ギエルモ・バスティアス

2年前、オーストラリアから英語教師として来日した。日本に来たのは日本の皮革製品目当てではなく、近代・古代日本に非常に興味があったからである。残念ながら、当初は日本に皮革産業が存在すること自体、知らなかったのである。

そんな私が日本の皮革のことを少し知るきっかけがあった。ある日本人の友達が海外のオンラインショップで革靴を購入したと聞いた。その靴は、革靴なのに非常に安く、日本で購入する金額の半額以下で販売されており、もちろん、彼女は即購入の運びとなった。待ちわびたその靴が届いた時に、非常に驚くことがあったそうだ。それは、30ドルで購入した靴に対し、45ドルもの税金がかかるという郵便局からのお知らせが届いたからだ。

この話を聞いて、日本にも皮革産業が存在し、それが非常に保護されている産業だと感じた。
私の国オーストラリアでは、自国の製品と競合する製品・産業の輸入に対しては政府が保護を行う。きっと日本も同じなんだろう。では、そのように保護されている日本の皮革産業はどの程度の規模なのか。

少し話はそれるが、南米にアルゼンチンという国がある。1800年代後半に、アルゼンチンは畜産業で巨大な経済基盤を築くこととなる。地図を見ればわかるが、国土的にも家畜が育つ広大な土地を有していることから畜産業が発展し、大量の牛肉と牛革皮を輸出することが可能となった。アルゼンチン航空のエコノミーの座席でもさえ全すべて皮革で作られていた時期があるほど、アルゼンチンという国にとって皮革製品・産業は身近であり、重要な産業である。
そういう視点で考えると、日本という国はアルゼンチン、アメリカ、そして私の国オーストラリアと比べても畜産業が盛んではないというのは明確である。元来、魚を好むという文化的背景により、畜産物への需要も、国土の広さからも、畜産業が発達するという要因は少ないと推測できる。生活に密着した視点で言えば、日本の食事を見れば一目瞭然でもある。牛丼を食べても、すきやきを食べても、肉じゃがを食べてもわかるとおり、日本の牛肉は非常に薄い。分厚いステーキを食べようものなら、オーストラリアの何倍もの値段を払わなくてはいけない。
そんな点も日本の畜産業の規模を示す一つの指標であり、畜産業に付随する皮革産業の規模も垣間みえる気がする。

日本は、世界的に「高い品質」「丁寧な作業」「高度な技術」で有名である。昨今は、それらの優位性が電化製品を中心に活かされ世界のパイオニアとしての役割を担っている。また、日本の絹や木綿の品質も有名であり、世界中からバイヤーが日本製の絹・木綿を求めていることも有名である。
では、その点、日本の皮革はどうなのだろうか。

残念ながら、日本の皮革産業は世界と競合する前に、自国の技術との競合なのではないかという気がしている。なぜなら、東レが開発しているスエード調人工皮革のエクセーヌがヨーロッパを中心とした自動車産業で利用されているのは世界的によく知られている。また、日本の伝統武道の一つである弓道の手袋として使われる‘ゆがけ’に、本来の鹿革ではなく、同じく東レのエクセーヌが使われているのに驚いたのを覚えている。

このような状況を含めて、個人的には日本の皮革産業の挑戦はまだまだ続くのではないかと思う。日本の畜産業の規模的な面からも、他国との皮革製品の価格競合という問題だけでなく、自国の技術で生み出される代替素材との競合もあるからだ。ただ、どんな状況でも市場は存在する。そのよい例が吉田カバンのPORTER(ポーター)だ。鞄に特化し、大量生産も行わないので価格も安くない。デザイン性と品質で「日本らしい」鞄を展開している。先に述べたように、日本は「高い品質」「丁寧な作業」「高度な技術」で有名である。それは日本がすでに世界で確立した日本ブランドであるゆえ、その高い評価を上手く利用して、日本の皮革製品を海外によりアピールしていくことが、日本に存在する皮革産業にとって非常に大切なのではないかと思う。世界が未だ知らない日本の優れた皮革産業を。

ところで、先に話をした海外から靴を購入した彼女。靴以上の税金を払ったわけだが、結局はサイズが合わなかったらしい。

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