欧米ブランドに「負けていないぞ!」

January 25, 2023

【村木るいさん連載】動画で学ぶ限界と、現代の職人育成の一例、という話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
2023年第一弾は動画配信の普及とともに変わるものづくり技術習得、技術者、職人の育成の新しい潮流を、村木さんの体験からリアルにまとめてくれました。ぜひ、ご覧ください。

*   *   *

通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

人気プロジェクト「本日は革日和♪」参加イベントが2月中旬、横浜で開催されます。このほか今後のスケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。


*   *   *

毎度です!
「ものづくりもお金儲けも歴史調べるのも好きですよ」ムラキです。

先日イベント出展していまして、客寄せパンダ的にプチセミナーをしていたんですが、学びが多かったですわ。人生いくつになっても学ぶことは可能だなぁ。

さて、今回のblogは、

・実際に対面じゃないと「摩擦と固定」の話ができなかった
・動画のほうが学びやすいジャンルも確かにある
・技術や視覚・聴覚以外の情報を伝える難しさ
・左官屋の修行は動画でやる時代

という技術と動画の話となります。
230124017.jpg

革にまつわる工具と工法、というイベント


普段ムラキが主催している「本日は革日和♪」というイベントは、革にまつわる会社さんや、ムラキ個人が面白いと思ったり、革に使えるな、と思った業者さんを呼んだりしています。

「革にまつわる工具と工法」は染料屋のlizedが主体に行っています。工具と工法、というだけあって出展するのは「工具」「工法」にまつわるものを提供できる会社さん。もしくは、lizedの柳澤さんが呼びたいと思った業者さんのみとなっています。


私の役割は客寄せパンダとして、ワークショップやぷちセミナーを担当しています。
230124015.jpg

参加料1,500円かかるけど盛況でした

230124024.jpg

230124025.jpg

コロナ禍のためイベントを行うのは難しくなりました。来場者が少ない、ということよりも、イベント会場運営サイドが「多数来場すること」に対して眉をひそめるのが今の時代です。

1,500円のお金を取るのは遠方の出展者が少しでも出展料を安くするため、という意味合いもありますが、それ以上に「一定時間、部屋の中がギチギチになるほど混雑させない」という目的のほうが重要です。「いつでも入場okよ!」「無料だよ!」とやると、特定の時間がギッチギチになってしまい怒られてしまうんですよ、今の時代は。

私がお手伝いしているフェニックスでは、今回は皮革素材や金具を一切展示していませんでした。

「革にまつわる工具と工法」ですから、皮革素材じゃなくて工具と技法を見せるためです。また、工具に関しても一切販売をせず、あくまで展示のみです。興味あったら後日ネットで買ってくださいね、という方式で行いました。
230124027.jpg


会場では、フェニックス以外にも下記の会社が展示・説明などを行っていました。


客寄せパンダとして「摩擦と固定」の話をしつつ体験してもらう


230124031.jpg

ムラキは来場しているお客さんが暇そうだったら、「500円くらいの価値ある摩擦と固定、の話聞いていきません?」とナンパして話をしていました。

・あなたが30cmなり50cmなりを2cm幅できれいに切れないのは工具と技法の問題だ!理解すれば簡単に切れる。こういう工具があれば更に簡単。
・100均で摩擦を高めて効率よく作業する方法
・100均で売っているレザークラフト工具のこれが悪いのは固定と摩擦の問題
・重りをケチると良くない。重りがあるとこんなことができる
・マスキングテープがどれだけ便利か体験してもらおう
・カッティング定規、高くても駄目なものは駄目。何が重要なのか。実際に体験。
・型紙から裁断するには固定が重要
・固定と摩擦の重要性

1/13.14 CIY!染靴ws+染めるラウンドコインケースws+体験できる"固定"と"摩擦"技法 in 大阪 革にまつわる工具と工法 | phoenix blog

100円均一御三家+αがなんば駅から徒歩10分圏内に出来た&私がやっている100均サイトの便利な使い方 | phoenix blog 


どういう話をしたかは上記blogにちょっとだけ書いています。基本的に文字にせよ動画にせよ技術を教えるのは限界があります。

動画というツールの便利なところ

230124032.png

なにか学ぶときは「書籍があるかどうか」「動画で学べるかどうか」「泣きつける所があるかどうか」を重要視しています


過去に何度も行っている3Dプリンターセミナー。そこで聞かれるよくある質問は、「どの3Dプリンタを買えばいいですか?」という質問です。で、その際の回答の一つとして答えているのが、「YouTubeなりで解説や説明動画が載っている機種を選んだほうが良いです」というものです。

