欧米ブランドに「負けていないぞ!」

2023年3月29日 の記事

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回はコロナ禍以降のイベントの動向と、革で信頼をお金に変える、という話。西日本で行われたイベントのレポートとともに、イベント主催者でもある村木さんがコミュニティづくり、ファンづくりと信頼関係の大切さ、そして有料イベントについて伝えてくれます。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。



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毎度です! 「近所で大相撲春場所があったんですが、スーツケース転がしている外国人観光客・修学旅行生・大相撲力士が一緒になんばの繁華街を歩いている光景はなんてSFなんだろう」と感心したムラキです。

コロナ禍が一応、明けた、ということになっていますが、仕事場のある難波近郊は観光客の往来が激しめです。人の往来が激しくなった、ということで今回はイベント視察にからめて下の2点について書いていきますわ。

・コロナ禍以降のイベント動向 ~大阪・アート&てづくりバザール、名古屋革の相談会、姫路ペレテリア
・入場料を取るのは是か非か。コロナで変わったイベント参加者のマインド


オチとしては下の4点となります。

・各種値上げやコロナ禍により、消費者は価値ある、と思うものには有形無形問わずお金を出す
・失敗はしたくないから、「信頼」したところにお金を落とす
・「信頼」を積む行為を「継続」していくのが大事
・コロナ禍の最中になにか行動しているところは今、成長している

大阪アート&てづくりバザールを見てきた


3月18日(土)・19日(日)に行われた上記イベントを視察してきました。いつもお土産袋を作って革の出展者に話しかけます。



最終日の15時くらいに行きました。このくらいの時間帯ですとお客さんも少なくなり出展者もまったりとしているので、声かけやすいんですよ。接客中などは絶対声かけられませんので。

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行ってみると、休憩スペースでは「席をあけるように」などの注意書きもなし。入り口では消毒液はありますが、検温は強制ではなし。事前登録制などのシステムも一切なしでした。

来場者も多く、記憶にある限り最終日の15時過ぎでここまでお客さんがいるのは非常に珍しいです。

出展者に声をかけようにも、接客中の頻度が高く、挨拶しきれませんでした。(だいたいこのバザールでは革の出展者や、革を一部でも使っている出展者は50ブースはあります。)

コロナ禍の最中は来場者は少なくなっていましたが、昨年終わり頃から来場者数は急激に回復している気がします。また、出展者数も増えており、現在は抽選で落とされるようになった、とのことです。

このイベントはコロナ禍でこんなことをしていた


傍から見ているだけですので内情は詳しくわからないのですが、コロナ禍の最中でも「あぁ、こういう新しいことしているんだな」と見ていました。


・ハンドメイドがテーマのWebメディア構築


あなたの毎日を満たす、「好き」に出会う場所。

MeTAS+は
ハンドメイドのある暮らしに特化した
ライフスタイルメディアです。
ハンドメイド作家やものづくりに関わる人たちの
制作現場やこだわり、日常のお気に入りなどを共有していきます。

これ、すごいのは動画チャンネルも始めているんですよね。


このようなネット媒体やYouTubeチャンネルを作っても知名度なんて突然あがりません。ですが、リアルイベントでYouTubeチャンネルを宣伝できるので相乗効果が見込めます。

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さらに、会場で「会場で買ったものをハッシュタグ #てづバ戦利品をつけて投稿してね!」「投稿したのを見せてくれたら抽選でプレゼント!」なども行っている。つえぇなぁ・・・。



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動画やWebコンテンツ作成ってコスト(人的・時間・金銭)がかかりますので、手を出すのはかなり覚悟がいるのですが、よくやったなぁ、と驚きながら見ています。


・手作り品のイベント「アート&てづくりバザール」から猫限定イベント開始


次回は、7月1日(土)・2日(日)に開催されるそうです。こちらは手作り品限定ですが、猫がテーマのイベント。

このように特定もの(鳥なり犬なり)をテーマにイベント開催するのは個人のイベント主催者が多かったのですが、主催のテレビ大阪が猫限定で乗り出すとは、と驚きました。今年1月にも開催されていますが、おそらくこちらのほうを試験的に行い、来場者や出展者などを計算して大きなイベントにするか、と考えたのかな、と思います。


姫路 ペレテリアのレザーフェスティバル

3月24日(金)・25日(土)に兵庫県姫路市で行われたレザーフェスティバルを見てきました。

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このイベントは今後、秋口は新喜皮革で行い、春は今回のようにペレテリアメインで行われます。

今回はきたなか皮革さんのタンナー見学が行われました。以前こちらのblogでも紹介したことがありますね。





2日目の終わり付近に行ったのですが、初日は小雨・2日目曇りでしたが、前回よりも来場者も増えているようでした。タンナーや革屋さんによるアウトレットもありますが、製品販売もあり、賑わっているように思えました。

