欧米ブランドに「負けていないぞ!」

2021年2月24日 の記事

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
2021年第二弾は、ナルトビエイの革を見て エイヒレと同じだと感心した話と、動画の敷居が下がっている、という話。皮革産地としてお馴染みの兵庫県たつの市で注目の革づくりをレポート(村木さんは兵庫県在住なので、県内の移動で取材しました)。
さらには、動画での情報発信、WEBセミナー(ウェビナー)の最新トピックも紹介しています。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしておりますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。
当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。
人気イベント「本日は革日和♪」。今後の予定、スケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。

  「本日は革日和♪」

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毎度です!「ちょっとアフターコロナの動きが見えてきているなぁ」と気配を感じているムラキです。

普段のお仕事は請負職人なので景気に左右される側面があります。で、ちょっとだけコロナ収束後の反動景気に備えた動きが始まっている気配がしてきましたね。

今回は

・兵庫県たつの市の浦上製作所でナルトビエイの革を見た

・NPO法人たつのレザーさんのZOOMセミナーを聞いたり、 東都製靴工業協同組合がセミナーをネット視聴して考えた

という2本です。

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目次 [hide]

浦上製作所のナルトビエイ

前から気になっていたナルトビエイの革

で、実際に行ってみた

浦上製革所ってどんな革作っているか?

ここが大変だよ、ナルトビエイ

ここが面白いよ、ナルトビエイ

この革がほしい!と思ったら

コロナ禍だからこそ、動画でセミナーが見やすくなってきている

NPO法人たつのレザーのZOOMセミナーを聞いてみた

最近東都製靴工業協同組合がセミナー動画を公開している

動画の敷居がものすごく下がっている

浦上製作所のナルトビエイ

前から気になっていたナルトビエイの革

昨年秋のジャパンレザーアワードの応募作品一般公開で靴コーナーに展示されていたのが、このナルトビエイで作られた靴でした。見たときに「あ、これはアワードをこの革のお披露目会場として使っているな」と感心しました。

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応募作品 | Japan Leather Award 2020 | ジャパン レザー アワード 2020

応募作品の会社名が「たつの市商工会」という名義だったのも印象的でした。
(以前アワードのblogでも書きましたが、作品紹介のポストカードは 絶対作っておいたほうが将来的に繋がります。この応募者はそこら辺を理解して、アワードを割り切って宣伝の場として利用していましたね。良いことだと思います( ´∀`)bグッ!>村木るいさんの「人に話したくなる革の話」/「ジャパンレザーアワード2020」を解説してみる  | JLIA 日本皮革産業連合会

下記動画でも紹介しています。

で、今年1月にJLIAのHPでも告知が載っており、気になったので連絡。

世界初の皮革素材 !  Mitsu Eagray (ナルトビエイ革)

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で、実際に行ってみた

JLIAの皮革企業大図鑑で住所と電話番号調べて。。実際に電話して予約取り付け。2月の下旬、春間近な温かい日を選んで来訪しました。

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浦上製革所ってどんな革作っているか?

当社は、日本最大の牛革産地、兵庫県たつの市で半世紀にわたり成牛革を製造しております。

軽くソフトな鞣しを、基本とし、仕上げ加工は、主に染料によるアニリン仕上げです。

エコレザーである、植物性タンニン鞣しや、素材の魅力を引き出せる様にオイル、ワックス仕上げの研究、開発に日々取り組んでおります。

袋物 婦人靴 小物 家具 ライダースーツ 野球グローブ用 成牛革の製造 販売 加工植物性タンニン鞣し革(ヌメ革) クロム鞣し革

浦上製革所 | 皮革企業大図鑑 より


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タンニン鞣し・クロム鞣しで鞄用革やグローブ用革などが多く、タンニン鞣しにしてもドラムタンニンでソフトな風合いが多めでした。

で、ナルトビエイ。

ここが大変だよ、ナルトビエイ


ーーーーーーー浦上製革所さん、そもそもなんでナルトビエイ始めたの?

