欧米ブランドに「負けていないぞ!」

September 27, 2023

【村木るいさん連載】「人に話したくなる革の話」映画「ある精肉店のはなし」から見る肉とタイコと革の関わりと、タンナー見学の話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。
今回は、映画「ある精肉店のはなし」から見る肉とタイコと革の関わりと、タンナー見学の話。皮革産業、ジャパンレザーについて、ユーザーの皆さまに知っていただくためのさまざまな取り組みを村木さんの視点で語ります。ぜひ、ご覧ください。

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通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどはリンク先をチェックしてください。


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毎度です!「食べ物と宗教と戦争の歴史を見るのは趣味」のムラキです。

世界史や日本史のテストはほんとに悪かったんですが、食べ物宗教戦争の歴史を見るのは好きだったのがまさかこうやって役立つとはなぁ。つくづく人生は飽きないな。

昨年に続き今年も、「ある精肉店のはなし」という映画を革のイベントで上映会をします。今回は東京のみならず大阪でもやります。

・肉屋の映画ってどんなもの? それが革と関係あるの?
・映画で屠畜を見た感想はどういうものか?
・革を知ってもらうタンナーの取り組み

などを紹介します。

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秋はイベント多くてシンドイ

なんで革のイベントは秋口に多いんだよ、とグチグチと言っていたところ「春先だとこれから暑くなる季節で革が不釣り合い」「秋口だとこれから寒くなるから革製品の需要が高くなるからでしょ」と。正論なんて聞きたくない!と泣きました。

個人的に革日和やムラキとして関わるイベントは・・・

9月30日(土)・10月1日(日)「ジャパンレザーアワード2023 応募作品展」、10月20日(金)~22日(日)「浅草エーラウンド」(映画上映+セミナー)、10月27日(金)「フェニックスナイト」(大阪・レザークラフトフェニックス 毎月最終週金曜 夜間延長営業20時まで)、11月4日(土)~5日(日)「オーラウンド」(大阪/映画上映+セミナー)、11月18日(土)「タンナー見学バスツアー」、1月18日(金)・19日(日)「本日は革日和♪」(大阪・奥なんば 大国町周辺)

ここらが決まっている内容。この合間合間に手作りイベントを視察して挨拶回りの営業活動など。イベント予定で異彩を放つのが「映画上映」ですね。上映するのは「ある精肉店のはなし」というお肉屋さんを扱ったドキュメンタリー映画です。

「ある精肉店のはなし」は配信もDVD化もしていない、上映会のみで見られる映画

こちらの映画は、「上映会をしたい個人、法人問わず映画本体を借り受けて上映会をする」というシステムになっています。上映会をして20人ほど集めて入場料とったらトントンですね。それを割り込むと大赤字になります。この秋、東京と大阪で上映会しますが、東京は私個人の自腹です。


どういう話?

大阪府貝塚市での屠畜見学会。

牛のいのちと全身全霊で向き合う
ある精肉店との出会いから、この映画は始まった。
家族4人の息の合った手わざで牛が捌かれていく。
牛と人の体温が混ざり合う屠場は、熱気に満ちていた。

店に持ち帰られた枝肉は、
丁寧に切り分けられ、店頭に並ぶ。
皮は丹念になめされ、
立派なだんじり太鼓へと姿を変えていく。

家では、家族4世代が食卓に集い、いつもにぎやかだ。
家業を継ぎ7代目となる兄弟の心にあるのは
被差別部落ゆえのいわれなき差別を受けてきた父の姿。
差別のない社会にしたいと、地域の仲間とともに部落解放運動に参加するなかで
いつしか自分たちの意識も変化し、地域や家族も変わっていった。

2012年3月。
代々使用してきた屠畜場が、102年の歴史に幕を下ろした。
最後の屠畜を終え、北出精肉店も新たな日々を重ねていく。

いのちを食べて人は生きる。
「生」の本質を見続けてきた家族の記録。

牛の飼育から屠畜解体まで、 いのちが輝いている、 前代未聞の優しいドキュメンタリー。 ーーー鎌田慧(ルポライター) - ある精肉店のはなし (seinikuten-eiga.com)