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このイベントはコロナ禍でこんなことをしていた


兵庫県姫路市の高木地区のタンナーは、このペレテリアと新喜皮革でイベントを大きくしようとしています。ペレテリアの運営母体であるユニタスは、「姫路高木地区のタンナーの革を小売販売」ということも始めています。こちらも2022年6月からスタートしています。



姫路高木地区はこれとは別に、姫路レザーという革素材としてのブランドを確立させようと動きを始めています。

名古屋 革の相談会


名古屋で開催された革の相談会。こちらは私が属しているレザークラフトフェニックスや染料会社、他の革屋と共同で行う小規模イベントです。なんと入場料1,500円で3時間しか滞在できません。



革で何かを作っている人または修理業の人、などというニッチターゲット、かつ、入場料が1,500円もかかります!
2日間で来場者が40名弱だったかな?

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このイベントはコロナ禍でこんなことをしていた


私個人が運営しているイベント「本日は革日和♪」でも同じですが、入場料を取ります。
入場料を取るとお客さんの数が確実に減りますが、その分接客する方としては「この人は入場料払ってでも聞きに来てくれた人なんだ」と、無料のイベントよりも格段に優しくなれます。

過去のblogでも書いていますが、革素材、というのは実際に触らないとわからない情報が多すぎです。表面のテクスチャーはもちろん、手触り・コシの強さ・ハリの強さ、などは触らないとわかりません。ネットの動画でどれだけ細かく説明しても触らないとわからないわけです。

私ムラキも「固定と摩擦」という話を名古屋ではじめて行いました。固定と摩擦、という概念。言葉にすると難しそうですが、実際に触ると一発でわかります。 当日は初級者・中級者・上級者問わず、きちんと理論だてて説明し、実際に体験してもらい、確実に何かを得てもらえた、と思います。

このイベントで重視しているのは「お金払ってくれた人に優しくする」「実際に触る、という体験を重視する人を大切にする」ということ。


「なんだ、金を払わないと客じゃないのか!初心者お断りなのか!」と思われがちですが、真逆です。
「聞くだけならコスト0!」「お店にTELで聞いたら無料で聞けるじゃないか!」という人はいます。
そういう人にお店サイドや会社サイドはコスト(時間・人・お金)が費やされてしまい、「お店の時間奪ったら申し訳ないから聞かないでおこう」という人が損をしてしまいます。

それなら、お金をくれる人を大事にしよう!というのは関西商人のえげつなさ、というわけではありません。当たり前ですが、お金を貰わないと生きていけないんです。だから、お金を払ってでも見にきたよ!という人を大事にしたいわけです。

お金払いたくない!という人は店頭に直接お越しください。今回ならば6社が集まりましたが、これらを1社ずつ回れば無料で話はできます。

このイベントに集まった会社は「商品を売って現金稼ぐぜ!」という思いではなく、「信頼」を稼ぎに集まったわけです。

コロナ禍で促進した「推しを応援する」「投げ銭」「オンラインサロン」などの直接お金を送るという行為


コロナ禍以前からもアイドルなりスポーツなりを応援する、という文化は強くありました。推し、という概念自体は2000年代のAKB48から強く始まったかな、と思います。(モー娘。などと違い、運営サイドが露骨に所属タレント同士を競わせたり、AKB48自体が複数の事務所による共同運営なので競争になりがち、とか)

コロナ禍以前、、例えばオンラインサロンは2011年頃から始まり、徐々に広まり、最盛期は2017年前後。その後も増えています。



YouTubeのスーパーチャット(=動画を見つつ、相手に投げ銭=お金を送る、というシステム)は2017年から。2010年頃からありましたが、この10年で市場規模は3倍になったとか。



クレジットカードの普及率の増加、メルカリや各種スマホのプラットフォームの課金システムの発展により、昔に比べると格段に「オンラインで送金する」という物理的心理的ハードルは下がりました。

これらの発展とコロナ禍は相性がよく、「オンラインでお金を払う」という行為は促進され、2021年時点でのオンライン市場規模は20.7兆円に迫っています。



個々人が個々人とやり取りする=メルカリやヤフオクやキャッシュレス決済などの「個人間が金銭を簡単にやり取りできる」システムの発展が身近でわかりやすい例かと思います。

実際の金銭のやり取りが手を介さず行われず、スマホやネットの数字だけのやり取りは、心理的なハードルが低く、使われやすい傾向になります。(ETCを導入したドライバーは確実に高速道路を使う心理的ハードルは下がります)

継続する、というのは信頼を高める行為


さて、有形無形問わず、人はお金を払いやすくなるシステムは整いました。では、どうやってそこからお金を儲ければいいか?

