欧米ブランドに「負けていないぞ!」

2022年10月26日 の記事

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月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、好評のシリーズ <革とSDGsと>。「ジャパンレザーアワード」応募作品展で展示されていた作品に使用している鯨革と、ジビエの革利用について、村木さん独自の視点で語ります。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

人気イベント「本日は革日和♪」の今後のスケジュールなどは下記のリンク先をチェックしてください。

  「本日は革日和♪」

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毎度です!「コロナ前くらい忙しかったよ、ほんとにこの秋シーズンは・・・」ムラキです。

前回9月の更新分でも書いたようにほんとにもうげっそりするほど忙しい時期でした。親族で不幸もあったりしたのですが、狙ったかのようにイベントとイベントの合間で助かりました。

今回のblogでは、

・「ジャパンレザーアワード」で見た鯨の革
・「浅草エーラウンド」で上映した「ある精肉店のはなし」という映画とジビエと革セミナー

という話をしていきます。
結論は、「牧畜と屠畜というシステムがないと革利用は難しい」ということです。



今年も無事開催された「ジャパンレザーアワード」応募作品展

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今年度の「ジャパンレザーアワード」応募作品展は渋谷ストリーム ホールという場所で開催されました。例年とは違う場所ですね。その理由を担当者さんに聞くと、「数年間二子玉川で行ったので、若い人が多い場所でやってみよう、ということで変更しました」とのこと。9月24日~25日に応募作品展を開催。審査会は初日10:00〜16:00まで審査員のみが審査を行い、同じく初日16:00~17:00と、最終日10:00~17:00に一般公開されました。



今年も全応募作243点が会場に並び、全部がWebで公開されています。当日見れなかった、という人はぜひ、同アワード公式ウェブサイトを見てください!! 昨年からは全応募作品が360°カメラで撮影されていて面白いんですよ。



民族楽器の演奏会が素晴らしい

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今回の応募作品展では皮革を使った民族楽器を展示し、実際に演奏してもらう、というイベントも開催されました。

これが面白かったです。個人的な興味と趣味で民俗学もかじってはいたのですが、世界の民族楽器で皮革の利用は打楽器主体かと思っていました。

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言われてみりゃ三味線だって皮革を使っているわけですから弦楽器もあります。ここらをきちんと解説されていたり、演奏者さんも自分の使っている楽器でどのように皮革が使われているかを解説してくれるので非常に勉強になりました。ぜひ来年もやってもらいたいものです。

会場で見た鯨の革

同アワードを4年連続で部門賞・各賞を受賞してきた中山智介さんが、鯨の革でつくった財布をエントリーしていたので楽しみにしていました。今年の頭に報道で見かけて気になっていたんですよ。鯨革は触ったことがなかったので。



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鯨の革がどう貴重で、なぜ手に入りづらいのか。どういう特徴があるのか、などは上記ページで見てみてください。TBSテレビ系のニュースサイトでは動画も公開してくれているのでわかりやすいですよ。



手に入りづらい原因としては捕鯨および鯨を食べることに対する世界的な反発があります。また、日本は鯨を食べるときには皮ごと食べちゃう、というのも手に入りづらい原因の一つでもあります。ここらは過去に水産皮革について調べた時に書いています。

実際に触ってみると

皮としては特殊です。哺乳類でありながら、水の中で暮らしている生き物ですので、皮の構造としては先月紹介した魚に近いのか。また、下の写真の皮の部位は生殖器部分ですので、こちらは通常時は体の中に収納されているはずです。

先月紹介した鮭やブリ、鯛の革とどう違うのだろう、とワクワクしました。

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触った感想としては、「巨大な生き物だけあって表面のシボ部分が象に近い。でも毛根がないのですべすべ、というのが面白いな」というものでした。

現状では通常の革の100倍以上の値段がつけられてもおかしくありません。「調査捕鯨から出たものなのになぜそんなにお金がかかるのか?」「希少性だから高いのか?」などを次に説明していきます。

