欧米ブランドに「負けていないぞ!」

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」 の記事

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、映画「ある精肉店のはなし」から見る肉とタイコと革の関わりと、タンナー見学の話。皮革産業、ジャパンレザーについて、ユーザーの皆さまに知っていただくためのさまざまな取り組みを村木さんの視点で語ります。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどはリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「食べ物と宗教と戦争の歴史を見るのは趣味」のムラキです。

世界史や日本史のテストはほんとに悪かったんですが、食べ物宗教戦争の歴史を見るのは好きだったのがまさかこうやって役立つとはなぁ。つくづく人生は飽きないな。

昨年に続き今年も、「ある精肉店のはなし」という映画を革のイベントで上映会をします。今回は東京のみならず大阪でもやります。

・肉屋の映画ってどんなもの? それが革と関係あるの?
・映画で屠畜を見た感想はどういうものか?
・革を知ってもらうタンナーの取り組み

などを紹介します。

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秋はイベント多くてシンドイ

なんで革のイベントは秋口に多いんだよ、とグチグチと言っていたところ「春先だとこれから暑くなる季節で革が不釣り合い」「秋口だとこれから寒くなるから革製品の需要が高くなるからでしょ」と。正論なんて聞きたくない!と泣きました。

個人的に革日和やムラキとして関わるイベントは・・・

9月30日(土)・10月1日(日)「ジャパンレザーアワード2023 応募作品展」、10月20日(金)~22日(日)「浅草エーラウンド」(映画上映+セミナー)、10月27日(金)「フェニックスナイト」(大阪・レザークラフトフェニックス 毎月最終週金曜 夜間延長営業20時まで)、11月4日(土)~5日(日)「オーラウンド」(大阪/映画上映+セミナー)、11月18日(土)「タンナー見学バスツアー」、1月18日(金)・19日(日)「本日は革日和♪」(大阪・奥なんば 大国町周辺)

ここらが決まっている内容。この合間合間に手作りイベントを視察して挨拶回りの営業活動など。イベント予定で異彩を放つのが「映画上映」ですね。上映するのは「ある精肉店のはなし」というお肉屋さんを扱ったドキュメンタリー映画です。

「ある精肉店のはなし」は配信もDVD化もしていない、上映会のみで見られる映画

こちらの映画は、「上映会をしたい個人、法人問わず映画本体を借り受けて上映会をする」というシステムになっています。上映会をして20人ほど集めて入場料とったらトントンですね。それを割り込むと大赤字になります。この秋、東京と大阪で上映会しますが、東京は私個人の自腹です。


どういう話?

大阪府貝塚市での屠畜見学会。

牛のいのちと全身全霊で向き合う
ある精肉店との出会いから、この映画は始まった。
家族4人の息の合った手わざで牛が捌かれていく。
牛と人の体温が混ざり合う屠場は、熱気に満ちていた。

店に持ち帰られた枝肉は、
丁寧に切り分けられ、店頭に並ぶ。
皮は丹念になめされ、
立派なだんじり太鼓へと姿を変えていく。

家では、家族4世代が食卓に集い、いつもにぎやかだ。
家業を継ぎ7代目となる兄弟の心にあるのは
被差別部落ゆえのいわれなき差別を受けてきた父の姿。
差別のない社会にしたいと、地域の仲間とともに部落解放運動に参加するなかで
いつしか自分たちの意識も変化し、地域や家族も変わっていった。

2012年3月。
代々使用してきた屠畜場が、102年の歴史に幕を下ろした。
最後の屠畜を終え、北出精肉店も新たな日々を重ねていく。

いのちを食べて人は生きる。
「生」の本質を見続けてきた家族の記録。

牛の飼育から屠畜解体まで、 いのちが輝いている、 前代未聞の優しいドキュメンタリー。 ーーー鎌田慧(ルポライター) - ある精肉店のはなし (seinikuten-eiga.com)

より抜粋

ムラキが革関係者に話す紹介内容

子牛を市場から買ってきて大きくするのを「肥育」というのですが、大阪府貝塚市にある肉屋はこの肥育をして、自分たちで屠畜して、肉を売る、という最後の肉屋さんです。

現在も営業されているのですが、屠畜をしていい屠畜場が2012年に終了してしまったので、このやり方を終えました。この映画は最後の1年間を記録したドキュメンタリーです。

よく聞かれる質問1 屠畜場はもうなくなったの?

各都道府県で必ず現在も存在しています。というか、人が肉を食べる限り無くなりません。
ですが、個人の肉屋さんが借りて使えるような屠畜場はこの貝塚市の屠場が最後と言われています。

一方、食肉の世界は時代の流れとともに全国的に変化してきました。屠場の統廃合と大規模化、機械化が進み、地方の小さな屠場はどんどん閉鎖されてきました。ぼくたちのムラの屠場もすでに貝塚市営となっており、市の施設として経営状態が問われるようになっていました。要するに「収益をあげられているのか」ということです。当時の市長は「歴史的な背景や地域の産業を支える観点から収益の側面だけで判断すべきでない」としていましたが、ムラでも飼育から屠畜、精肉まで一貫しておこなう家が年々減り、施設の老朽化もあって1990年代から屠場の閉鎖は時間の問題でした。そしてついに2012年3月に閉鎖が決まったのです。


より抜粋

よく聞かれる質問2 屠畜のシーンが出て怖くない?

怖い・怖くない、は個々人の感性としか言いようがないです。ただ、過去3回ほど上映会しましたが、中学生さんも見られたりしました。途中退場された方はいないですね。むしろ上映後の感想を集めると「見てよかった」「気持ち悪いなどはなかった」「技術がきれいだった」などが多かったです。

よく聞かれる質問3 この映画の上映会をするの?

このブログで何度も何度も何度も書いていますし、実際に何度も何度も何度も口にしていますが、「革は食肉産業の副産物」です。肉の需要があるからこその皮であり、革なわけです。革関係者や革が好きな人は「肉と革は地続き」であるということを知っていて損はないと思います。

「ある精肉店のはなし」ではタイコの製作工程も見られる

映画の中ではタイコ制作風景も少し紹介されます。

貝塚市というか大阪の南の地域におけるだんじり祭りや、そこにおけるタイコ、というのは少し他の地域の人から見ると特殊です。というか、異様なほど思い入れがあります。

映画の中ではタイコの皮を作る工程も紹介されています。タイコの皮はかなり特殊です。革業界とはちょっと違う世界にはなるのですが、「食肉の副産物である皮」を有効活用する、という意味合いではこちらも地続きです。

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タイコ制作は下の動画でくわしく紹介されています。


革を知ってもらうためには肉を知ってもらう

先日、某所にご挨拶に伺ったところ、「ブログ見てますよ」「こうやって革のことを伝えるのか、と見ています」と励ましになるお言葉をいただきました。

革のことを知ってもらうのに専門用語なり散りばめても初心者さんにも中級者さんにも理解されづらい。なるべく聞き手の生活に接点ある単語や事象から革を伝えるように心がけています。

タンニン、なんて言葉聞いてもわかるわけないんですよ

「濃い日本茶や紅茶、渋みの強い赤ワインに入っているのがタンニン」です、と説明すれば興味をもってもらえます。革のことを知るためには肉やタイコなど、見聞きしたことあるものから入ったほうが理解も興味ももってもらえます。


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TLA(Thinking Leather Action)という取り組み

今年から本格的に始動した一般社団法人日本皮革産業連合会(JLIA)のプロジェクト、TLAでは「実は、革 ってサステナブル。」を合言葉に革に関するメッセージを発信しています。こちらも革業界をわかりやすく考えられているな、と感心してみています。