浦上製革所さん「ナルトビエイって害獣なんですよ。たつの市は漁港があり、アサリや牡蠣が取れるんですが、このナルトビエイはそれら貝類をバリバリと食べちゃうんですよ。潮干狩りのためにアサリをばらまきますが、奴らは薄いので浅瀬までやってきます。場合によっては浅瀬に埋まっています」

ーーーーーーー浅瀬に埋まっているなんてやつらにしたら潮干狩りのアサリは上から降ってくる餌でしかないですやん(´・ω・`)

浦上製革所さん「そうなんですよね。で、害獣駆除の一環でナルトビエイを捕獲して、缶詰まではできたんですよ。たつの市商工会が『皮が取れるが、これをタンナーサイドで革に鞣せないか』という呼びかけがあったんですよ。そのときに手を上げました」

ーーーーーーー ん?でも、今までやってきたのはタンニン鞣しが多かったし、牛中心でしょ?魚であるエイって全然違う世界なのによく手を上げましたね。

浦上製革所さん「今まで通りのことをやっていても面白くないし、違うことをやっておかないと将来怖いじゃないですか!それに魚でノウハウ積めたら爬虫類などもできるようになるかな、と思ったんですよ」

ーーーーーーー爬虫類と魚、、、全然違うだろうなぁ(;・∀・)

浦上製革所さん「爬虫類は鞣したことないから明確に違いはわからないですが、牛とエイは全然違いましたね。まず熱に弱いですから気を使います。ドラムで回すときに摩擦により熱が発生します」

ーーーーーーーあぁ、魚介類は常時水温の世界にしか行きていないから、皮が40度以上になると収縮なりするでしょうねぇ。厄介だな。。

肉は水産加工会社がとるでしょうけど、エイでしょ?今まで皮を有効活用するためにきれいにとる、という経験値が溜まっていないだろうから、大変だろうになぁ。

浦上製革所さん「そうです。うちに来た時点で10kgの重さがある原皮がシェービング(皮の裏側の付着している不要な肉部分除去)で5kgになります」

ーーーーーーー半分を手作業でシェービング!? それはきっついなぁ

浦上製革所さん「わかってくれますか!小さいし、エイってなんか筋があるんですわ。それがあるから余計に剥がしにくい。この画面右下部分のモシャモシャ舌部分が筋ですね」

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ーーーーーーー あぁ、なるほど、エイヒレだから、居酒屋で食べるエイヒレ炙りと同じですね。端っこの部分の方が筋が硬いんでしょうな。下記動画はナルトビエイではないですが、基本的な構造は同じですね。このエイヒレ部分が硬いでしょうなぁ

浦上製革所さん「あと、背中と胴体部分で表情が微妙に異なりますね。こちらは実際に財布を仕立てたものです」

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ーーーーーーー製品になった状態で見てもわかりますが、エイヒレの炙りに似ていますねぇ。

浦上製革所さん「そうですね。大きなナルトビエイは50kg、大きさ150cmまで行くんですが、取り都合は悪いです。鞣すとどうしても大きさが小さくなりますから」

ーーーーーーー水産皮革は水分が多いので、なめしたときに収縮率も高そうですなぁ。だから財布や靴を仕立てる際にもパッチワーク的に使うしかないでしょうなぁ。

浦上製革所さん「試験所で検査しましたが、引張強度は牛の2倍ほどは有りました」

ーーーーーーーそれだけあるなら靴にも使えますねぇ。害獣駆除なので養殖できるわけじゃないから爆発的に需要高まっちゃうと大変なことになりますね(;・∀・)

浦上製革所さん「それだけ売れたら良いんですけどねぇ。どうしても手間暇考えると値段は高くなりますね。DS単価で考えると1000円~2000円の間になります」

ーーーーーーーん~、良いんちゃいます、それでも。仮にDS単価500円でも買わない人は絶対買わないし、欲しい人はいくらでも買う。そういう素材でしょ、これは。

ここが面白いよ、ナルトビエイ


革としてはシボはなく、厚み1.4mm弱。エイヒレの様に平行四辺形のモザイク状の繊維が連なっています。

タンニン鞣し、かつ、繊維が不均衡なためヘリ返しに向きません。
また、大きさが不均一なため1枚革として使うならばオーダーメイドなどの1点物の使い方がオススメです。量産品で使うならば、パッチワーク的な使い方を考えないと難しい素材です。大きさが30cm×20cm程度しか有りません。

