2021年9月22日 の記事
September 22, 2021
村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/1枚だけの皮を革にするのはとても大変、という話
カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」
毎度です!「ワクチン接種2回めで熱が38度」のムラキです。
38度出ているのに頭はまともに動く状態です。体温測ると「えっ、38度も出てるの!?」と驚きました。
さて、今回は「豚の皮を1枚だけ鞣してほしい、と言われて、どのように考え、タンナーさんを紹介したか。タンナーさんは何を恐れて、どこで苦労したか」という話を書いてみようと思います。
今、現在日本各地で害獣としてのシカやイノシシ、アナグマなどがメディアで取り上げられていますが、「肉で利益出ないから、皮で利益だそう!」と思うとどれだけ大変か、というのもわかっていただけると思います。
豚の皮を1頭だけ鞣してほしい、という相談
人づてで紹介がありました。「豚を1年肥育して、それを屠畜しました。この皮を鞣したいんですが、どこか紹介してもらえないですか?」というものでした。あ、基本的に私は紹介してほしい、と言われた際はお金をきっちり取ります。紹介した先が地獄だったり、紹介先に行った人が悪魔だった場合、確実に逆恨みされるのでお金の発生しない「紹介してくれ」要請は無視します。
八島良子 Ryoko Yashima(@yashimaryoko) • Instagram写真と動画
ここで聞いたのは下記の点と他にいくつか。
1 継続性はあるのか?
タンナーさんに限らずですが、職人仕事は継続が力となります。1回よりも5回、5回よりも50回作ったほうが確実に早くきれいになります。どれだけ凄腕でも、1回こっきりの仕事は次回に活かしづらいので、高額にならざるえません。
2 革づくりのポイントは?
何を重視し、何が妥協でき、どうでもいいポイントはなにか...今回でしたら「毛皮にしてほしい」「もとの豚の色合いを再現してほしい」「もとの厚みを残してほしい」「背中でぶったぎることなくもとの大きさで鞣してほしい」が重視する点でした。豚が生きていたころに近づけたい、ということでした。
逆に「引っかき傷や穴などはそのまま残してほしい」「鞣し方はおまかせします」ということです。
3 何に使うのか?
靴用かばん用、ジャケット用など様々にあります。今回のケースでは「美術の立体作品として表現行為に用いる予定」とのことでした。
今回紹介したのは姫路・高木のオールマイティさん
レザー素材オリジナル受注生産|姫路の皮革・革素材/タンナー オールマイティ
過去にタンナー見学バスツアーで何度かお世話になっているタンナーさんです。
タンナーさんは 何十枚を鞣してお金にする商売です。このオールマイティさんは稀有なことに「1枚からでも鞣します」ということをされています。おかげで全国から今回のような依頼も来たりしますが、その際に私が聞いたような「どの点が妥協できるか」「どの点が重視するか」「何に使うか」などを明確にしていると話がスムーズになります。
オールマイティさんは「1枚からでも要望の革を仕上げます」というのを謳い文句にされています。ただ、「どこを最重要視する」「ここは重要視しない」などを明確にしていかないとお互いの時間の無駄となりますのでお気を付けください。
経過が気になるので、見に行きました
オールマイティさんに「できたら呼んでね」とお願いしておいたので、実際に出来上がった際に見に行きました。おぉぉぉぉ!!よくまぁ毛付きで頭まできちんと鞣したなぁ!!
原皮大丈夫やった?
一番不安だったのは保存状態です。依頼者さんは屠畜し、皮をとったあと、冷凍庫保存ということでした。この冷凍庫ですが、ご家庭用では話になりません。普通の冷凍庫に入れている間にも徐々に腐敗は進みます。3月下旬に屠畜し、その後冷蔵庫保存、ということで「いけるかなぁ」と不安には思っていましたが。
「僕も不安やったけど、業務用冷凍庫やったわ。ほんとは塩2kg~4kgをまんべんなくまぶして畳んでおいてくれてもいいんやけどね。上記の写真の鹿革も他の地域の原皮だけど、こちらは塩漬けにして送ってもらっているよ」(オールマイティさん)
それだったら半年とか保存できるの?
「無理やね。夏場で1か月。冬場で数か月。やっぱり傷んでくるよ。今回のは業務用だからほんとに良かった」(オールマイティさん)
毛皮にしたけど問題なかったの?
依頼者は毛付きで、とのことだったけど、タンナーさんは毛皮苦手なケースも多いのによくやったなぁ。
「豚は油が多いんだよ。普段うちはカーフ(生後6ヶ月未満の牛)がメインだから、こんなに油が多い動物は鞣さない。毛の根元にもベッタリと油があってなぁ。だから、この毛皮でもやっぱり豚の油の匂いがちょっとする。例えばこれでジャケット作るとかは不向きやね」(オールマイティさん)
傷は残してほしい、とのことだったけど、残したの?