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一般社団法人 日本タンナーズ協会の取り組み

一般社団法人日本タンナーズ協会も近年、子どもでも大人でも理解しやすいように「革は食肉の副産物」という発信を行っています。



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このPRチラシ、ふりがな付きも作ったのはすごいな!と感心したものです。

「ある精肉店のはなし」もあくまでお肉屋さんのドキュメンタリー映画です。

この映画は、2012年に屠畜場が廃場する最後の1年を扱ったお肉屋さんのドキュメンタリー映画です。
決して革業界を紹介するためものではありません。ですが見ることで「なるほど、革というのは肉と連なるんだ」「食べている肉はこのように私達の手元に来て、食べているんだ」ということが知ってもらえるかと思います。多分。

めちゃいい映画ですので是非見てもらいたいです。


映画上映後に10分ほど革と肉についてのはなしをします

映画上映後に革の話をさせていただきます。

・タイコの皮である乾皮ってどんなもの?
・映画で出てくる食べ物「かす」ってどんなもの?
・歴史で見る肉屋の立場の違い

などを話します。

また、東京・大阪でも映画の後に革の話セミナーなどを行います。

革を知ってもらう努力をしているタンナーさんの取り組み:たつのレザーのキタヤさん

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キタヤさんは、以前当ブログでも紹介した革の森、を運用されているタンナーさんです。



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大阪からの小学校見学!? よくまぁ、こんなマニアックな工場見学するなぁ。どこからどうタンナーという工場まで小学校がたどりついたのか。おもしろいので直接キタヤさんに電話して聞きました。

いつからタンナー工場見学ってやっているの?

「たつの市の小学生たちにはもう10年以上前からやっているよ。年間1,000人くらい来るかな。
うちだけで1,000人、というわけじゃなくて、龍野レザーに協力してくれているタンナーの中の株式会社キタヤ、株式会社モリヨシ、エルヴェ化成株式会社で分担して受け入れているよ」(キタヤさん)

大阪の小学校が見学って珍しくない?

「ここは2年ほど前からかな?
学校の授業でタイコづくりがあるそうで、その一環で革の工場見学、ということになったそう。

広島に修学旅行して、その帰り道で岡山で一泊。で、大阪に帰る途中にたつの市で工場見学30分。
お昼ごはんにそうめん食べるそうだよ」(キタヤさん)

あぁ、たつの市の名産は醤油とそうめんと革、という水に関わる産業だから。

何人くらい受けて入れているの?

「今回は50人くらい。これでうちの工場でギリギリだよね」(キタヤさん)

だろうなぁ。タンナーは危険なものもあるし、巨大な機械もあるのであまり気楽に行ける場所もでありません。

なんで受け入れているの?

「龍野レザーを複数のタンナーで協力してやっているけど、やっぱり知ってもらうためには工場を見てもらわないと、ということでこういうことをしているんだよ」(キタヤさん)


「本日は革日和♪」で行う映画上映やタンナー見学バスツアー

上記のタンナー「キタヤさん」に行くわけでもないタンナー見学会を紹介するのもちょっと気が引けるのですが、今後の予定のリンク先などです。


9月30日(土)・10月1日(日)「ジャパンレザーアワード2023 応募作品展」

会場では「ジャパンレザーアワード2023」の全応募作品を展示しています。初日は審査が行われていますので、一般公開は16:00(開始予定)~18:00となっています。早めに来たら、フェニックスブースで遊んでいってください。

ブースの出展メンバーは・・・
・レザークラフトフェニックス
・zittoolsによるミシン・漉き機体験
・レザクラ用CAD「leathercraft CAD」開発者を招いてのCADソフト実演解説。予約不要


10月20日(金)~22日(日)「浅草エーラウンド」(映画上映+セミナー)


・各種セミナーを開催予定。
・会場近くでは、レザークラフトフェニックスによる彩り靴ワークショップと、lizedによる染色ワークショップを開催予定。



10月27日(金)「フェニックスナイト」(大阪・レザークラフトフェニックス 毎月最終週金曜 夜間延長営業20時まで)


18:30より約1時間 技術セミナー(無料)開催予定。

11月4日(土)~5日(日)「オーラウンド」(大阪/映画上映+セミナー)


・映画「ある精肉店のはなし」+映画解説(ラスト約12分「本日は革日和♪」)
・期間中 芦原橋会場内でセミナー開催予定。

11月18日(土)「タンナー見学バスツアー」


カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、腱鞘炎にならないための考え方とカッターナイフの話。レザークラフトファン、クリエイター、若手職人の皆さまにとっての悩み、腱鞘炎予防となるノウハウを特別公開。通常、村木さんがセミナーでお話ししている内容だそうです。スケジュールが合わず、なかなか参加できなかったかたに朗報です。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。

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毎度です!「腱鞘炎に絶対なりたくない」ムラキです。

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8月26日(土) ・27日(日) 、東京・八広 八広地域プラザ「吾嬬の里」にて「革にまつわる工具と工法 ~レザークラフトをより楽しむ in すみだ2023夏~」が行われました。
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ミシンメーカー、染料メーカー、そして、「レザークラフトフェニックス」が参加。昭南皮革、高田製革所など、皮革産地・姫路のタンナーが仕上げた上質なレザーをご紹介。ご好評いただきました。
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そのコンテンツのひとつとして、セミナー「人に話したくなる革の話:カッターナイフの話」を行いました。

そのなかで、「腱鞘炎に絶対なりたくないからカッターナイフをこれだけ使い分ける」「カッターナイフはこういうメリット、デメリットがある」などを、実際に体験してもらいつつ説明しました。

話が終わった後に、「もっと早くこのカッターナイフと考え方を知っていればこの両手は腱鞘炎になっていなかったかもしれない」と言われたので、セミナーで話した内容の中から抜粋して解説してみましょう。

今回は、
・パートさんやバイトさんを使うためには段取りが重要
・腱鞘炎に絶対なりたくない
・接触する面積が増えれば増えるほど安定感は増す
・カッターナイフはこう使うから腱鞘炎になりやすい
・粗裁ちするならこのカッターナイフがものすごい
を説明してみます。
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人に働いてもらうには段取りが重要

ムラキは、普段「請負職人」という仕事をしていますがそれほど働いていません。パートさんが動きやすいように環境を整えて、機械や工具を揃えて、技術を教えてお仕事してもらうのが仕事です。決して「自分じゃないとできない」という工程を増やすのではなく、「誰がやっても同じ結果ができるようにする」のが重要なわけです。

パートさんが「これができない」という場合は、「そんな事もできないのか!」というのではなく、できるように段取りを整えていない私が100%悪いわけですし、パートさんが何かしらで怪我した場合も100%こちらが悪いわけです。

腱鞘炎に絶対なりたくない

腱鞘炎は周りの人間が何人か発症しており、その痛さを聞いていたので絶対に自分はなりたくないな、と思っています。同時に、「パートさんにも絶対腱鞘炎になってほしくない」わけです。腱鞘炎になったら仕事としての生産性が落ちてしまいますし、QOL=人生の質も悪くなります。お金儲けのために仕事をするわけですが、仕事が原因で怪我をしてしまうとお金も時間も損失します。仕事如きのために健康を損失するのはバカバカシイと思っています。

私は腱鞘炎になりたくないですが、パートさんにも腱鞘炎になってほしくないと思っています。腱鞘炎にならないために、腱鞘炎の理由や、腱鞘炎になりやすい工程は何か、などを日々ネチネチと考えています。
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腱鞘炎にならないために