「ある精肉店のはなし」というお肉屋さんの映画を公開した


「浅草エーラウンド」に「本日は革日和♪」で出展し、3年ぶりに映画の上映会をしました。


この映画は大阪のお肉屋さんを取材したドキュメンタリー作品です。現在もこのお肉屋さんは存在しますが、ここが「最後のお肉屋」と言われていたのは、「自分たちで子牛を買ってきて、大きく育て(=肥育)、自分たちで屠畜してお肉として売る」ということをしてるお店だからです。

ですので、映画では冒頭と最後に牛の屠畜シーンが流れます。

上映会では最初に革とお肉の話をします

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この映画は、DVD販売やレンタルがされておらず、有志の人間が上映会を行うことでしか見ることができません。私は東京でイベントやる時に上映会を申請して、ブルーレイディスクをお借りして上映会をしています。


上映会の最初、冒頭15分ほどで革と肉にかかわる話をします。要約するならば、普段からお伝えしている「革業界は肉業界の副産物=余り物で成り立っている業界」というお話です。

お肉をいただいた残り物である「皮」から「革」に変化させて使っているのが革業界なわけです。革の前に肉があり、その前には肉屋さんがあり、屠畜してくれる人、育てる人がいる、というのを知ってもらうのにこの映画は非常に勉強になります。

今後も上映会は行われると思いますので、興味ある方はホームページなどをご参考になさってください。


会場をお借りした富田興業様には大変お世話になりました。ありがとうございます。


ジビエの革活用セミナーを行った
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「浅草エーラウンド」は、「浅草の奥である奥浅草の周りには革の業者さんや靴会社さんが多い。ここを色々と回ってみよう!」とういイベントです。思えばずいぶん長い間、浅草に住んでいるわけじゃないのに出展しているなぁ、私。

今回はじめてジビエの革活用をセミナーとして行いました。


***

害獣駆除としての鹿やイノシシ駆除などの話が一般になってきました。
ジビエなどもずいぶんと一般的な言葉になってきましたが、実際には利益が出ている、というほどでもありません。

令和3年度には1億ちょい、令和4年度には2億ちょいの予算がシカ等による森林被害緊急対策事業として林野庁から発表されました。ですが抜本的な対策としては害獣としての駆除以外にもどう経済に入れ込むか、というのも課題の一つとなっています。

その流れで「ジビエで利益出づらいから、皮を革にして利益を出そう!」という発想で革をなめす工場=タンナーに話が持ちこまれますが、うまく行きづらいのが現状です。

このセミナーでは1時間ちょい、という短い時間ですが下記に関して資料や動画や実物の革を交えて解説します。

・素材と製品は違う
・革をなめすタンナー業、というのはどういうものか?どこにあるか?設備も場所も人手もかかる
・屠畜場の重要性
・革は所詮は食肉産業の副産物
・事例説明~鹿、魚、カエル、エイ、ハブなど

対象

鹿やイノシシに限らず害獣駆除に興味ある方や携わっている方
肉を食べるのが好きな方
漫画や小説なりを書いている方

開催時間・費用

10/16(日)12時~13時00分

¥1000

***

毎年姫路で行われる皮革大学で地方行政の方やハンターさんが来られる

毎年、兵庫県の支援事業で行われる皮革大学というものがありまして。
座学で2時間×全5回くらいで学ぶ革の歴史や鞣し方があったり、製造実習として、5日間姫路に通って実際に皮を鞣したりします。今年も知り合いが行っていました。


毎年、この座学や製造実習に地方行政の若い方やハンターさんが来られます。
ほとんどの方が、「害獣駆除で鹿やイノシシが捕れる」「肉はともかく、他でも利益出したい」「革で利益出したい」「あわよくば自分たちの地域で鞣しまでやって雇用促進したい」という皮算用で勉強に来られます。

