副産業」という結論となりますわ~。
2407jlia32.jpg
2407jlia14.jpg

革の匂いがするならばどこまでも

「高知行かない?オーシャンレザーというところが水産加工会社で自分で鞣しまでしているんだよ。うちの染料買ってくれているんだけど一度見てみたいな、と。ムラキさん、どうせ革鞣ししているならみたいでしょ?」と千葉の染料屋さんから2週間前に声をかけられ、間もなく当日。朝10時に伊丹空港で合流。そこから車で明石海峡突破~淡路SAで休憩~徳島ラーメン~高知到着。すでに14時過ぎでしたわ。

高知のオーシャンレザー社探訪

鞣しの工場現場は下の動画にまとめてみました。

併設している製品工房で製品づくりから販売まで

2407jlia11.jpg

動画でインタビューもしているのですが、当ブログでは、動画でお伝えしていないことをまとめます。社長の高橋さんはまだ若く、その年齢でこれだけの社内設備・・・なぜ鞣しまでやろうと思ったのでしょうか?

「銀行からお金借りたり、高知の若手支援のビジネス支援助成金なども使っていますよ。この土地に住んでいて釣りが好きなので、釣った魚で革をつくれないかな?と思ったんですよ。で、数年前にレザークラフトフェニックス(大阪・なんば)の3Fで、千葉の染料屋さん呼んで講習会していたじゃないですか。そのときに染色の相談に行ったんです。ムラキさん、そのときにいらっしゃいましたよ」(高橋社長)
2407jlia10.jpg

(ムラキさんは)人の名前と顔覚えられないで有名なので。鞣しで苦労多かったでしょう?

「水に住んでいる生き物ってやはり皮膚がちょっとしたことで反応しちゃうんですよね。pHの管理もそうですが、熱などでもあっという間に失敗します。例えば、アブラボウズという魚は、途中で溶けてしまいました」(高橋社長)


繊細だなぁ、魚は。牛や鹿などを鞣す設備より格段に小さくて済むし、初期投資も少なくて済むけど、こんな簡単に溶けるんだなぁ。pHもそうだけど、この夏の暑さでは水温があっというまに上がるだろうから大変ですね?

「そうなんですよね。でも、今まで50種以上の魚を鞣してきたので、この種類はこの傾向だなというパターンはつかめました。脂が多いか少ないか、とか、水温が高いor低いところで生きてきたか、などで大別できます。ただ、これらは50種の魚を鞣して失敗を繰り返したからこそ得た経験則ですね」(高橋社長)

マグロと鯛では全然違うでしょうし。鞣す魚はどうやって入手しているんでしょう?

「個人的に釣った魚だけでは無理です。父が水産加工をしているので、魚を刺し身状態にして寿司チェーンに納品する場合、その際に剥いだ皮を使用しています。養殖などはやはり品質が一定になりますので鞣しも安定的です。ブリ・サーモン・鯛などは鞣すことも多いですね」(高橋社長)

毛抜でプチプチと

2407jlia13.jpg

寿司チェーンへの納入分というと、かなりの量になりそう。それだけたくさんのお客さんが食べているということですよね。ところで、このプチプチと抜いているのは?

「鱗の根本部分に硬い繊維層が残るので、それをプチプチと毛抜で取っています。こうしないと手触りがざらつきますので」(高橋社長)

牛や豚でも毛根部分が固く残るからなぁ。これ薬品で溶かそうと思うと魚皮ならば溶けちゃいそうだものなぁ。でも、これってめちゃくちゃマメな作業でしょ?

「そうですね。革1枚を手で触ってざらつく場所をプチプチと抜いていきます」(高橋社長)

製品づくりも手がけている

2407jlia08.jpg

「鞣した革ができた、ところで終わりではなく、その革をどう売るか、を考えなきゃいけませんので、製品づくりもしています。魚の革は小さいので小物が中心ですね。すしチーンとのコラボレーションも取り組んでいます。キーホルダーなので小さな部分も有効活用できますし」(高橋社長)
2407jlia30.jpg

寿司チェーンとの協業でキーホルダーを販売するとは! 革で製品をつくるよりも、その製品を売るほうが10倍難しいし、売れる品を考えるのはもう10倍難しいのに。革好きな人にアピールじゃなくて、寿司という魚が好きな市場に売り込んでいるのがほんとうにスゴイ!! 「俺の釣った魚を記念としてこれで財布つくって!」という釣り好きユーザーの声は?