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1 信頼を積んでいるから、推し活なりスーパーチャットでお金がもらえる

「よぅし!ユーチューバーでお金を稼ぐぞ!」 全然違います

今更ユーチューバーになって稼ごう!なんてのは現実的ではありません。レッドオーシャン過ぎます、あの海は。そして費やすコストに対してお金が見合っていません。

現状、ユーチューバーにしてもYouTube運営からのお金は期待していません。釈迦の手のひらの上であがいているようなもので、運営のご機嫌を損ねると一瞬にしてお金がなくなる、というのはリスクが高すぎます。

ユーチューバーがメインにしたいのは、スポンサーについてもらい広告案件をすることでお金をもらう、もしくは自分で商品開発をして売る、視聴者からのスーパーチャットでお金をもらう、という3点がメインの柱かと思います。これらをどれにメインに据えるかで戦い方は異なります。YouTubeの運営からの収入をメインに戦えるのは上位数%のみです。

ユーチューバーが売っているのは「信頼」です。信頼を積むことで、広告を依頼され、商品を販売して利益が出せる。販売で利益があがるのは「信頼」の結果です。

「このアイドルを応援したい!」「ユーチューバーに頑張ってほしい!」なりは応援、ではなく、「この人を見ることで面白い・気持ちよくなれる」という安心感=信頼を積んでいるから、お金を払うわけです。

2 失敗したくない、という心理が年々強くなっている


下のリンクは20~39歳世代へのアンケート。


価値観に関する考え方を2つずつ提示し、それぞれどちらにあてはまるか聞いたところ、「失敗」に関しては「絶対に失敗したくない」が73.0%、「失敗を恐れずチャレンジしたい」が27.0%という結果に。また、「無駄」に関しては「無駄なことはしたくない」が68.0%、「人生に無駄なことはない」が32.0%と、失敗や無駄を避けたいと考える若者が多いことが明らかに。


まぁ、日本人自身が失敗を大きく見積もる国民性ではありますが、この「失敗したくない」という欲望は年々大きくなっています。

商品を買う。誰かを推す。応援する、にせよ、お金は使うのですが、「使ったお金が無駄だった」「失敗だった」というのが耐えられない・したくない、という考え方は増えています。

若い人だけの特徴?というとそんなことはありません。歳を取れば取るほど、失敗への恐怖心は強くなります。肉体的にせよ精神的にせよ、回復に時間かかるようになりますので。


1+2=「革製品や素材販売で信頼を積む意味があるの?」革だからこそ信頼を積まなきゃいけない

革という素材はあまりに不安定です。強度はきちんとあるのですが、供給や品質が市場や天候など諸条件で左右されすぎます。どれだけ需要が高くなっても所詮食肉産業の副産物です。誰かが肉を食わないとこの素材はこの世にでてきません。



「信頼」を積むことで、「ここから購入したら安心だ」「このブランドならば大丈夫」と思ってもらえる。それで購入してもらう。お金がほしいならば「信頼」を積み重ねていくしかないわけです。(まぁ、一時的に安売りして大量に稼ぐことも可能ですが、所詮は一時的です)

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どうやって「信頼」を積むのか?>継続すること


継続することです。お店を構えるにせよ、販売するにせよ、YouTubeをやるにせよ、SNSをやるにせよ、イベントをやるにせよ、継続していくこと。地道に。丁寧に。

来場者なりフォロワーなり視聴者数なりの数字をたくさん稼がなくてもいい。数字を稼ぐことを目的にするのではなく、継続をきちんとしていく。これが信頼を積み、結局お金を稼ぐことに繋がります。



上のリンクにある分析にもありますが、「気に入ったものにお金を払う」「自分が気に入った付加価値には対価を払う」というのは増えてきています。

推し活でアイドルにお金を払う、スーパーチャットでYouTubeの配信者にお金を払う、有料でもイベントに参加する、革製品を買う、革素材を買う。どれにしても、信頼の結果です。

継続しつつ、新しいことにチャレンジしていく


コロナ禍が落ち着いてきた昨年末から各種メーカーさんなりで忙しい!というところは、押し並べてコロナ禍の最中に「なにか」をしつつ「継続」していました。上記に各種イベントあげていますが、どれも「なにかチャンレジ」しています。もちろん失敗もありますが、失敗を気にしていたら前に進めません。

例えば、以前取り上げた山陽さんはコロナ禍の最中にホームページの刷新を行っています。その後、毎月blogを10投稿以上更新しています。毎月10投稿ってかなりとんでもないです。blog更新は地味ですが、ストック型のコンテンツは、フロー型のコンテンツ(SNSなど)に比べると効果が細く長く続きます。


今後のムラキ


●4月15日(土) 最近力を入れている染められる靴、のWSを行います。



●4月28日(金) 毎月最終金曜日に行っている営業時間延長のフェニックスナイト、でセミナーなどやっています。



●5月25日(木)~27日(土) 「東京レザーフェア」にあわせて東京・八広で「本日は革日和♪」を開催します。

昨年の内容

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プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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