私が3Dプリンタのデータ作成する時はFusion360というソフトを使っています。これは使い勝手がいい、云々よりも、「書籍が出ている」「YouTubeなりTwitterで情報が多い」という2点から選んでいます。
書籍が出ているかどうか?
「何かを学ぶ」という時、私は書き込みができる書籍があるかどうかを重視します。これはまぁ、年寄りですので、今の時代から外れています。自分の手持ちの資料を電子化しまくるくせに、勉強するときは書き込みしないと頭に入らないんですよ。
動画で学べるかどうか?
動画で学ぶ、、要はYouTubeで学べるかどうか、ですが、意味合いが2つあります。

自分で検索して情報を調べるために「YouTubeに動画があるかどうか」を調べます。もう一つは、「情報発信している人が多いかどうか」を調べるためにYouTubeを見ています。
泣きつける所があるかどうか
YouTubeは一つの指標です。そこに情報が多いと、Twitterなどの各種SNSやYahoo知恵袋、さらにはココナラなどのアウトソーシングサイト、さらにはLineグループなど。一つのSNSだけではなく、複数のSNSやコミュニティで探します。「泣きつける相手がいるかどうか」という点を重要視しているわけです。


PCに関する技術を学ぶならば動画はすごく便利だ


3Dのデータ以外にもエクセルやGASなどもいじりますが、これらを学ぶときも動画で学びます。本で学ぶよりも「ここをクリックして~」などの動作が見られるのはすごく便利です。

今の小学生や中学生が羨ましいですわ、ほんとに。

動画バンザイ! でも、革の知識や技術は学びづらい


動画やSNSって便利! じゃぁ革の技術習得って動画やSNSで学びやすいか! というとそうもいきません。

上記の「摩擦と固定」の話ですが、動画でも一応伝えることはできます。ですが、私自身はそれをやる気がいまいちありません。

原因は2つ。


つは「人は無料で得たものを大事にしない」からです。

YouTubeで無料で見られる、というものを人は大事に見ません。「どうせまたいつでも見られるだろ」と思って見る人は手を動かさない率が圧倒的です。


もう1つは「動画で伝えられるのは音と視覚情報だけ」だからです。

3Dのデータ作成やエクセルなどはPC画面を見ながら行う知識や技術です。ですが、革に関する知識や技法は「手の感覚=触覚」じゃないと伝えられない情報が多すぎます。

特に今回の「摩擦と固定」というのは手で体験しないとわかりません。

滑る、というのはどういうことか。

100均の滑り止めを貼ると貼らないで、定規の使い勝手はどのように異なるのか?
オススメの4mm厚みのカッティング定規だとどれだけ効率よくなるか
きれいに切れないのはテコの原理が働くからだ!
固定は2箇所で行わないと遠心力が働く

などなど、これらは全部実際に触らないとまずわかりません。

動画で何かを伝えるには限度があります。

5分の指導で急激に進化して深化する

230124034.jpg

私にかぎらず10年ものづくりをしていると、「初心者が何がわからないか」ということがわかりづらくなっています。ですが、「なんでも聞いてください」といっても初心者に限らず、とっさに「質問」というもののは出てきません。

眼の前で実演などをしていると、「そういえば、こういう疑問がある」などとポロッと出てきます。
今回聞いたのは、「定規を使っているけどきれいに切れない」というものでした。

「動画を見たりしてレザークラフトを始めているが、自分のやり方が正しいかどうかわからない。定規を当てているのにきれいに切れない。原因がわからない」ということでした。

材料屋に片足突っ込んでいる身としては、教室業をしている方たちの邪魔をするのはよくありません。ムラキ自身は教室業をする気は全くありませんが、こういうイベントやワークショップなどで短期的に教えることはします。