基本的に腱鞘炎は腕の酷使により生じます。だから「酷使しない」ことが第一です。この場合は「自分が仕事をしない」という意味と同義ではありません。

特定の部位だけを酷使するのではなく、「お金払って購入できる工具で楽はできないのか?」「腕の特定部位ではなく、他の部位や腰や背中の筋肉を使うことでダメージを分散できないか?」などを考えます。

また、腕を酷使した、と思ったらお風呂場でマッサージをするなり気を使います。
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スマホを使う際も手首や親指への負担を軽減することを意識しています。

ダメージを負うならば分散させる・ダメージの回復を早める。そこまで気をつけないと現代では腱鞘炎になる機会が多いですね。

モノに対する安定性は触れる面積が大きければ大きいほど安定する

この考え方は私が技術を解説する際に至るところで口にします。

例えば、下の写真にあげたように木槌にしても木槌の柄の部分が細いものよりも太いほうが手のひらに接する面積は増えます。「握る」ことに対する接触面積が増えることでより保持しやすくなり、作業している際にずれることが少なくなり効率が良くなります。
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柄の細いハンマーは使いづらいのか?というと、用途によってはこの方が便利なこともあります。

革の世界ではカービングやスタンピング、という金属の棒を革に小刻みに打ち付ける、という工法が存在します。これをやりたいならば、デカく重く柄の太い木槌よりも、軽く柄の細い木槌のほうが適しています。柄が細い分、保持しづらくなりますが、小刻みに軽く動かすには適しています。

大きなものを切るならば小型カッターナイフよりも大型カッターナイフのほうが適している

私自身そうですが、小さなカッターナイフでも大きな革を切ったり、分厚い革を切ることはできます。ですが、その分手首や腱鞘や筋にダメージを与えています。

「革を大きく切る」「分厚い革を切る」という際は、大型カッターナイフのほうが安定します。デカく、重く、硬いほうが、保持しやすくなり、重さで安定し、硬いことで力が逃げなくなります。

パートさんが「大きな革を粗裁ちするのか~。小カッター使っていて大型カッターナイフを持ち出すのがめんどいから、小カッター使おう!」というのは許しません。

小カッターナイフでも切れますし、仕事はできます。ですが、見えないダメージが体に蓄積されます。そういう蓄積をなくすのが「パートさんを使う段取り」なわけです。

大型カッターナイフでもこう持つと腱鞘炎への第一歩

大型カッターナイフだと保持する面積が増えるため、しっかりと保持できます。

ペン的な持ち方をする小カッターに比べて、大型カッターナイフは"握る"持ち方をせざるをえませんが、この持ち方も長時間行っていると腱鞘炎になります。
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カッターナイフは「対象を押さえつけて、引いて切る」という2つの動作を同時に行っている工具です。
押さえつける、という工程で前腕部の筋なり腱鞘なりに負担がかかっています。これらに負担をかけつつ、上腕を引くなり腰や上半身を使って大きな革を切っていきます。

タジマのコーキングカッターJハンドル、という特殊なカッターナイフ

こちらはタジマ、というメーカーが出しているコーキング用のカッターナイフです。コーキングを剥がしたり、目地を切る際に使うためのカッターナイフです。


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コンセプトとして、おそらく次のことを考えたのだと思います。

・片手で持つよりも両手で保持したほうがカッターナイフは安定するし、力のロスが少ない。それなら両手で持てるようにしよう!
・刃も分厚く、大きくしたら力が逃げたり、ブレたりしない!だから通常の大型カッターナイフよりも分厚く頑丈な刃を使おう!


結果的に、「片手でカッターを押さえつけて、片手で引くのに最適な形状」をしています。

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専用のJ型極厚というカッター刃は、触り比べると「明らかにデカくて分厚い」と驚きます。

ですが、革の世界では「片手で押さえつけないと切れない」という硬い素材は使わないので両手で使うことはないと思います。「じゃぁ紹介するなよ!」と思われそうですが、粗裁ちする際にはほんとに便利なんですよ、これ。
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このカッターは握りやすくて「引いて」粗裁ちするのに最適な形状

このカッターを説明する際は、「あなたの指先のつめが伸びて伸びて伸びて、革をひっかくように刃先を突き立てる。そのうえで右手でこのカッターを引っ張ってみて」と伝えます。そのうえで実践してもらうと「!これは確かに違う!」と感動してもらえます。
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通常の大型カッターナイフと違って、常時カッターを押さえつけるために微妙に前腕部の筋や腱鞘を使う必要がなくなり、「引く」ことに力を注力できるからです。

セミナーでこのカッターを説明して喜ぶ方は非常に限定的です。革を荒裁ち裁断を何度もおこなうことがある人のみですね、このカッターで感動する方は。

「革を10枚ほど荒裁ち裁断をしてください」と女性パートさんにお願いすると、確実にこの工具を選んで使います。原理はともかく、彼女たち自身が「数々あるカッターナイフの中でこれが腕への負担が少ない」と経験則で学んでいます。

製品開発のタジマとしては「えっ!そういう使い方は想定してなかったよ!」と言われそうですが、革の粗裁ちする際にはほんとに便利な工具です。

触れれば触れるほど安定するから定規も太くて厚い物を使う

さらに革を粗裁ちする際に重要なのは定規。

こちらも粗裁ち用に用意しているのはこちらです。長さ1.2m、厚み1cm、幅3cmほどの鉄の棒です。
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重さが5kgほどあり、結構重いです。写真で見るとたいしたことないですが、実際に見た知り合いは「凶器やん、これ」と言われました。こちらも女性パートさんに粗裁ちしてもらう際に使ってもらっています。5kgって定規としてはかなり重いです。

私のモットーは、「工具と機械はデカくて重くて硬い方がいい!」というものです。

これだけ幅が広く重い定規は左手で思いっきり押さえつけなくても革をきちんと固定してくれます。さらに重要なのが、カッターナイフで切る際にカッターの刃に触れる面積部分が大きくなります。
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上の赤い丸部分が大きくなればなるほど安定します。これが「モノに対する安定性は触れる面積が大きければ大きいほど安定する」ということです。

小さなカッターナイフよりも大きなカッターナイフのほうが保持しやすくなるから、デカい方がいい。
小さなカッターでは刃が小さいので面積が小さくなります。だから大きなカッターナイフの刃のほうが良い。
カッティング定規も、刃に対して触れる面積がデカいほうが安定するから、分厚い方がいい。

じゃぁ革包丁は悪いのか?カッターはどれくらいで折るの?他のカッターナイフはどう違うの?

以前話した大阪の鞄メーカーの高齢職人さんは、

「俺、革包丁使ったことないで?OLFAの別たちってあるやろ?あれしか使ったことない。だから包丁の研ぎ方とか知らんねん」

なんで?別たちの替刃も安くないやん?

