欧米ブランドに「負けていないぞ!」

November 30, 2022

【村木るいさん連載】「ひょうご皮革総合フェア2022」と「タンナー見学バスツアー」で見るタンナーの違い

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、「ひょうご皮革総合フェア2022」とタンナー見学バスツアーで見るタンナーの違い。皮革産地としてお馴染みの兵庫県たつの市で行われたイベントと、それに合わせて村木さんが主催したバスツアーでタンナーをめぐり、現地取材し、リアルにレポートしました。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

人気イベント「本日は革日和♪」および関連イベントが明日から東京で開催されます。このほか、今後のスケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。

  「本日は革日和♪」

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毎度です!「コロナ明けても明けなくてもこの時期は毎年苦しんでいるような気がするな」ムラキです。秋は忙しいんですよ、普段の仕事もイベントも。

さて、今月は3年ぶりに開催された「ひょうご皮革総合フェア2022」見学とタンナー見学バスツアーの模様。それを通じて、「タンナーによる革の違いってどういうの」という話です。

オチとしては「ここが一番いいタンナーなんです!というのは<それ、あなたの感想ですよね?>という程度でしかない」という話となります。

タンナー見学バスツアーってなに?


私が5~6回は企画運営しているバスツアーとなります。いつからやっているのか真面目に思い出そうとすると、結構大変なくらい前からやっていますね。

姫路駅集合・解散でバスでひょうご皮革総合フェアを見学して、タンナーさんを2軒巡る、という内容です。

今年のタンナーは昭南皮革とオールマイティー。そして、アルファレザーの皮革アウトレットを見てから解散となりました。

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「ひょうご皮革総合フェア2022」ってなに?


コロナ前は毎年、兵庫県たつの市で開催されていたイベントです。皮革総合フェア、というだけあって革のお祭りイベントとなります。次のようなイベントがあります。


レザーファッションショー
(赤とんぼ文化ホール 大ホール)
皮革を使って制作した衣装で、プリンセスたつのや龍野北高校生がモデルとなり、華やかなファッションショーを開催します。

革製品即売会
(青少年館体育室、赤とんぼ文化ホール前屋外テント)
国産の天然皮革で作られた靴、カバン、ベルトなどの革製品を販売します。

皮革素材即売会
(青少年館ホール、赤とんぼ文化ホール前屋外テント)
地元、たつの市、姫路市のタンナーが製造した皮革素材や、製品をタンナー自らが販売します。また、ペンケースや小物入れが制作できるレザークラフト教室も開催。

革細工体験コーナー
(赤とんぼ文化ホール 大ホール ホワイエ)
たつの市産の天然皮革を使った動物革細工などの制作体験コーナーを設けます。

学生による皮革作品の展示
(赤とんぼ文化ホール 中ホール ホワイエ)
龍野北高等学校総合デザイン科、上田安子服飾専門学校、神戸医療福祉専門学校三田校の学生作品の展示をします。

ひょうご皮革総合フェアではニューレザーコンテストの解説をした


ツアーに参加される方には会場の屋台なりでご飯を食べておいてもらい、会場のイベントや物販なりを楽しみます。

で、私が会場でやるのはニューレザーコンテストの解説です。

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会場で行われるニューレザーコンテストは、コロナになってからは9月頃に別会場で行われるようになりました。これはこれで見やすくなったので、今年はどうするのかな、と思ったらコロナ後と同じく9月に別会場で審査。11月のひょうご皮革総合フェアでは受賞作・入賞作だけ展示、という形式になりました。たしかにこのほうが見やすいかな、と思います。

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9月の審査会場の様子はこちらをご覧ください。

バスツアーでは希望者のみに入賞作品の解説をします。入賞した作品革はどう他とは違うのか、というのを推測ですが解説しています。まぁ、革って「ここが他と違う点なんだよ」なり解説しないとわかりづらいですからねぇ。

会場では昨年受賞した革をカバンや靴の職人にお願いして作ってもらった製品も展示されています。

この取組みは、「どれだけ魅力的な革だとしても製品にならなきゃ良さは理解できない」ということを実感させられますね。

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会場では学生の革作品も


龍野北高等学校総合デザイン科、上田安子服飾専門学校、神戸医療福祉専門学校 三田校の学生の革作品も展示されています。

学生さんの作品はセオリーなどに縛られず面白い発想が見られるので、見ていて面白いですね。

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革製品や革素材販売も

会場では革製品販売のメーカーさんやタンナーさんによる素材の直販も行われます。3年ぶりということで来場者さんは最盛期よりかはちょっと少ないかな、という印象を受けました。

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バスで昭南皮革へ


たつの市の赤とんぼホールからバスで40分ほどで姫路市御着の昭南皮革さんへ。

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こちらは日本でも数少ないピット槽を使ったタンニン鞣しでベンズ革を作っています。このタンナーさんがこだわるのは鞣しの技術と原皮。原皮を仕入れる際に最上の原皮を仕入れ、そこからピット槽を使った頑強なタンニン鞣しを、ベンズと呼ばれる背中の部位だけに施します。結果的に出来上がった革は頑強な革となり、ベルトや靴底に最適な革となります。



当日の模様

原皮倉庫から石灰漬け、ピット槽、乾燥などを見させてもらいました。ツアー参加者からは「ここまでこだわって作っている、というのがよくわかりました」と好評でした。

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姫路市高木のオールマイティーに



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こちらのblogでもちょくちょくと登場しているオールマイティーさん。今回のツアーでは鞣し工程や、自社で作った変わった革を紹介してもらえました。

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熊やらイノシシやら。。って、このイノシシ、やけに固くて強いな。もしかして冬原皮?

