アリス・ゴーデンカー

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最近、ロサンゼルスの友人が私を訪ねて来日しました。彼女の東京探訪の手助けをした後に、私たちはちょうど紅葉がピークになる時期に京都に一泊旅行をしました。彼女が米国に戻る前の日に、そのお礼として贈り物をいただきました。
贈り物は黒い革で作られた小さな小銭入れでした。私はそれを手でつかみました。革はとても滑らかで手触りが柔らかだったので、品質の良いものであることが分かりました。でも、何か特別なものという訳ではありません。模様とか特徴はありませんでした。デザインはとても地味なものでした。正直に言うと、つまらないものに思えて、少しがっかりしました。

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それから小銭入れを開けて、びっくりしました。全体の外見とは対照的に、小銭入れの内側は明るく色鮮やかなのでした。内側の布には、マゼンタに黄色に青のような鮮やかな色を使って明るく複雑な模様がほどこされていたました。

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友人は笑いながらこう言いました。 「あなたにぴったりだと思ってこの小銭入れを選びました。つまり外見はおとなしそうだけど内面はワイルドだということです!」彼女の言ったことがあまりに気が利いていたので、私は思わず笑ってしまいました。まったくその通りです!その小銭入れは、「SOU・SOU」という流行の京都のファッション会社が作ったものでした。「SOU・SOU」は変わった布地で派手な地下足袋を作っていることで国際的に知られています。

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最終的には、思いを込めて選んでくれた贈り物にとても満足しました。やはり、そういうプレゼントは一番の思い出になるでしょう。
友人が荷造りしているときに、今回の日本訪問と日本の印象について話をしました。「日本の一番好きなところは、いろいろとびっくりさせられることです。どこへ行っても何か新しく面白いことに出会います。私にとって、日本は刺激的で、新しい発見があふれているところです。」と彼女は言いました。

このエッセイを書き始めたとき、私はその言葉を思い出しました。初めて来日する大半の人は、魅力的な革製品を見つけることなど期待していません。イタリアやブラジルを訪れているならともかく、革製品を求めて日本にやって来る人は絶対にいません。日本には、美しさや機能性および品質を含めて多くの定評のある物がありますが、革製品の評判は高くありません。
それでも、外国人観光客が日本で満足のいく革製品にたまたま出会うことがあれば、その魅力に惹きつけられてしまうでしょう。人は、「日本製」というだけで美しく機能的で高品質な物であることを期待してしまいます。しかし、外国人観光客を感嘆させるだけでなく、日本の革製品を買わせるためには、もう一つ必要なことがあると思います。それは意外性です。

「意外性 」とは、正確にはどういうことを言っているのでしょうか。実は、私がもらった小さな小銭入れが申し分のない見本です。その内側に予想もしない鮮やかな柄がほどこされていた意外性です。製品にユニークさや遊び心や楽しさがあると人をあっと言わすことができます。
ここで私が驚いた日本の革製品の見本をいくつかご紹介します。

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これらの美しいペンケースは、徳島県で作られたもので、通常は布だけに使用される伝統的技術の「藍染」により染められた革からできています。おそらく、この種の色は世界中どこにも見つけることができません。会社が当然にこの製品群(財布とキーホルダーも含みます)を「日本ブルーレザー」シリーズと名付けている理由がそこにあるのです(「絹や」製品)。

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このエレガントなパーティーバッグは、宝石で覆われていて非常に重そうに見えます。しかし、実際には驚くほど軽いのです。外観は頑丈そうで高級に見えても、豚革に特殊フィルムを貼ることによって作られた革だからです。金属加工は熟練した日本の職人によって行われ、ハンドバッグからクラッチバッグに変えるためにチェーンを内部に隠すことができます。伝統的な職人技、新技術、機能と美しさの完璧な組み合わせです(「平田袋物工芸」製品)。

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「銀座タニザワ」本店ショールームを訪問した際、すぐに印象的な赤い縁取りのある黒い財布に目がくぎづけになりました。思わず触れたくなるほどものすごく柔らかいラムスキンで作られていて、色のコントラストだけでなく、豊かな色使いがとてもいい感じを出しています。 ( 「銀座タニザワ」製品 )

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「銀座タニザワ」で見つけたもう一つのユニークな製品は、伝統的な漆革の技術を使用して作られたこの財布でした。京都の職人が革に漆を塗り、漆がまだ湿っている間に、上に銀の薄い切れ端を貼り付けます。その効果は大変に上品で、とても日本的なものになります。このシリーズには様々な製品や色使いがあり、「源氏香 」と呼ばれています。(「銀座タニザワ」製品)。

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最後になりますが、私は、手染めの革から作られたこの 「サビ」ハンドバッグが大好きです。 「サビ」とは「錆」を指しますが、審美的な言葉で、望ましい不完全(しばしば「わび・さび」という言葉でも表現されます)も意味します。染色工程の一部として、職人が処理された革に金属を固定し、化学反応を発生させて、色と陰影のユニークな模様を創り出します。 (「プリンセスバッグ」製品)

日本の革製品は、ちょっと違うことを提供することで、世界市場で競争できます。美しさ、機能および品質は欠かすことができません。しかし、楽しませ、驚きを与える何かを提供するときに企業が最善を尽くしたことになるのです。

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※アリス・ゴーデンカーは、15年以上日本に住んでいるアメリカ人です。ジャパンタイムズの長年にわたるコラムニストで、英語で日本についての記事を定期掲載しています。外見はおとなしそうですが、内面はワイルドな女性です。

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