「きれい」という革では有りませんが、海の荒々しさが感じられる面白い革だと思います。

「エイヒレの炙り食べたことある?あの革」と言われて見てみると確実に「あ、ほんとだ!」というのはわかります。

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ナルトビエイを素材として使いたいならば、ナルトビエイを取り巻く背景を知っておいたほうが良いと思いますので、下記サイトあたりオススメです。

漁師の敵?「ナルトビエイ」をおいしく食べたい :: デイリーポータルZ

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ナルトビエイ | WEB魚図鑑

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有害魚「ナルトビエイ」を"エイっ"と加工 「御津の大根」も"ダイタン"に利用 兵庫・たつの市の新名産品 | ラジトピ ラジオ関西トピックス (jocr.jp)

「神戸新聞」(2月18日)

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この革がほしい!と思ったら


現状では浦上製革所さんに直接お問い合わせください。
ただ、背中とお腹、1枚1枚で表情が非常に異なる革ですので、気楽に通販で買える、という革では有りません。また、手間暇のかかっている革ですので決して安い革では有りません。

浦上製革所さんが「販売の手間かかりすぎている!」と思ったら懇意にしている革屋さんが販売すると思います。その際はこちらの情報も書き換えます。

浦上製革所 | 皮革企業大図鑑


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コロナ禍だからこそ、動画でセミナーが見やすくなってきている


NPO法人たつのレザーのZOOMセミナーを聞いてみた。


龍野レザー - TRADITIONAL龍野

たつのレザーさんは兵庫県たつの市にあるタンナーさんで作られたNPO法人です。

たつのレザーさん「ムラキさん、今度『皮革産地のブランディングについて考える』というセミナーをzoomで行うんですが聞かれます? 講師は西村祐子さんで、、」

ーーーーーーーーー西村祐子さん! タンナーに取材して「革を作る人々」という本書いた人やん。それは面白そうだなぁ

ということで、浦上製革所さんの取材のあとに姫路駅近辺でZOOM受講。

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こちらの内容、大学の先生らしく、途中受講生同士のミーティングなども行われます。

2月26日には後期が行われますが、22日のセミナーを受講した人じゃないとちょときついです。

3月2日、3月9日のセミナーはたつのレザー以外の人も受講可能ですので、興味ある方は下記からどうぞ

セミナー申込 - TATSUNO LEATHER


最近東都製靴工業協同組合がセミナー動画を公開している



東都製靴工業協同組合さんが最近行っているセミナーをYouTubeにて外部に公開しています。

Tokyo ShoeMakers - YouTube

「withコロナ時代」を生き抜く企画のヒントとトレンド分析、や、「売れているモノのかたち」など面白い話題も多いので興味ある方はぜひ。

動画の敷居がものすごく下がっている


コロナによってステイホーム=家での滞在時間が増えたこと、や、接触回避により「動画を見る」「動画で発信する」という行為の敷居が急激に下がっているように感じます。

ちょっと前は「当社がやるならば、かっちょいいプロの動画を!」「金かけなきゃ!」という風潮だったのですが、「お金かけるよりもとにかく発信を」という方向にシフトしているように感じます。

年々個人が発信する動画の質は高くなっているように感じます。撮影機材にせよ、技術にせよ、動画編集にせよ、です。その一方で視聴者の「プロ並みの動画じゃないと見れないよ」という層が「機材や編集がプロ並じゃないけど、内容が興味そそられるものならば見よう」というように「視聴者が動画に求めるレベル」も下がっているように感じます。(客観的なデータとしては世界的な視聴時間の変化、とか、YouTubeサーバーの負荷などがあげられますが、そのデータから「視聴者が動画に求めるレベルが下がっている」という結論はちょと導きづらいですけどね)


コロナにより「以前と同じ世界」は失われているように思えます。
いろいろな人が「今の自分達にできること」を模索して、Try&Error&ReTryしているのは見ていてワクワクしますねぇ。つくづく面白い時代です。


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プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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