「仕事の時間中に研いでいても金にならんやろ?それなら替刃買った方がいい」


おぉぅ、震えるほど合理的だな、と思いましたわ。

革包丁が悪い、というわけではないんです。私は下の写真にある10本のカッターナイフをそれぞれ全部使い分けます。1年に2回くらいしか使わないカッターナイフもありますが、その2回のためだけに置いておかなきゃいけないこともあります。
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革包丁ももちろん使います。全体の工程の1〜2割くらいは革包丁のほうが効果的かつ効率的なことが存在するからです。

工具は所詮工具です。なんのためにその工具を使うのか。その工具の形状はなぜそういう理由なのか?ということをきちんと理解すると、「あぁこの工程は革包丁のほうがいいんだ」「これは30度の鋭角カッターのほうが良いんだ」「これは軽いカッターナイフのほうが良いんだ」なども理解しやすくなります。

秋からの予定

コロナもあけて毎年恒例のしんどい秋シーズンです。

下のサイトでも書いておりますのでまたご覧ください。


9月15日(金)・16日(土) 千葉 lized工場見学&染め靴ワークショップ

9月30日(土)・10月1日(日) 東京 ジャパンレザーアワード応募作品展示イベント

10月21日(土)・22日(日) 東京 浅草エーラウンド(予定)

11月3日(金・祝)・4(土) 大阪 オーラウンド(新規イベント)


毎月最終金曜日の18:30から大阪 レザークラフトフェニックスで無料のセミナーをしています。
従来は有料の「固定と摩擦」「カッターナイフの話」どちらかを行っています。

どれだけブログで書こうが、YouTubeで話そうが実際に試さないとわかりませんので興味ある方はセミナーにまたお越しください。



カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、「ジャパンレザーアワード」と「レザーソムリエ」は、実際仕事につながるのか、を考えるという話。関西人 村木さんのストレートな想いをぶつけ、皮革業界のビジネスパーソンやクリエイター、学生の皆さんの疑問を解消してくれます。

レザーソムリエの「皮革講座 Basic(初級)」はご好評につき、全会場満席となっております。皮革講座を受講してくださった皆さま、資格試験にトライしてください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。



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毎度です!「お金の話大好き」ムラキです。

関西人であるメリットのひとつは、お金大好き!と言っても軽くスルーされることですかね。失敗したら、「これは後日笑い話にしないと元が取れない!」と考えられることも関西人の強みです。

さて、みんな大好き「お金」の話です。今回はタイトルにありますように、「資格や賞とお金」「お金につながるのは資格や賞をとった人の意志ひとつ」という話です。

レザーソムリエってなに?

日本革類卸売事業協同組合/一般社団法人日本皮革産業連合会の行っている事業で2016年に始動しました。数年前から私もお手伝いしています。

レザーソムリエは誰が対象なのか?

皮革業界では、皮革及び革製品について正しい知識を持っていただき、皮革および革製品を愛用し、楽しみ、より多くの皆様に使っていただきたい、そんな想いから、皮革講座や皮革試験等を活用し、「レザーソムリエ」を育成することにいたしました。

革とは何か、皮革の種類や鞣しの方法、革の良さやお手入れ方法など幅広く学んでいただき、レザーライフを多くの皆様に楽しんでいただけたらと思います(レザーソムリエ 公式ウェブサイトより)。



革製品の作り手・メーカー・趣味の人や販売員さん、さらには革製品がスキ、という方でもokです!

実際、私が解説する際には「販売員の方」「作り手の方」に手を挙げてもらいますが、販売員が4割弱、作り手の方が4割くらいかな、と思います。

作り手もメーカーさんから、趣味の方、セミプロの方まで幅広いですね。

レザーソムリエはどんな試験か?

「レザーソムリエ Basic(初級)資格試験」は4つの選択肢がある試験問題50問を60分で解きます。「レザーソムリエ 中級(Professional)資格試験」は4つの選択肢がある試験問題75問を60分で解きます。



全国にあるテストセンターで受験できるコンピューターを使用した試験(CBT方式)になりますので、どこでも受験が可能です。

試験内容としては公式テキストを基本としてそこから出題されます。


「レザーソムリエ Basic(初級)資格試験」は、その中でも初心者を対象としたものです。皮革素材の特徴や違いに始まり、クツやカバン、ベルト、レザーウェアなどに関する基礎知識、さらにはケア・お手入れなど、革に関する基礎知識を網羅的に問う資格試験です。

「レザーソムリエ Professional(中級)資格試験」は、レザーソムリエ Basic(初級)合格者または、皮革及び革製品(販売業含む)取扱歴5年以上の方を対象とした資格試験です。より専門的な知識や技能を測り、証明する資格となっております(レザーソムリエ公式ウェブサイトより)。



個人的に言うならば・・・初級は浅く広く、です。靴や鞄の知識なども問われます。中級は逆に狭く深く、です。革の作り方などを中心に試験が作られています。

初級と中級では方向性がまるで違います。タンナーさん(革を作る工場)から見たら中級のほうが楽です。むしろ初級のほうが難しく感じるはずです。

レザーソムリエのテキストは結構オススメです。

レザーソムリエにあわせて作成された初級と中級のテキストですが、結構オススメです。

初級は浅く広くですので、革や革製品づくり、革製品の手入れに関して浅く広く学ぶのに最適です。読んでいて面白いです。

中級は深く狭く。革づくりのみに関する解説です。現状、手に入りやすくて革づくりに関して学ぶならば、このテキストはオススメです。


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中級はほんとにマニアックですね・・・。

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お金はどれくらいかかるの?

初級は5,500円、中級は11,000円かかります(2023年7月現在)。



初級・中級ともに各地でセミナー(「皮革講座」)が行われています。

初級は無料です。一般社団法人日本皮革産業連合会からの支援で無料で受講可能です。

中級は有料となります。27,500円かかります。

レザーソムリエ(「皮革講座」)初級は2.5時間で革に触れます



初級の資格試験は鞄や靴、手袋、革などもまんべんなく出ますよ、というのにセミナーでは革素材と手入れの話のみとなります。セミナー受けたからって、「セミナー受けた人だけこっそりと試験問題を教えるよ!」なんてことはありません。

座学を受けてもらい、18分×4回で「牛」「爬虫類」「仕上げ加工」「各種動物」について実際にそれぞれの革を触って解説します。

この「実際に触る!」というのがとても価値があります。これだけの革を実際に触れる&きちんと解説される、というのはそうそうできない体験かと思います。

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レザーソムリエ中級は27,500円の価値を感じてもらえる内容



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中級は「27,500円」というハードルに加えて、「レザーソムリエ Basic(初級)合格者、ないし皮革及び革製品(販売業含む)取扱歴5年以上の方のみです」という高いハードルが要求されます。

1日で8時間弱の講習となります。くわしい内容は上記のリンク先で。

会場では40種類超の革が並んでいます。爬虫類や牛・馬・豚などから、起毛させたスウェードやヌバックなどの各種仕上げ加工を施した革だけでなく、合成皮革なども並んでいます。それも大きいサイズで一枚一枚。

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最終的に講座の最後にある「利き革テスト」での点数が中級の資格試験で加点されます。

「講座受けないと合格できないじゃないか!」「金で点数買うのか!」という声も実際に聞きましたが、逆です。

「中級のソムリエを受けるならば、知識だけじゃなくて、実際に革を触ってその上で資格試験を受けてください」という意味合いがあると思います。


何度も何度もこのブログで書いていますが、「革は実際に触らないとわからない情報が多すぎ」です。


中級の資格試験は4つの選択肢がある試験問題75問を60分で解きます。知識をきちんと勉強すれば中級は合格できます。ですが頭でっかちに知識だけじゃ駄目なわけです。

セミナー会場では40種類以上の革が並び、それらの革を触ってもらい、最後には「利き革」テストがあります。全国にあるテストセンターで受験できるコンピューターを使用した試験(CBT方式)が、

「ちゃんと革を触った」「僕はヌバックとスウェードの違いをきちんと指で感じました」「PVCとカンガルー革の違いをきちんと手で触りました」「コシの強い革・ハリの強い革、というのを実感しました」という、「触った実感」と「自信」を持ってもらえます。

それらを持った上で中級のソムリエを名乗ってほしいな、と運営サイドは思っているわけです。

40種類以上の革を実際に触れて、各種専門家が座学で教える、というのは現在の日本では存在しません。また、どれだけ登録者数が多いユーチューバーさんがどれだけ言葉で説明しようが、実際に触らないとわからない情報が革には多すぎます。革を触って専門家が解説する、ということに27,500円の価値を見いだせる方ならば意味があると思います。

ジャパンレザーアワードって?