「例えばこの部分の穴は屠畜する段階でついた穴や。鼻先や頭の部分は毛がないやろ?こういう部分は最初に『これはどうにもならんで。うちの技術の問題ちゃうからな』と念押ししておいた」(オールマイティさん)
・
これ、胸の部分?
「せやな。普通は腹のやわい部分は落としたりするが、なるべく全部残してほしい、という要望だったので残しておいたよ」(オールマイティさん)
害獣駆除の皮の有効活用は可能か?
姫路やたつの市のタンナーにも色々相談は来ていますが、害獣としての鹿やイノシシの有効活用は難しいのが現状です。問題はいくつかありますが、
1 屠畜場
ハンターさん3人がそれぞれバラバラな技術で肉を取ると、残った副産物である皮の状態もバラバラ。こうなると鞣しをするタンナーさんは「一番状態の悪い原皮にあわせたほうがいいのか、一番状態のいい原皮にあわせたほうがいいのか」で大変苦労されます。やはり1か所できちんとプロが屠畜する、というのは偉大です。
2 保存
上記にありましたように塩2kgなり4kgなりを散々まぶすでもいいんです。タンナーさんが鞣しやすい状態になるようにきちんと保存してくれるかどうかが大変重要です。
3 皮
そもそも害獣の皮は状態が良くない...これが難点なんですが、革は「原皮」「タンナーの技術」「仕上げ(お化粧)」の3つの要素が非常に重要です。中でも原皮の状態が大変重要。下記の写真はイノシシを冬に屠畜したものですが、冬のイノシシは脂肪を蓄え、この脂肪が鎧のように固くなります。この状態の原皮を持ち込まれても、この鎧部分は非常に固くなっており、鞣してもきれいな状態にはなりません。このイノシシに限らず、鹿なども肌の病気や散弾銃で穴だらけ、ということもありうるわけです。
4 ビジネス
革ができてもお金になるわけではない...オールマイティさんとも喋っていたのですが、革は所詮「素材」です。ここからかばんや財布、靴などが作られ、それらの製品が販売されて利益になるわけです。面白い革ができたからってお金になるわけじゃないです。「害獣駆除で肉で利益出したが皮でも利益だそう!」という場合は、「その革でどう利益を出すか」「かばん作るなら誰に作ってもらって、誰が売るの?」などの道筋(ロードマップ)がすごく重要です。革ができてからスタートなわけです。革を作ることなんて工程としては初期の初期段階なわけですね。
オールマイティさんの新作革
「ムラキくん、どうせなら新作革見てけよ。俺らは材料作ってなんぼだから、今度この革もって材料イベントに出るんだよ。面白い革はデザイナーなりに見てもらわなんと意味ないからな」(オールマイティさん)
ごもっともだなぁ。革がどれだけ面白くても、それをお金に変えて売れるようにするのはデザイナーと企画、営業さんの仕事だよねぇ。
カーフクラッキングパール
これ・・・クラッキングだけど、パール調で面白いなぁ。このクラッキング細かいな。
「うちはカーフ主体やろ?100枚中5、6枚くらいに分厚いカーフがあるんや。分厚いから、その分ひび割れしやすくなるんや。で、これは3回くらい工程かけてひび割れさせた。肌のキメが細かいからこそ、クラッキングも細かく割れてくれるんやで。で、その上にパール塗装している。青を地にして、その上にパールやね」(オールマイティさん)
カーフ柿渋染
これ、穏やかな黄金色っぽいけど、なにしたの?
「これは、カーフのタンニン革を黄色に染めて、その後に柿渋を刷毛塗りで染めたんや。
柿渋にもタンニン成分があるので、柿渋が徐々に日に焼けていくやろ?この革も日に当てていると徐々に徐々に深い色合いに変わっていく」(オールマイティさん)
墨染の革
「これは墨で染めたんや。全体を墨に染めたのもあるし、このように刷毛で染めたものもある」(オールマイティさん)
墨の黒ってのは独特の黒味があります。黒と藍の間みたいな色が表現されていますな。
帰りは姫路のペネテリアでお茶を
オールマイティさんからバイクで3分ほどの距離にあるペネテリアでお茶をして帰りました。土曜日に行ったのですが、貸工房スペースでは7、8人ほどが作業されていました。
村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/革の新施設 ペレテリアを見てきた話&姫路の革イベントを紹介
21年6月のJLIAblogの裏側:350万円のエスプレッソマシーンで一杯おごってもらった話 | phoenix blog
350万のエスプレッソマシーン~でお茶を飲み。限定というモンブランもいただきました。1,200円オーバーのモンブランですが、それに見合うだけの贅沢な逸品です。量がちょっと多いので、2人でシェアをおすすめしますわ。
今後予定
コロナでいろいろな予定が飛んでいます(´Д`)ハァ...
素材博覧会 YOKOHAMA 2021 秋 2021.10.21-23
【同時開催】Bead Art Show & Embroidery 素材博覧会 神戸 2021 秋 2021.11.25-27
プロフィール

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター
東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。
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