2019年4月24日 の記事
April 24, 2019
村木るいさんの「人に話したくなる革の話」良い革の定義は難しい・悪い革の定義は簡単
カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」
当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。
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毎度です!
「革関係の資料探しに毎日4時間録画中」のムラキです。100時間ほど色々な番組を見ていると1時間ほどはすごい情報に出会えますね。
前回のBlogでは鞣しと仕上げの違いについての話でした。
で、今回は次の流れで話していきます。
・良い革・悪い革の定義って難しい
・タンナーや国で革の定義する無意味さ
・でも、悪い革ってこういうの
結論は「良い革の定義は難しい・悪い革の定義は簡単」というものとなります。
目次 [hide]
良い革・悪い革って定義が難しい
私が革屋さんの店頭に立っていたのはもう5年ほど前になります(今は裏方なり、人の前で革の解説なりしていますが、一応革屋でもあります)。
店頭で立っていた時の質問で簡単なものは「店員さん、好きな革はなんですか?」というもの。これは店員それぞれが好きな革があるので簡単な回答となります(私は下の写真のようにふわっと柔らかなわりにしっとりとした手触りのクロム革が好きです)。
それに対して一番難しい質問は「良い革・悪い革ってどんなもの?」というものでした。
「万人が良い・悪い」というものは基本的に存在しません。特に革の場合は難しいです。
例えば、、、
ナチュラルな革が売りな鞄・小物屋さんにしたらタンニン鞣しの革が一番良い革、ということになります。
靴屋さんにしたら吊り込み(靴の工程上必要なもの。ギュムッ~~~~~~~と引っ張り工程)ができるクロム革が一番良くなりますし、靴底にはピット鞣しのタンニン革が最高、となります。
家具屋さんにしたら傷がなく、色落ちの可能性が少ない顔料仕上げのクロム革が一番良い革となります。
つまり、お客さんによって良い基準なんてバラバラなわけです。
だから店頭で答えるときは「お客さんが好きな革が一番良い革です」と答えざる得ませんでした。
~~国製だったり、~~タンナーだったら良い革じゃないの?
革という素材はとにかく安定性に欠けます。
素材である「皮」の供給量は世界で食べられる肉の量でも左右されますし、天候でも左右されます。育て方でも「皮」の品質が変わります。育てられている牛の品種やその国の情勢によっても左右されます。
この元となる素材「皮」を革業界では「原皮」(げんぴ)と呼びますが、この原皮がものすごく重要です。
原皮~皮革用語辞典より
革の製造原料となる脊椎動物皮。主に家畜のと体から剥皮し、革や毛皮製造工程に入るまでの皮。キュアリングを施した塩蔵皮、乾皮をいい、生皮も含めて脱毛されていない皮を総称する。
例えば、、紛争があると原皮の状態がいまいち悪い
以前手袋業界の方から聞いた話。
「昔アフリカの某国で紛争があってな。数年間手袋用革の原皮である羊が全然入らなかったんだよ。紛争が終わってようやく原皮が日本に入るようになったんだが、質は良くなかった。紛争をするくらいだから食糧事情が悪く、結果的に羊に食べさせる余裕もなかったんだろうなぁ。あれは悲しかった」
この原皮の状態が良くないと、タンナーがどれだけ手間をかけたとしても「良い革」というのは難しくなります。
例えば、、原皮の状態が悪いことなんてざらにある
原皮は選別されて購入されていますが、鞣し工程の後半になって「あ、これ傷が浮き上がってきた」という事態もあるわけです。
下の革は馬革タンナーのアークレザージャパンさんに無理難題をいって作ってもらった特別な革です。
「アークレザージャパンさん。セミナーとかでみんなに見せたいんだけど、すべての傷がある革がほしい」
すごく嫌な顔をされましたが、半年待って作ってもらったのが下の特別な革。半年待ったのは「これほど傷があるのは珍しい」という原皮が出てくるのを待ったからです。
この革はおそらく、、虫傷、バラ傷、マニュア、ナイフ傷あたりは全部入っています。ですが下の文章でもわかるように他にも様々な傷が存在します。
動物の皮膚は、下図のように、虫による傷(ダニ皮、チック、コックル)、イバラや鉄柵などによるかき傷(バラ傷)、病気や糞(マニュア)などによる皮膚の障害などを受ける。また、焼き印(ブランド)といって牧場主が所有を明らかにするため、臀部などに焼きゴテで印をつける場合がある。この部分は火傷として皮膚が損傷されている。