一般社団法人日本皮革産業連合会が主催している国内最大の革製品コンテストです。



私が初めて同アワードの応募作品展示会場に行ったのが2012年かぁ・・・まさか10年以上の付き合いになるとはなぁ・・・。

ジャパンレザーアワードに出すメリットは?







このアワードは出展するだけでメリットがあります。
「応募するとプロのカメラマンが撮影してくれる」「それをきちんとWEB上に受賞・非受賞の応募作品問わず載せておいてくれる」「その際に自分のブランドネームなりSNSリンクを繋いでくれる」が、受賞する・しないを問わず最大のメリットだと思います。

他には、審査会/応募作品展では一般来場者にもアンケートを書いてもらい、「この作品のここがスキだ」と書いてもらうと、後日作品返送時にそのコメントも一緒に返送されてきます。

他にも、「作品展示時にハガキ1枚サイズのプロフィールが書ける(これ、宣伝としても、作品アピールとしても、ものすごく有効です)」「出展者限定の懇親会がある(感染症対策のため今年も行われません)」などのメリットがあります。

一切の忖度がない、厳正な審査

「ジャパンレザーアワード2022」グランプリは、野沢浩道さんが受賞。

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なんと鉛筆1本を入れるケースです。




大賞結果を聞いたとき、「審査員さんたちは全く忖度してねぇなぁ!!!」と大笑いしたものです。

受賞者さんはメーカー勤務というわけでもないですし、大量生産・販売するわけでもありません。それでも大賞です。実際受賞者自身が一番驚いたそうです。歯医者さんですから、受賞者さん。

本職が別にあり、クリエイティブを追求している作家さんが「ジャパンレザーアワード」のグランプリを受賞したのは初のことです。



デザイン、ファッション、各分野の第一線で活躍する審査員たちの厳正な審査により、この作品が選出されました。一切の忖度がないことに改めて驚きました。それは、メディア関係者も同様で、「毎日新聞」や「めざましテレビ」(フジテレビ系)で取り上げられるなど、注目を集めました。


<審査員長 総評>
レザーアワードというと、どうしても既存の製品の進化や質の向上に視点が行きがちだが、もっと大切なことは、その提案が、どれだけ人々の生活やモノの見方を変えるか、その可能性があるかではないだろうか。無論それは大変難しいことなのだが、この作品はそれを見事に乗り越え、「こんなの欲しかった」、と言わせる強さを持っている。
一本100円足らずの鉛筆の価値が、この作品によって100倍になると言っても過言ではない。鉛筆が短くなるとできるスペースは、「思考を働かせた標」、とする発想も今の時代にマッチする。モノとコト、二つのデザインアプローチが見事である(「ジャパンレザーアワード2022」公式ウェブサイトより)。


「ジャパンレザーアワード」を受賞するには?

選考基準は、ものづくりの技術だけではありません。凄腕の職人さんが受賞を逃して、その無念の想いを聞いたこともあります。一方、2022年度学生部門の最優秀賞「牛さんの爪サロン」という作品は無縫製で仕上げられたものです。



「ジャパンレザーアワード」だけでなく、創作系のコンテストで受賞するためには、応募要項・概要を調べるのが重要だと思います。



審査員の属性や履歴については、下記ページで掲載されています。審査員がデザイン系なのか、ファッション系なのか。歴代の受賞作品の審査員は・・・結構重要です。



長濱審査員長のインタビュー(「JLIAtv」)も重要なヒントとなりそう。


上記のことをふまえたうえで、「自分は何を作るか」「ジャパンレザーアワードというコンテストと審査員の考え方」と自分の作るもの・作りたいものをどうすり合わせていくか、です。

この考え方ややり方はある意味邪道的な思考方法です。ですが「受賞したい!」と思うならば重要な考え方です。受賞していない私が言っても説得力ないですが・・・。

レザーソムリエの資格やジャパンレザーアワードの受賞によって、お金が儲かるのか? 給料が上がるのか?

「レザーソムリエの資格を有したり、アワードを受賞したからってお金が儲かるのか?」と聞かれたら、「そんなの儲かるわけないやん」と答えます。

ですが「これまでに、ソムリエの資格保有者やジャパンレザーアワード受賞者でお金儲けしたorお金儲けにつなげた人はたくさんいる」と答えます。

ワインのソムリエってそんなに高給取りじゃない?

資格・雇用・収入の関係性はシンプルではありません。資格なんて意味ないか? というと、そうは思いません。

資格は「(その資格を取るために)きちんと勉強した」証です。資格をもつ人の「箔」や「トロフィー」のようなものがひとつ増えたにすぎません。それを生かすかどうかは、その人次第です。

受賞しなくてもお金儲けた人もいるし、受賞してもお金儲けていない人もいる



「ジャパンレザーアワード」で受賞した職人を有した某メーカーさんは、イベント出店の際に「ジャパンレザーアワード受賞!!」というのぼりを作り掲げたそうです。

「ジャパンレザーアワード」を認知しているユーザーの割合はともかく、受賞という言葉だけでスゴイ、と伝わるわかりやすさは抜群で、着実にビジネスに活用したわけです。

一方、同アワードで受賞後、状況に変化がない人も残念ですがいらっしゃいます。

また、手作り作家さんがイベントで「レザーソムリエ初級 有資格者」と掲げているのを3人は私は見ています。これも「箔」として利用しているわけですね。

「箔」をどう使うかはその人の意志次第

初級ソムリエや中級ソムリエ講座の際に言います。

「ソムリエを取る・取らないはご自由に。ですが、今日、あなたは、これだけの革を実際に触った。これから先の人生で『僕はこれだけの革を実際に触った』と誇ってほしい。それは4択試験だけで手に入れたソムリエ資格よりも意味があることだと私は思う」

「アワードなんて応募してなんぼ儲かるねん?」という人にも言います。

「100%確実に儲かりたいならば、ものづくりなんてしないほうがいい。自分で商売もしないほうがいい。なにか行動して、それで得た成功にせよ失敗にせよ、それをどう活かすかは自分次第でしょ」

どんなものでも、手に入れたものをどう使うか手に入れたその人の意志次第なわけです。

ちなみに革の箔押しもおもしろい世界で過去に下記のブログで紹介しています!


ムラキの今後予定

8月5日(土)、「皮革講座 Professional(中級)」大阪会場 レザーソムリエのお手伝い。



8月26日(土)・27日(日)、イベント「革にまつわる工具と工法」(東京・八広)技術解説しています。今回はカッターの使い分けの話とか。



9月15日(金)・16日(土)、lized工場見学&染め靴ワークショップ(千葉) ワークショップのお手伝いしています。



9月30日(土)・10月1日(日)、「ジャパンレザーアワード」応募作品展。くわしくは次回以降お知らせします。


カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。

今回はオンラインとリアルは相互に補う、という話。コロナ禍による変化と、オンライン、オフラインの特長を生かしたワークスタイル、レザーイベントの運営の今を村木さんの視点でリアルに提示します。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「イベント終わるとしばらくはぐったり」ムラキです。

先日、東京レザーフェアにあわせてイベントを3日間行ってきました。

無事に終わりましたが、コロナ禍による強制的な10年の進化は色々なところで影響を及ぼしています。
コロナだからテレワーク!オンライン!と思われがちですが、最近は「やっぱりオンラインは限界がある」とも思います。

今回は下記について報告や説明をします。

・コロナ禍で急激に出てきたオンラインシステムの昨今

・オンライン飲み会・テレワークにおける新人教育

・リアルイベントの減少

・ではリアルイベントは駄目なのか?