「せやな。冬にイノシシは脂肪を蓄えて体の前面が鎧のように固くなる。で、それがわかっていながら鞣してみたけど、到底これでカバンなどは作れないくらい固く仕上がっている。もしこれを使う、となると一度水戻しして裏からシェービング(裏面の肉取り作業)するしかないなぁ」

シェービングって、あぁた、これはもう機械にかけられないでしょ?

「だから手作業でやるねん」

うんざりだな、それは

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オールマイティーさんのところでは革、とそれで作った革製品も見させてもらいました。もちろん革製品は違う業者さんが作っています。

過去のJLIAblogでも書いていますが、オールマイティーさんは全国のジビエ消費された害獣などの革を積極的に請け負っています。先程の昭南皮革とはある意味真逆のタンナーさんといえます。

過去に紹介したこともあるアルファレザーさんが残念ながら来年頭に廃業される、とのことです。現在在庫として持っていた革のアウトレットセールをしています。

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で、今回のツアーでは最後に倉庫に伺って革を購入できるようにしてもらいました。

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ちょっと想定以上の枚数があり頭が痛くなるレベルでもあります。
このタンナーさんは仕上げがほんとにとんでもないレベルで、前述のニューレザーコンテストでも常連入賞者でした。


この後、30分ほどで17:30に姫路駅で解散しました。

今回行った3社のタンナーは真逆。だからタンナーは面白い


今回伺った昭南皮革、オールマイティー、アルファレザーの3社はそれぞれが得意分野が違います。

昭南皮革は原皮と鞣しにこだわり、オールマイティーは鞣しと変わった原皮や仕上げにこだわり、アルファレザーは仕上げにこだわっている。

兵庫県の姫路市とたつの市には100以上のタンナーが登録されていますが、それぞれに得意ジャンルが異なるわけです。設備や技術、仕入れルート、知識が各々で異なります。

このJLIAblogのタイトル、欧米ブランドに「負けていないぞ !」というのはたしかにそうだと思います。

ある面では欧米のタンナーのほうが優れていますが、違う面では日本の特定のタンナーのほうがはるかに得意、という面は数多いです。

色々な場所で革の説明を行いますが、「某タンナーだから良い革です!」なり「ある国で作られているから良い革です!」、なんてことはありえません。カバンなのか、靴なのか。それに対してハリや腰、硬さや色、なにを重要視するのか。それらを見極めた上で自分や製品にとって最適な革を見極めるわけです


模型のイベントに出展して革の話をしてきた

GARAGE WORKS COMMUNICATION



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11月の最終木曜・金曜・土曜の3日間行われた素材博覧会。その翌日、日曜には模型イベントに出ていました。で、そこでも革の話のセミナーをやりました。


イベント主催者「ムラキさん、セミナーやるにしても何て宣伝する?」

んー、それじゃ「模型に役立つ革の知識」という題名にしておいてください。


食肉産業の副産物の皮と革・革の鞣しの違い・価格の見方・レザークラフト工具の値段・縫い方やカシメによる革の固定方法

革の特徴・模型における革利用の提案(工具入れ・工具かけ・ディオラマの土台)


などを解説。会場では、「模型でただでさえ時間と気力とお金使っているのにこれ以上趣味増やせられるか!」という声もちらほら。

「革は極めようと思わなくていいですよ。ちょっと工具固定するポケットほしいな、と思ったときに、布や3Dプリンタよりも遥かに手軽に自分の思ったものが作れる。それは技術的にはレベル1か2までで十分。初期費用も5,000円あれば足りるし、床革使えば1,000円未満ですみますよ」と紹介しておきましたわ。

まぁ、ハマると時間とお金と気力はガンガンと吸い取られますが、それはどんな趣味も同じです。

知ってもらう努力を怠ってはいけないなぁ、と


こちらはひょうご皮革総合フェア2022の会場でみかけた掲示物です。

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さまざまなセミナーなどでもバスツアーの最中でも口酸っぱく言っているのですが、革は食肉産業の副産物、、というか、余り物を使っている産業です。

動物から肉をもらい、その上で皮を使わせてもらっているのが皮革業界です。皮革業界にいると当たり前の考え方なのですが、こういうことをきちんと伝える努力をしておかないと、何年何十年先にしっぺ返しを食らいます、確実に。


誰が見ても最高で最適な革やタンナーは存在できないし、革は食肉の副産物。
こういうことを今後も発信して消費者に理解してもらわないことには、現在のように革が普通に買える経済は維持できません。

これを見ている方が業界のためではなく、自分のために、「革って面白いんだ!」と発信してもらえれば幸いです。

ムラキの今後予定


とりあえずは年内予定(イベントなど)は終わり。イベントでパートさんにぶん投げていた仕事を早く片付けないと。

プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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