「たまにあります。その際には魚1匹分の皮が必要です。これまでの経験があるので、失敗しませんが、やはり失敗を避けるために2枚はほしいです。また、50枚鞣すのも2枚だけ鞣すのも手間は同じですので、2枚だけだから安いよってことはありません。そんな財布をはじめ、製品づくりまでカバーしていることは弊社の強みです。情報発信はインスタグラムに一番力入れています。YouTubeでは(下の動画のように)魚の鞣し工程も載せています」(高橋社長)
今回のオーシャンレザーさんは、初期投資は小さいもので済んでいるので安く済んでいます。それでも数千万円はかかっています。また、水産加工場がそばにある、というのがものすごく強いです。地方の鹿やイノシシで大変なのは屠畜場が存在しないことです。屠畜場があればまだ安定性が高まります。

天然の鹿やイノシシは野山を駆け巡りますので傷があります。これが革にした際に必ず目立ちます。日本の消費者は傷がないものに慣れすぎていますので、「天然の鹿やイノシシはこういう傷があるものなんです!」と納得してもらわないといけません。

そしてなによりも、「皮を革にするのがスタート地点」であり、その時点ではお金になりません。ここから製品を作って、それが売れて初めて「お金」になるわけです。

革製品をつくるのもプロの仕事ですし、革製品を売るのもプロの仕事です。これがものすごく大変です。物を作るよりも、「安定的に売るほうが難しい」くらいです。

地方から「獣害駆除でジビエ肉取れるけどあまり利益にならねぇから革にしたら儲かるんじゃね?」「地元で雇用生み出せるんじゃね?」「革製品高いから、捨てている皮を革にして売ったら儲かるんじゃね?」という相談が来ますが、上記の点をクリアしないと利益確保は難しいです。特に"売る"行為はほんとうに難しいです。

身も蓋もないですが、革はあくまで食肉産業の副産物です。食肉で利益を出して、その残り物である皮を使うのが皮革業界です。食肉で利益が出ていない場合、皮を革にして利益補填をするのは難しいですわ。

福岡で「本日は革日和♪」開催

2407jlia21.jpg
2407jlia28.jpg
1日2枠で2日4開催、各時間20名のご来場がありました。懇親会、という名の飲み会は30名(まぁ出店者が12名ほどですが)参加となりました。

参加者の皆さんからお聞きした感想としては、「事前予約必須だし、お金も1,500円かかるし、時間区切られているが、来て本当に良かった」「飲み会は1人ではじめて参加で初めて会う人ばかりだったけど出て良かった!」というものでした。
2407jlia26.jpg

事前に、参加者にはライングループを作ったり、質問を聞いておき、「この質問ならこの人に話してごらん」などの案内も行いました。ムラキさんはお金払う人には優しい!がモットーでので。

今後のムラキ予定

8月30日 「フェニックスナイト」
10月4日・5日 「革日和ぷち」(北海道・札幌)
10月18日~20日 「浅草エーラウンド」(東京・浅草)
11月8日~10日 「オーラウンド」(大阪・西成周辺)

「レザークラフトフェニックス」(大阪・なんば)では、毎月最終金曜は、20時までの延長営業をイベント化。その際にセミナー(1時間/参加無料/予約制)をムラキがやっています。8月は接着剤の話です。また、9月末の「ジャパンレザーアワード応募作品展示イベント」では毎年、なにかしらのかたちで参加しています。今年度は・・・正式発表をお待ちください!

プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

最近のブログ記事

カテゴリー

月間アーカイブ

rss
facebook witter

このページの一番上へ