結論としては、「革やものづくり、なんてのは実際に触らなきゃわからない情報が多い」「だから、リアルとオンライン、情報で補完しあわなきゃいけない」、です。

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コロナ禍で10年は時代が強制的に進んだ


コロナですが、良いことも悪いことも10年の時間は強制的に進んだ、と思います。実際問題、革業界でも各種会社で「高齢の社長が引退された」、「高齢のじいちゃん職人がやめた」「重要な内職のおばちゃんがやめてしまった」などの悲鳴を聞きました。

コロナ禍で出てきたオンラインシステムは今見返すとどうなっているか、ということを簡単に書いていこうと思います。

オンライン飲み会、どうだった?

コロナの初期に出てきたオンライン飲み会を何度か試してみました。で、現在はさっぱり行っていません。

実際にやってみてわかりましたが、オンライン飲み会ですと「あ、私は喋りすぎたから次はあなたがしゃべる番だね!」「相手がしゃべりたそうだ」などの些細な情報が拾いづらい。これが致命傷でした。

また、「こいつの話くどいから、私は違う人と話そう」ということもできないのも致命傷だったように思えます。

ただ、オンライン飲み会やオンライン会議が増えたことにより、「場を管理する管理者を任命しないといけない」「管理者はトップの人じゃない方がいい」「たとえトップでも管理者の言うことは聞く」などのルールを守ろう、という暗黙のルールはできたように思えます。この暗黙のルールにより、これ以降のオンライン会議のルール作りは急速に広まり、高齢のえらい方でも参加する空気が形成されたように思えます。

実際、「60歳越えて高校の同窓会をオンラインをやったよ。翌週、その中で仲のよかった友達5人でオンライン飲み会したよ!」や、「名古屋、兵庫、鹿児島の機械屋同士でオンライン会議したよ」など、今までそういうことを一切拒否していた年代が使うようになったのには驚いたものです。

テレワーク時代の新人教育や社員のコミュニケーション

コロナ最初期の時の新入社員や新入学生はほんとに大変でした。特に学生さんは入学、即座に休校でオンライン、ということでしたので現場の先生方の苦労を考えるとほんとにお疲れ様です、と心から言いたくなります。

このドタバタで被害も大きかったのですが、このコロナがなかった場合、学校や仕事場におけるオンライン化・テレワーク化は不可能だったんじゃないかな、とすら思っています。

若手に聞いたところ、IT業界などではすでに新人などは「テレワーク化されていない職場では働きたくない」という声も出てきているとか。

私のような若手じゃない人間からしたら「じゃぁ今の時代若手は楽だな!」「おじさんの若いころはなぁ・・・」と愚痴ろうかとも思ったのですが、先日読んだ本や実際の若手に話を聞くとそうでもないようです。


上記は、「ゆるい職場」という 今年頭に出た書籍の著者による記事です。文中で著書の8割はまとめられているように思えます。

内容をまとめると、

・現代はコロナによるテレワーク増加や、人手不足により間違いなく若い人にとって働きやすい環境になっている

・働き方改革や法整備によりブラック企業、と呼ばれる環境も減っている。残業も減っている

・その一方で残業減少により給与が減っているのも事実

・これらにより、若手は職場が『ゆるい』と感じており、自分の若い時代のキャリアをここに使っていいのか、と不安に思う

というようなもの。

また、テレワークが増えたことによりOJT(オンザジョブトレーニング=実際の仕事を通じて指導する)がやりづらくなっているとか。上司も上司で若手がどこで躓いているかを判別しづらい。若手も「これを上司に言ってもいいのだろうか」というので悩みが聞きづらいとか。

多分、今現在は失われた30年からの脱却をする過渡期であり、若手も上司も新しい環境に慣れる時期なんだと思います。オンラインですべてを終わらせるには多分まだ5年から10年くらいは慣れる時間が必要です。同時に「そんなの慣れられない!」という人間が出て行くのにもう10年かかるかな、と。

コロナが一段落ついた今、いろいろな企業、事業者を見ていて思うのは、「コロナの最中に将来のために何かをやっている会社は、落ち着いた今伸びているな」ということ。

今の時代は、コロナ前の成功体験なりにすがりつくのではなく、10年進んだ未来に適合しないと生き残れないんだろうな、個人も会社も、とは思います。

オンラインは10年は進んだと思う。では、リアルは?


上記にあげたのは、「コロナになり人間もオンラインに対応できるようになった」という一例として書いています。その一方でリアルはどうなったでしょうか?

リアル展示会が消えていっている

この数年で驚いたことはたくさんありますが、印象的だったのは下記の事例です。

●高級時計の展示会 バーゼルワールドが中止





イベント出展社にしたら、コロナで強制的に「オフラインイベントに出なかったらどうなるか」「その浮いたお金をネット広告に費やしたらどうなるか」という実験ができてしまったわけです。ほんとに10年進んだなぁ、世界は。そして「リアルイベントに多大なお金でなくていいんじゃね?」「やるなら自分たちでやればいいんじゃね?」と気づいてしまったわけです。

これらの商材は五感のどれに訴えているのか? リアルイベントはだめなのか?

ゲームなどはゲーム実況やeスポーツがより知られるようになったから、というのはよくわかります。ゲームは五感のうち、視覚と聴覚に頼り切っている媒体ですので、オンラインと相性が良すぎます。

他方、高級時計も五感のうち、視覚情報が強すぎました。持ったときの質感なども重要だったのですが、やはり消費者的には視覚情報が第一義だったようで。

革は触らないとわからない情報が多すぎる

先日行った「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」イベント報告

「東京レザーフェア」会場9Fにて行われた「浅草エーラウンド」にて、「本日は革日和♪」としてセミナーを二つ取りまとめました。

一つは、大阪の靴の型紙制作の古瀬さんを招いての実演を見学するセミナー。他方は、当ブログ4月更新分でお伝えした千葉レザーの話。




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両セミナーは「実際に見る」「実際に触る」のがとても重要でした。


「本日は革日和♪ in 東京・八広」
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「東京レザーフェア」の会期が木曜・金曜なので、「本日は革日和♪」は金曜・土曜に行いました。


コロナになり来場者の緊急連絡先を確保しておかないといけない、費用捻出のために事前予約制かつ有料化(入場料1,000円で2,5時間滞在可能)。1日2,5時間✕3枠✕2日、という設定ですね。

トータルで来場者は2日で60人くらいです。

「わずか60人?」と思われるかもしれませんが、入場料1,000円、かつ、事前予約までしてきた60人以上もの方が来場してくださいました。つくり手対象のイベントですので、そもそもの市場規模も小さいですしね。

お金払わない1万人よりもお金払う100人のほうが大事

このイベント、出展料は私個人が運営していますのでそれほど高くないです。ただ、来場者はせいぜい数十人くらいしか呼べません。そもそも数百人来たらイベントが破綻します。

出展者の中にはほぼマンツーマンで1時間以上喋っているだけ、という人もいます。私などは客寄せパンダ的に来場者に20分くらいで「人に話したくなる革の話」や「固定と摩擦」の話をしていたくらいです。


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これらの話などをオンライン動画であげたらそりゃ1年やれば数千再生なり稼げるかもしれません。ただし、それは「無料で、単なる作業しながら見ているだけ」の数千回です。

それよりも、確実にお金を払ってきちんと聞いてくださる10人のほうが遥かに価値があります。そして、その10人は1,000円払ってきちんと聞いてくださっているわけです。