今回は質問者さんに、「じゃぁ、試しに道具と革貸してあげるから切ってみてください」と実技してもらいます。

で、一つ一つ質問者さんのミスした点を潰していきます。

「違う。カッターの刃がきちっと沿っていない」
「違う。カッターを切る時の視線の位置が悪い。見るのはココ」
「違う。左手の定規の押さえ方が弱い」
「使っているカッターが小さいので切りづらいのもある。それは私が悪くてあなたのせいじゃない」などなど

5分ほど教えると、ミスはほとんどなくなった、と思います。

「いま私が5分くらい教えて、あなたはこの5分でカッターのこの部分に指を添えて安定させる、ということを自分で編み出しました。私の手は大きいのでここに指を添える必要は一切ありません。あなたが生み出したのはあなたに最適な方法です。それで実際よく切れるようになっているので、そのやり方を進めてください。大丈夫、5分前よりもあなたは進化しています。私の言ったこともきちんと理解しています」

「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」は現代でも通じるか?


山本五十六の名言で上記の言葉があります。
眼の前でやってみて、説明して、させてみて、その後褒めるなりして継続させる、というもの。


広島の大和ミュージアムもいつか行きたいところの一つですな。

230124029.jpg

重要なのは、「今なんの工程をしているか」「実際に自分でやってもらう」「それに対してこの点は良かった・この点は良くない、ときちんと指摘する」ということだと思います。

革の技術は、靴にせよ、鞄にせよ、財布にせよ、難しい点が非常に多いです。
それは「技術が難しい」というわけではなく、革の素材が「硬さ」「張り」「腰の強さ」などによって技術も変えなきゃいけない。結果的に「伝えづらい」という厄介な技術となります。

だからこそ、目の前でやってみて、説明して、相手にさせてみて。そのうえで更にやってみて、説明して。できたらきちんと褒める。これをやらないと人が育たないわけです。

上記の5分講義で教わった人は技術が伸びたとは思います。それは「私の教え方がうまい!」というわけじゃありません。初心者の方がきちんと聞いてくれたので5分で上達しました。それくらい初心者、というのは伸びやすいわけです。

これが中級者などになると必ず伸び悩みます。そういう時に、教室に行ったり、誰かに教わる、というメリットの一つは「失敗した時にそれを解説してくれる」ということがあります。

では初心者じゃなくて、中級者や、職人を育てる会社などはどうすればいいのでしょうか?違う業界の職人の育て方を見てみましょう。

左官屋さんの「新たなプロの育て方」


原田左官、という左官屋の社長さんが2018年に出した「新たなプロの育て方」という本では、修行に時間のかかる左官屋を若手に嫌がられることなく、技術をどう習得してもらったか、という内容を説明しています。




上記動画でも学べますが、要点まとめると・・・

・自分のスマホで録画して見返してもらう
・動画を見ながら復習
・若手の成長をきちんと祝う
・若手がやめるのは人間関係!

というものとなります。(興味ある人は本なり動画なりきちんと見てくださいね!)

山本五十六の「やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ」 と本質は同じだな、と思います。

革は実際に見て触らないとわからない情報が多すぎる


まぁ、実際に触ったり手を動かさないとわからない情報が多すぎます、革は。

「失敗するのはタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスが悪い」「だから動画や説明聞いたほうが賢い」と思う気持ちはわかります。でも、失敗したくないなら、さっさとお金払って教室にいったり、働いて習得したほうが良いです。

動画で学びたい!というならば人の倍以上、作って失敗して、原因を考えて、リトライしていくしかありません。

YouTuberが「このやり方が正しいんです!」「この革がいいんです!」と言っていたとしても、それは「君の環境で」「君の買った革で」「君の作りたいものに対して」そのやり方が正しい、というだけの話です。それくらい革は不確定要素が多すぎます。タンニン革もクロム革も性質・性能全然違うのに、全部同じ「革」というくくり方なんだものなぁ。


さぁ、実際に触ろう、聞こう ムラキの今後予定

230124022.png
直近では下記2つのイベントで客寄せピエロやっています。大丈夫!コワクナイヨ!ほんとダヨ!

2月17日(木)~19日(土) 開催



3月3日(金) 開催


上記研修事業は大阪府、と書いていますが「オンライン可能」となっています。実際会場では来てもらって触って知ってもらうものをなにか用意はしておきます。

プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

最近のブログ記事

カテゴリー

月間アーカイブ

rss
facebook witter

このページの一番上へ