その他に、剥皮の際、ナイフで真皮を傷つける。不溶性の塩により線維構造が破壊され、白色、黄色、褐色の斑点となる塩班。施塩の遅れた皮や塩の不足などでヘアスリップ、アンモニア臭、肉面の変色、銀面の損傷を起こす中ぐされ。原料皮中の油が酸化し、コラーゲンタンパク質と結合して生ずる褐色斑状の油焼け。さらに輸送中にオーバーヒートによる損傷もある。遺伝的要因で発生するパルピーハイドなどが存在する。
このように、原料皮は様々な損傷を受けている場合があり、革の品質に大きく影響する。損傷の大きな原料皮は下級品に位置づけられる場合が多い。
原皮・鞣し・仕上げの3工程がすごく重要
この3つの工程が重要であり、特に原皮が悪いと鞣しの工程で苦労することになります。
つまり、「~~国だから全部良い」「~~タンナーだから全部良い」「~~の地域だから全部の革が良い」というわけではないわけです。
鞣しや仕上げでリカバリーはできる
「じゃぁ原皮が悪いとできた革は悪いの?」というとそんなことはありません。鞣しや仕上げ工程で変化させることも可能です。
例えば、、、バッフィングという工程があります。
革の銀面(ぎんめん。表面)や裏側である床面(とこめん)をヤスリがけすることで起毛させた状態です。
これなどは銀面部分に小さな傷が細かくあったとしても起毛させることで目立たなくすることが可能です。
「じゃぁ起毛させる、ってのは傷がある革をごまかしているということ?」
いいえ、私はそうは思いません。
革に傷がある状態のものをなんとか活用するための知恵だと私は思っています。実際に起毛させた革=スエードやヌバック、ベロアが喜ばれる業界にしたら「起毛させた革が一番良い革」となるわけです。
例えば、、、銀面ではなく床面を使う
下の革は昨年の「ニューレザーコンテスト」で高度加工部門にて受賞したアルファレザーさんの革です。
この革は羊革なのですが、銀面部分に傷が多いので、床面部分を細かくバッフィングで起毛させ、染料で模様をつけ、さらに金箔を施しています。起毛させることでより金箔の定着が強くなっています。薄く、軽く、ゴージャスな革となっています。
「原皮」を「鞣し」工程で革とし、その上に「仕上げ」工程を施していくわけです。どの部門が良い・悪い、ではなく、どの部門も大切なわけです。
悪い革の定義は簡単
革は布地のように見えますがコラーゲンというタンパク質が繊維で複雑に絡み合っています。
定期的にこのコラーゲンに油分なりを補給してあげないと繊維がブチブチとちぎれます。
油分が切れたら脆くなる
で、この写真の革ですが、革のセミナーをする際に持っていくようにしている「悪い」革です。
2年間、紙でくるまずに机の下に放置されていた革をA4サイズに裁断したものです。表面上はまともに見えるのですが、油分が切れてパサパサ状態です。この状態ですと切れ目を入れて引っ張るとブチブチとちぎれます。
油分が切れた革の見極め方
製品状態(靴や鞄、財布)になると見極めは困難です。せめて素材段階ならば見分けやすいです。
・銀面ではなく床面部分を触って、指先から油分が吸い取られる感じがする
・床面部分をこっそりと爪でカリカリと削ってみるとボロボロと崩れそう
油分が切れた革はどうすればいい?
製品状態でも油分が切れます。そうなれば油分補給としてクリームやオイルを入れてあげてください。
ただし、オイルを入れると染みになる場合もありますし、油分補給をしても完全に元の状態には戻りません。
油分を切らさないためにはどうすればいい?
製品状態でしたら定期的に油分を補給してあげてください。
素材状態でしたらせめて紙で包んで酸素と紫外線から少しでも守ってあげてください。また、1年以内には使ってあげたほうが良いですね。
革屋さんで売っている革は基本的に回転(定期的に売り切れている)しているので、油分が切れることはありません。不安でしたら棚の下に眠っている革などは避けておいたほうがよろしいかと思います。
結論:良い革の定義は難しい・悪い革の定義は簡単
ということで良い革の定義は難しいです。悪い革は「油切れた革はボロボロになっている」というものです。
ですので皆さん、革のお手入れは忘れずに。タンスにしまいっぱなしが一番可哀想ですので。
今後の予定
6/13~15(木・金・土)は神戸素材博覧会で革日和ブースで出展しています。
9/26~28(木・金・土)は横浜素材博覧会で革日和ブースで出展しています。
それまでに姫路バスツアーをやろうかどうか考え中です。詳しい情報はメールマガジンなりで告知しています。
プロフィール
鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター
東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。
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