革は丁寧な接客を心がけないと売れないし、革素材と食材は似ている

革素材は金属や布に近いと思われますが、個人的には食材に近いと思います。触感や匂い、聴覚、なども使って判断するわけですから。

どれだけきれいな写真を使って説明したり、小綺麗なお兄ちゃんが商品説明したとしても、それは見た目と機能性しかアピールできません。革素材は触らないとわからない情報が多すぎます。

オンラインが悪いわけではない。リアルとオンライン、両方で補わないといけない


例えば、インフルエンサーなりユーチューバーなりに仕事を依頼すると「登録者数✕~~円」なりが要求されます。ですが、この登録者数の「質」がさっぱりわかりません。お金で買った登録者かもしれませんし、登録しているだけで見てくれない人かもしれない。更には無料だから見ているだけの人かもしれないわけで。

今回、革日和の出展者にしても動画なりSNSをやっている人は多いです。ですが、漠然とオンラインだけでやっていても登録者数も増えませんし、お金も儲かりません。

リアルイベントで見てもらって、そこから登録してもらったり。逆に、オンラインでSNSや動画を見て、そこからリアルイベントに来てもらう。そのうえでお金を払ってもらう。

現状の登録者数を稼いでお金儲けする、というシステムはどこまでいってもYouTube=グーグル、という神の手のひらの上です。彼らの都合一発で売上などぶっ飛んでしまいます。更にはどんどんと競争相手は増えていっています。それがわかっているからこそ、ユーチューバーさんたちも数年前から準備をしてきていました。今から、オンラインの数字を増やすことに価値を見出してももう遅いわけで。




数を稼ぐよりもきちんと革は触ってもらって、信頼してもらって、お金を稼がなきゃいけないわけです。
鞄でも靴でも革素材でも、革の販売は、売り手の信頼を売る商売だな、と思うわけですわ。

実際に革を触ってもらいたい、ムラキの今後予定




カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回はタンナーに革製作を依頼した人のセミナーをやりつつ、「最悪は想定を乗り越えるからこそ最悪だ」と実感した話。村木さん主催セミナー(トークイベント)で、千葉県の獣害対策により生じた原皮を利活用している事業者が登壇。サステナブルな革づくりの現状を村木さんがまとめました。
また、オンラインイベントの運営についても紹介されていますので、自社で企画する際や担当になった場合の参考になさってください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「失敗の話を嬉々として話すのは関西人だけですよ」と言われた村木です。

関東では、「失敗話をすると自分の評価が下がると考えられるのでわざわざ失敗話をしたがらない」と言われましたわ。失敗のほうが学べることは多いのになぁ。あと、「自分じゃない失敗の話」って聞いていて面白いですしね!

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さて、今回の話は、
・セミナーの内容「鹿・イノシシを獣害対策から経済の円環に入れるチバレザーの面白さ」
・先日行ったオンラインセミナーのやり方とトラブル・対応策
というものです。

オチを先に話しておくと、
「オンラインセミナーも革づくりもトラブルの原因追求が一番たいへん」
というものです。

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獣害対策のイノシシや鹿から作られているチバレザー


今回、千葉県の獣害対策から原皮を引っ張り、タンナーで革を作っている1008(センノハ)株式会社さんを招いてセミナーを行いました。




獣害と害獣の違い

獣害は、「イノシシやシカ、クマ、サル、ネズミなどの、野生動物によって起こる害のこと 」。


害獣(がいじゅう)は、「人間活動に害をもたらす哺乳類に属する動物一般をさす言葉である。人間の多い地域では、家畜などの飼育動物以外はほとんどがこれに含まれる可能性がある」。


獣害対策、害獣駆除、という言葉は正しいわけです。
ですが、獣害駆除、というのは言葉的にちょっと違うわけです。

チバレザーはこの獣害対策として狩られたイノシシや鹿を千葉の解体場で解体し、そこから出てきた原皮を姫路のタンナーさんで作ってもらっています。

セミナーで「こんな人に聞いてほしい!」ターゲット層を設定

第一部は作り手。革でなにか作っている人・商売している人。獣害の鹿やイノシシはどういう革?自分のものづくりに応用できるかな?と思っている人向けです。

第二部は第一部の上級バージョン。ならびに、「自分でタンナーに頼んだら安く済むんちゃうか!」と思っている人。獣害駆除で肉で利益出ないから革で利益だそう、と思っている人。

結論から言っておきますが、「タンナーさんがいても革づくりはめちゃくちゃ大変!」「お金が溶ける!」。

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土に還る、のが特徴のチバレザー

獣害対策、としてイノシシや鹿が狩られ、肉を使い、皮も有効活用、というのがチバレザーのコンセプトです。その代償、というか、特徴として、必ず傷があります。ダニ傷や喧嘩傷、ひっかき傷、など確実に傷があります。まぁ、牛、豚なりの肥育農家で育てられていない動物である以上は傷があって当然です。ですので、「傷がない革がいい!」といっても不可能です。

で、ジビエでは当たり前の特徴以外に、この革の特徴として「土に還る」が生産のコンセプトとなっています。

使っているタンニンの薬剤は土に還ります。さらに仕上げ加工もしていませんので、汚れも吸いやすいです。それが嫌な人はご自身でレザーラッカーなりで仕上げ加工をしてください、というものです。

第一部は肉を食べよう!という話が半分。そうしないと革が出ない、というオチ


 


今回のセミナーはオンラインとオフラインの両方で行いました。


オンラインの参加者は北は北海道、南は高知県までご参加していただきました。ご参加いただいた皆様、トラブルが多かったのにほんとにありがとうございました!

出席者は、作り手さんや、ハンターさん、地方行政の方などもおられ、多彩なメンツでした。その各々に興味ありそうな話をしてもらいました。くわしくは上のブログをまた見ておいてください。

第一部は革の特徴や「イノシシや鹿の肉食ってくれないと革は出てこないんだよ!」という話を重点的にしてもらいました。前半20分は肉の話ばっかりです。下の画像はプロジェクタ資料です。

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ちょうど、TLA(Thinking Leather Action)に通ずるところのある熱い内容でした。


第二部は「タンナーで革づくりってこんなに大変!」という技術、じゃなくて、依頼する立場の苦労の話

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「解体場とツテができて原皮が手に入ってタンナーに持っていったら革は作れるのか?」「革屋飛ばして金積んでタンナーと付き合えば、安く革は手に入るのか?」というような意地悪な質問をしました。

結論から言うと「おすすめできない」というものでした。だろうなぁ・・・。

不確定要素が多すぎるのです。
革は。

下の動画で彼の失敗話をしてもらっています。



 


失敗しないと経験値は積めない

専門家だからこそ、失敗をする。新しいことをするなら失敗をして当然

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上の動画でも言われていますが、8~9月に仕込んだ革は革の吟面(革の上部部分。一番頑丈)が溶けてしまったそうです。

この場合の原因ですが、複数考えられます。
・タンナーの技術なのか、薬品なのか
・元の原皮の保存方法か
・原皮を取る解体の方法なのか
・屠畜した時期なのか
・イノシシや鹿がどれだけの栄養状態にあったのか

これらすべての原因をひとつひとつ調べたり、対照実験をするしかありません。

対照実験>ある条件の効果を調べるために、他の条件は全く同じにして、その条件のみを除いて行う実験。 除いたときと除かないときの結果を比較する。 医療や統計学では対照試験ともいう。 コントロール実験。

失敗のお金は誰が払うか?

