欧米ブランドに「負けていないぞ!」

2023年6月28日 の記事

カテゴリー: ジャパンレザー トピック&イベント まとめ

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回はお金をもらうと優しくなれる、という意味と覚悟の話。有料イベントを主宰・運営する村木さんならではのリアルなエピソードと、ジャパンレザーを盛り上げたいという情熱にあふれた内容です。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。




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毎度です!「イベント終わるとしばらく動けなくなる」ムラキです。

イベントが終わって数日後に違うイベントが、というのが連発されているため動けなくなる暇もありません。

今回は誰もが思っているけど実際に言いたくない、皮革の仕事について初心者向けに。「なんてえげつなく金儲け考えているんだ、関西人は・・・」と思われるかもしれないですが、お金に対して真摯でないとお客に対して真摯になれない、という話になります。

今回のオチは

・お金を取るからこそ優しくなれる
・お金のことを考えるからこそ仕事に真摯になれる

という2点です。

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「本日は革日和♪」というイベントは入場料1000円をいただく




革がもうちょっと楽しくなる♪がコンセプトの革日和は革屋や金具・工具を作る会社を呼んだ合同展示やセミナーを主体としたイベントです。


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感染症対策で従来の無料入場から有料入場にしました。これによりメリット・デメリットが生じているのでそれをちょっとまとめておきましょう。



有料にした理由


感染症対策のため、参加者名簿を作らなきゃいけないからです。クラスター発生時に連絡がとれる体制を作らなきゃいけませんので。

また、この「本日は革日和♪」というイベントは出展社が小さな規模の会社・個人事業も多いため、「展示会だから出展費用どかん!とお金を出す」ということも出来ません。また「入場無料だから参加者が1000人来た!」というのでも困るわけです。

小さな規模でも面白い製品扱っている会社が出やすい出展費用にしなきゃいけない。そしてあえてえげつなく言いますが、「後日きちんとお金払って良いものがほしい、という優良顧客がほしい」わけです。

入場無料時代には有料セミナーを行っていた


無料時代はお客を呼ぶためにも2時間セミナーなどを1日中行っていました。
革の技術的なセミナーをしたり、関連業者を呼んだ対談セミナーをしたり、お金儲けに関するセミナーをしたり。

このセミナーを受講した人がセミナー終了後or開始前に展示会の方を見る、という流れが出来ていました。

有料でセミナーを受ける、という人は「何かを学ぶのにお金を払う」という習慣がある人ですので、優良顧客の証明でもあったわけです。

入場有料後の集客はどうしたか?


事前募集にしたため、「1枠2,5時間 1000円 1枠15人制限」「これを1日3回」という制限を加えました。また、上記の有料セミナーをやめました。

これは「主催のムラキが入場料の回収をしなくちゃいけない」「参加者リストのチェックをしなきゃいけない」という仕事が増えたからです。

来場者には事前に質問を聞いており、ラインのオープンチャットを運用し、参加者の質問に回答するようにしています。さらに、質問はグーグルスプレッドシートで見返せるようにまとめています。

ですが、オープンチャットに参加しない参加者もいます。グーグルスプレッドシートで質問をまとめても読まない人もいます。ですので、来場時に「あぁ、この来場者はこの質問していた人か」を判断し、「質問回答を見ました?」「見てないなら、この出展社さんと喋ってみてください。」「出展社さん、こちらは~~という質問をした人」と紹介をしたり、実際に回答をします。この手間がかかります。

さらに、30分ごとに「革の話」「技術の話」などを行います。これは事前に「来場した皆さん、出展社と喋って時間余ったなぁ、と思ったならどうぞ私が喋っている机に来てください。」「革の話か、技術の話をしますので」と質問者に応じて20分ほどの話しをします。

これを2,5時間内で3回ほど行います。

そりゃ有料セミナーやっている暇ないわな、というわけです。これらの集客方法は「入場1000円取る以上は来てよかった!と満足してもらいたい」と考えた結果です。「お金を払ってでも展示会に来よう!」と考えてくださるお客には優しくなれるわけです。
有料にしたメリット

・「きちんとお金払って"良い"ものがほしい」という優良リピーター


例えば、今回の神戸革日和などは2日間で50人弱程度来場です。たったの50人!でも、「お金を1000円払ってでも見たい」という優良顧客が50人です。

お金払う気がない1000人よりも、お金払ってでも見たい50人のほうが遥かに展示会をする意味があります。


・2,5時間の枠内で事前予測ができる。

無料時代は、開始3時間で全来場者の7割が来場したこともありました。その残りの時間で3割が来ました。最終日の最後の3時間など来場者さっぱりです。

このイベントでは「安売り品を持ってくる!」というのを一切禁じています。ですので早くに来る必要性もないのですが、販売である以上は早く来なきゃ!と皆さん思いがちです。実際は「何かを買って帰ってもらう」よりも「出展者を信頼して、その店や会社のファンになってもらう」ほうがはるかに重要です。今のところはこの目的は出展者にも来場者にも共有してもらえていると思います。