見ている限り99%の方が、「これは自分たちだけでやるのは到底無理だ~」と座学3回目あたりから絶望されています。

そりゃそうです。鞣し技術なんて昔々ならば錬金術か、戦争時に戦局を左右しかねないレベルの専門技術ですもの。鞣し技術ってほんとに魔法みたいですよ。日本でも戦国時代中は鞣しのできる職人は国外に出さなかったってのもわかります。


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ほっておくとこんなに固くなったり腐るものを、柔らかい状態で保持するのはほんとに錬金術同然です。

前述の民族楽器ですが、基本的には鞣しをしていない「皮」を使っています。ですので、吹奏楽部やタイコを叩いたことがある方はご存知かもしれませんが、タイコには雨が大敵です。雨に濡れると太鼓の皮はビヨンと伸びてしまうからです。

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「皮」を「革」にするのは専門知識と設備が必要となります。


なぜこのようなセミナーを行ったか?

「人に話したくなる革の話~害獣駆除と肥育と鞣しの話」をやった理由は、「魔法みたいな技術を習得する時間と設備費用、環境整える費用考えたらタンナーにまかせたほうが良いよ」ということを知ってもらうため。

もう一つは、「野山駆け巡った動物の皮はそれほど良くない。」「牧場(=肥育)で育てていない動物の皮を有効活用するのは難しい」ということを知ってもらうためです。


皮を有効活用するには経済の循環の中に入れることがとても重要

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「じゃぁ、タンナーに頼めば良い革=金に変えられるのか?」と言われると、「原皮がとても大事」という回答となります。原皮をきれいに得るためには、牧場と屠畜場というシステムがとても大事になります。

牧場で育てる=肥育された動物は怪我や病気も少なく、肉を取るために餌を与えられているため、皮も均質になっています。

野山を駆け巡ったイノシシや鹿などは上記と真逆。怪我や病気も多く、山の栄養状態によって肉付きも変わるし、皮の状態も変わります。さらにはハンターAさん、Bさん、Cさんでは屠畜のやり方も異なります。Aさんは「肉を沢山とるぞ!」と皮に穴があいても気にせず屠畜する。Bさんは「適当にやるぞ」とやっているため、皮も分厚く取れていたりする。Cさんは「仕留めてから血抜きして川に放置して、翌日皮を得ている」などそれぞれ状態が異なります。

このA、B、C、どの状態にあわせて鞣しをするかによって出来上がりが異なります。Bが一番キレイになるように鞣すと、A、Cの革はそれほど良くなりません。

牧場、そして屠畜場、という専門職種が加わらないことには原皮は有効活用できません。そして、牧場や屠畜場を動かすためにはそれだけ利益が継続的に生み出される=経済活動がきちんと行われるようにしなければ安定的になりません。

「野生害獣の駆除等により生じた皮革の利活用に関する実態調査報告書」がすごい!



上記リンク先の調査報告書はここまで読んでくださった方なら、きっと面白いはずです。

・国内のタンナーで鞣したら「革」として売るにはどれくらい高くなるか
・じゃぁ海外ではジビエの革活用は行われているか
・害獣駆除した動物をそのまま放置するとどれだけ有害になるか
・害獣駆除で革を作ったとしても1DSあたり300円くらいになる

などが詳細に報告されています。

「自分たちで鞣しできないかなぁ」「数千万円で鞣し工場作れないかな」、と思っている方はぜひ読んでみてください。この資料が無料で読めるんだからすごい時代です。

セミナーでは


上記の報告書の内容を基に、

・肥育や牧畜の重要性
・ワニやカエル、蛇などの革はどう作られ、活用されているか
・タンナーをやるとしたらどれだけの設備と技術、人手がいるか
・小規模でやる方法

などを解説していきました。

結論は、「牧畜というシステムがないと革利用は難しい」ということです。

ムラキの今後予定


11/19 2022たつの市皮革まつり&タンナー見学バスツアー 2022年11月19日(兵庫県) - こくちーずプロ...3年ぶりかな。姫路駅集合・解散の見学ツアーを行います。

11/24-26 神戸素材博覧会


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プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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