失敗はマイナス、ではなく、「同じの条件下でやれば同じ失敗をするのか」まで調べなきゃいけないわけです。では、その費用は誰が負担するのでしょうか?もちろん「革を依頼した人間」です。

さらには、各々の専門工程のどこに問題があるのか、を調べなきゃいけません。
タンナーさんも解体場の人も誰も他業種のところにまでいって原因追求なんてしてくれません。
電話して怒鳴られたり、実際に行って説明するのは誰でしょうか?

もちろん、「革を依頼した人間」です。 これが従来では革屋さんがやる仕事なわけです。

労力を提供して、お金を払うのも「革を依頼した人間」です。

失敗したからお金払わない、は駄目なわけです。依頼者はお金を払って、「あぁ、専門家がこうやれば失敗するんだ。お願いしている専門家さん、失敗を次に活かしてね!お金は払うから」と言わなきゃいけないわけです。

ちなみに、前述の8~9月の革づくりがうまくいかなかったのは「水温が上がりすぎるため、8.~9月は仕込まない」という結論になったそうです。

失敗はほかでも生かせるのか?

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専門家は失敗を積んだならより良くなるし、ほかでも生かせるのか、というとケースバイケースです。

例えば、上記のセミナー中に北海道の方が、「水温高いならば北海道でタンナーを作れば問題ないのだろうか?」というとても良い質問をいただきました。

これも本編で言っていたのですが、「多分、今度は冬には寒すぎるから違うトラブルが起きる」とのことです。過去に聞いた話では、「姫路の革を作る製法は姫路のタンナーだからできる。例えば違う地域の川の水を使うと同じレシピでも作れなかった」ということもあるそうです。

違う地域に行くと今度は違う失敗があります。例えば、この革などはあくまで「千葉の地域で捕れた鹿やイノシシの原皮から作った」革でしかありません。

捕獲した地域や時期によっても微妙に皮は変わり、革に影響します。

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だから、このチバレザーを鞣しているタンナーさんが習得しているのはあくまで「千葉の特定地域の皮を鞣して革にする技法」です。もちろん埼玉なり高知の鹿やイノシシでもうまくできるかもしれませんが、それを知るためには一度作らないといけません。

設備がでかいので、量産のことを考えると20~30枚を一気に仕込まないと同じデータは取れません。「練習で1枚鞣してよ!」といってうまくできても、20~30枚仕込むと問題が発生しかねません。これが革づくりの恐ろしいところです。

第一部、第二部はまた後日お知らせします。下のリンクをご覧ください。



ここからはネットでどう配信するか。環境はどういうものだったか。実際にどう失敗してリカバリーしたか、を載せていきます。興味ない人は全くないでしょうし、興味ある人は以下の箇条書きでもご理解いただけると思います。

配信はこういう環境でやろうとした

・マイクロソフトTeamsの会議機能+ノートパソコンのOBSで配信
・カメラはビデオカメラをノートパソコンに接続。OBS経由で取り込み予定
・音声はボイスレコーダーを保険として録画しておく
・ビデオカメラには外部マイクを接続
・事前募集はこくちーずで作成。支払いは銀行振り込みか、paypalによるクレジットカード支払い
 ※こくちーず、便利ですよ、ほんとに。
・保険and後日販売用にビデオカメラで全体撮影
・私自身MVNOを2つ契約。それぞれでテザリング予定。さらには会場となるレザークラフトフェニックスのwifiも保険として使う予定
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実際にあったトラブル

・会場となるフェニックスの教室スペースだが、docomoが恐ろしく回線速度が遅い。300kpsなんて数字久々に見た
・手持ちのMVNOの1つはdocomoだが、他方はau。こちらは80MBなり速度があるので、配信大丈夫だろ!と思ったら、テザリングしたら速度が10MBなどに低速になってしまう。この時点で真っ青
・近くにいた知人にグローバルwifiを端末ごと借りたが、これもdocomo回線なのか、配信場所だけ速度がものすごく遅い
・セミナー開始の時間が迫る どうする!?

対処法

・スマホのau回線は爆速だったので、最終的には2時間のセミナー中、ずっとスマホを片手で保持してプルプル震えながら参加
・スマホをスタンドで立てかけていたら、途中で「バッテリー20%ですよ!」と
・手持ちのPD充電対応のモバイルバッテリーをPD充電可能なタイプCケーブルで充電。おかげで20%以下にはならずに配信を続けられた
・オンライン参加者には謝罪して、撮影していた動画を無料でプレゼント、と言っておきました

反省点と良かった点

・定額で多人数・事前徴収の必要があるセミナーは、こくちーずの有料プランで参加料を回収代行依頼したほうがいいな。依頼しておくと一覧で「この人は払った」「払っていない」が一目瞭然。paypal経由でクレジットカード振込も可能。
 ※こくちーずは「キャンセル待ち」や参加者csvダウンロードが基本機能としてあるので、とても楽です。


・まさか4つの回線を使っても全部死亡寸前とは思わなかった。想定が甘かったな、と。今どき都会のど真ん中であんなにdocomo回線が通じづらい場所があったんだなぁ
・スマホ用の三脚買っておこう
・PD対応のバッテリーとケーブルなかったら多分止まっていたな


・ウェビナー専門ツールをあきらめて月額サブスクで契約するべきか?


・ビデオカメラ用意しておいてほんとに良かった。カメラと録音機材はどれだけ持っていても無駄にならない。高い機材一つよりも信頼おける型落ち品のカメラ2つのほうが安心感あります。(私が使っているSONYのビデオカメラ、多分8年ほど前のやつです)


最悪を想定していてもそれを乗り越えてくるのが最悪

配信話については興味がない人は全くないと思います。ですが、技術の話を聞いてほしいわけじゃありません。

「最悪に備えていたが、そんなものはあっさり乗り越えてくるのが最悪」「それでも色々な対抗策用意していたのでなんとかなった」=「卵を一つのかごに盛るな」ということです。


これはオンラインの話に限らずです。最初に話したチバレザーで走り回っている1008(センノハ)株式会社さんも同じです。失敗なんて起こり得るんです、必ず。その時に走り回るか、手持ちの秘密道具なり、人の縁を使えるか、です。


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なにかひとつの選択肢にすがりつくのではなく、いつでも最悪を考えて、選択肢を複数用意しておかないといけない。それでも最終的には覚悟決めたら大概のトラブルは解決できるよ、という話でした。

今後予定(&お知らせ)


●4/28(金) 「フェニックスナイト」
 「レザークラフトフェニックス」(大阪・奥なんば)で月末恒例の夜間延長営業「フェニックスナイト」を開催(20時まで営業)。革の無料セミナーなど行います。



5/25(木) 「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」
「東京レザーフェア」と連動して行う「浅草エーラウンド」の会場内で「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」を予定しています。毎年5月の恒例になってきている"ぷち革日和"です。

午前は上記の千葉レザーさんを招いて大阪でやったのと同じセミナーを開催予定です。午後は大阪の古瀬シュースティリスタ研究会の古瀬氏を招いての靴の専門セミナーをとりまとめしています。


5/26(金)~5/27(土) 「本日は革日和♪ in 東京」
「本日は革日和♪ in 浅草エーラウンド」の翌日は会場を変更して、「本日は革日和♪ in 東京」を開催予定です。今回も事前予約制(有料・お土産あり)です。

●最近メールマガジンのやり方を変えました。
何を言っているやら、と思いますが、写真使ったり、リンク繋いだり、と考えるとこのほうがいいかな、と思いまして。これで遠慮なく写真とか使えます。古いネット利用者なのでメール容量が大きくなるのには罪悪感感じますので。メールマガジンの冒頭と末尾にはそこだけでしか書いていない雑談をちょっとだけ書いています。


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プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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