有料にすることで「この時間枠は10人くる」「この時間枠は8人」など事前予測できるため主催者としても、出展社としても心構えができるのが素晴らしいですね。


・来場者に細かなケアができる

「この人はもう退屈そうにしているな」「この人はここで楽しんでいるな」と10人程度ならば会場内のお客の動向を把握出来ます。で、退屈そうな人がいるならば「時間あるならちょっと話ししていかない?」と話しかけることが出来ます。そのうえで「どの話が聞きたい?」と時間を割くことが出来ます。


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・来場者にあった実演ができる

どういう話をしているか、というと革や技術の話です。

普段レザークラフトフェニックスなりに来た質問に私も答えるようにしています。そちらはもちろん無料です。(最近は内容によっては「これ以上の専門知識がいるならばお金もらいます」と言うようになっています。これをいうともう質問来なくなる人多いですねぇ)

ですが、ネットの質問回答って非常に難しいんです。

レザークラフトをはじめて3ヶ月から6ヶ月で出くわす難しいトラブルは「ホックがきれいに打てない」です。







上記でも書いていますが、ホックは「1 土台 2 工具の選択 3 打ち方 」のどれか3つでつまります。でも、これをネットやネット経由の動画で見極めるのがものすごく難しいです。ハンマーの持ち方・土台・工具の持ち方、など聞く情報が数多いからです。

ですが、実際に出会って、試しにハンマーと工具持ってもらえばその時点で8割くらい問題点が判明することもあります。

その上で「じゃぁ、ハンマーのこの部分持ってみて」「じゃぁ、このカッター3本。値段順に握ってみて。」とやると「!!この持ち方だけで改善できるのか!」「大型カッターナイフ800円単体だけじゃわからないけど、安いカッターと握りくらべて800円の価値がわかった!」ということもありえるわけです。


有料にしたデメリット

・数字でしか判断できない会社は出展しない

数字でしか判断できない会社はまず来場者が少ない、というイベントに出ようと思えられません。また、そういう会社は「じゃぁ優良顧客になりうる人に対してどういうケアをすればいいか」「どういう話をすればいいか」という訓練が積まれていません。そういう出展社には興味持たれないですね。これはもう仕方ないです。

・有料セミナーができなくなることで私の思考が鈍っている

上記の無料相談は20分ほどです。ですが、有料セミナーは2000円なり3000円なりとって2時間みっちりと話をします。その用意が大変ではあるんですが、その分受講する人の集中力や質問もレベルが高くなります。
有料セミナーはこちらも高速で思考重ねていますので、ものすごく疲れますが、私自身も得るものは多いです。「あぁ、こういう話をしたほうが良いのか」「ここで顔をしかめたな」など逐一見ています。

この自分自身が成長できる機会が減っているな、と実感しています。いかんなぁ、これは。


・有料セミナーができなくなることで、展示会に興味ない人を呼べなくなった

有料セミナーをやらなくなったことで「展示会興味ないけど有料セミナーだけ聞きたい」という人を展示会に呼べなくなりました。

「ん?展示会興味ない人を呼ぶ必要があるの?」と思われがちですが、セミナーに来たけど展示会興味ない人も「展示会やっている以上はちょっと見よう」と思います。そして、そういう人が新しく革素材や工具、技法に興味持ってもらうことも多いわけです。

すっごく下卑た話をしますが、「ある程度色々買っている中級者」よりも「はじめてやる初級者」のほうが使うお金は多いです。


・初心者が入りづらい

有料化にした最大のデメリットはおそらく初心者が入りづらくなっていることです。そりゃ1000円払うって博打も良いところですから。

「有料だし、中級者になってから参加しないといけないと思っていた」という声を聞いて驚きました。ですので、その対処法として「初心者枠」を設定しました。出展社には「この時間は初心者枠なのでそういうつもりで応対して」と伝え全スタッフ、出展者サイドが共有しています。来場者にも「別に中級者が来てもらっても良いんですよ。ただ、初心者と思って説明やら応対します」とも言っています。

初心者でも中級者相手でも実際それほど対応に変わりはありません。
私がやっている革日和で「その程度のこと知らないの?」「買わなそうだから接客しない」というような応対した出展社は厳しく対処します。また、「お金払っているんだから・・・」という来場者はご退場いただきます。

出展社には自分のSNSで初心者枠を宣伝してください、とはお願いしています。初心者枠は入場料安い、とやるのは簡単です。ですが、それをやると今度は「初心者だからお金を払わなくてもいい」という思考になるわけです。何を持って初心者、という定義も難しいですしね。


初心者向けの応対をしたorしなかった業界はどうなったか?


革屋にせよ、職人仕事にせよ、同業他社なり「話が通じる人間相手」のほうが一緒に会話していて楽しいかもしれません。でも、そればかりをやっていたら業界は広がりがありません。上記にもあげたように初心者、というのは金銭的にも業界的にもとても重要です。

初心者が飽きないように、かつ、理解しやすく話すのって技術が必要となります。中級者同士でわちゃわちゃ喋る方が格段に楽です。ですが、そういう中級者も最初は初級者です。

山を高くしようとするなら、土台を大きくしなければいけません。初級者を増やさないことには業界は大きく出来ません。業界を大きくしないことには動くお金も大きくできません。

以前から「ブームになったのにそのまま沈静化or定着化したさまざまなジャンルの理由を追う」というのを調べています。もう5,6年調べているかな。



●いびつなラグビー人気はすぐ終焉しかねない





競技の魅力を伝え、負けても応援する。

なでしこジャパンに飛びつき、(浅田)真央、羽生(結弦)に飛びつき、錦織(圭)に飛びつき、今度は五郎丸。そうやってブームをどんどん作り出し、スポーツを食い物にする。競技そのものの魅力を伝え、負けても応援する文化が日本のメディアに生まれなければ、スポーツ報道は成熟しないでしょう。




「すべてのジャンルはマニアが潰す」新日本プロレスのオーナーが大反発されてもこの言葉にこだわった理由




誰よりも詳しいからこそ供給サイドはマニア化しやすい。

何かを大きく改革したいときには、いろんな声があると邪魔になります。声を聞いているうちに角が取れてしまって、「それは改革ではなく多少の改善でしょ」といった結果になってしまうことはよくあります。特に政治の世界では、残念なことですが頻発していますよね。


『ヒカルの碁』の監修者で囲碁普及にも力を注ぐ吉原由香里六段に、当時の熱狂ぶりから、囲碁人気が薄れてしまった要因まで率直に聞いてみた。




実はそれまで囲碁界は、わかりやすい教え方の研究をあまりしてこなかったという反省はあります。というのは、昔から囲碁は大学や会社などで先輩が碁を打っているのを見て覚えていく人が多く、覚え方や学び方、ましてや教え方の研究がほとんどされてこなかったのです。


これ以外にもいろいろあるんですが・・・話し出すときりがないですね。


お金のことを考えるからこそ仕事に真摯になれる



意外に思われますが、私個人は初心者or中級者と話すこと・・・以前に人と喋るよりもモノを作っている方が楽しい、というタイプです。調べることや書くことはスキルとして身に着けていたので結果的に喋ることが得意なように思われています。

なぜ持っている知識や技術を人に伝えているかというと、「お金になる」からです。そして「自分がかかわっている業界に関して行動しておかないと業界が縮小する」からです。



人様の教室業などの邪魔をするわけにはいかないので、技術教室などはするつもりはありません。
現状革の歴史を調べて発信する人が私の世代では全然いないし、このままだと当時の空気を記憶している人が消えてしまうので記録して、公開はしています。

その一環でJLIAやレザークラフトフェニックスの仕事お手伝いをしているわけです。ですが、どれもこれも必ずお金が産みだされるようにしています。お金がきちんと入るようにしておかないと、善意や気力だけでは必ず途中で力尽きます。力尽きると今まで費やしたコスト(時間、労力、お金、人の縁etc)が全部ゼロになります。

常に利益を出すことを考えているからこそ、仕事やお客相手に真摯になれると考えます。

皮革産業連合会がやっている「土台を広くする事業」



ある程度私が見たりかかわっているもの限定でいうなら



●~革を学ぼう!革で遊ぼう!~ kids' leather programs

革の端切れなどを1カ所に集約し、全国の児童館や学校での工作材料として有効活用してもらう、というプログラム



●レザーソムリエ

革製品の素材について、ものづくりの特徴、お手入れの方法など、革製品について多くの知識があったら、お気に入りのバッグや靴を長く使えて楽しめるのに、そんな気持ちを持っている方は多いと思います。

そんな想いに応えるため、「レザーソムリエ」は2017年よりスタートしました。皮革や革製品について一定の知識を有する方を「レザーソムリエ」として育成し、革の持つ魅力を深く理解し、愛着を持って革製品を使用し、また、多くの人々に天然皮革の良さを知っていただけるようこの取り組みを始めました。



ムラキの今後予定


●上記レザーソムリエ 初級・中級セミナー手伝い

登壇&レクチャー。




●大阪 レザークラフトフェニックス フェニックスナイト 6月30日

毎月最終金曜は営業時間を20時まで延長。





●大阪 にゃんこ博覧会 7月1日~2日


会場でワークショップ手伝いなど。









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プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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