より抜粋

ムラキが革関係者に話す紹介内容

子牛を市場から買ってきて大きくするのを「肥育」というのですが、大阪府貝塚市にある肉屋はこの肥育をして、自分たちで屠畜して、肉を売る、という最後の肉屋さんです。

現在も営業されているのですが、屠畜をしていい屠畜場が2012年に終了してしまったので、このやり方を終えました。この映画は最後の1年間を記録したドキュメンタリーです。

よく聞かれる質問1 屠畜場はもうなくなったの?

各都道府県で必ず現在も存在しています。というか、人が肉を食べる限り無くなりません。
ですが、個人の肉屋さんが借りて使えるような屠畜場はこの貝塚市の屠場が最後と言われています。

一方、食肉の世界は時代の流れとともに全国的に変化してきました。屠場の統廃合と大規模化、機械化が進み、地方の小さな屠場はどんどん閉鎖されてきました。ぼくたちのムラの屠場もすでに貝塚市営となっており、市の施設として経営状態が問われるようになっていました。要するに「収益をあげられているのか」ということです。当時の市長は「歴史的な背景や地域の産業を支える観点から収益の側面だけで判断すべきでない」としていましたが、ムラでも飼育から屠畜、精肉まで一貫しておこなう家が年々減り、施設の老朽化もあって1990年代から屠場の閉鎖は時間の問題でした。そしてついに2012年3月に閉鎖が決まったのです。


より抜粋

よく聞かれる質問2 屠畜のシーンが出て怖くない?

怖い・怖くない、は個々人の感性としか言いようがないです。ただ、過去3回ほど上映会しましたが、中学生さんも見られたりしました。途中退場された方はいないですね。むしろ上映後の感想を集めると「見てよかった」「気持ち悪いなどはなかった」「技術がきれいだった」などが多かったです。

よく聞かれる質問3 この映画の上映会をするの?

このブログで何度も何度も何度も書いていますし、実際に何度も何度も何度も口にしていますが、「革は食肉産業の副産物」です。肉の需要があるからこその皮であり、革なわけです。革関係者や革が好きな人は「肉と革は地続き」であるということを知っていて損はないと思います。

「ある精肉店のはなし」ではタイコの製作工程も見られる

映画の中ではタイコ制作風景も少し紹介されます。

貝塚市というか大阪の南の地域におけるだんじり祭りや、そこにおけるタイコ、というのは少し他の地域の人から見ると特殊です。というか、異様なほど思い入れがあります。

映画の中ではタイコの皮を作る工程も紹介されています。タイコの皮はかなり特殊です。革業界とはちょっと違う世界にはなるのですが、「食肉の副産物である皮」を有効活用する、という意味合いではこちらも地続きです。

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タイコ制作は下の動画でくわしく紹介されています。


革を知ってもらうためには肉を知ってもらう

先日、某所にご挨拶に伺ったところ、「ブログ見てますよ」「こうやって革のことを伝えるのか、と見ています」と励ましになるお言葉をいただきました。

革のことを知ってもらうのに専門用語なり散りばめても初心者さんにも中級者さんにも理解されづらい。なるべく聞き手の生活に接点ある単語や事象から革を伝えるように心がけています。

タンニン、なんて言葉聞いてもわかるわけないんですよ

「濃い日本茶や紅茶、渋みの強い赤ワインに入っているのがタンニン」です、と説明すれば興味をもってもらえます。革のことを知るためには肉やタイコなど、見聞きしたことあるものから入ったほうが理解も興味ももってもらえます。


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TLA(Thinking Leather Action)という取り組み

今年から本格的に始動した一般社団法人日本皮革産業連合会(JLIA)のプロジェクト、TLAでは「実は、革 ってサステナブル。」を合言葉に革に関するメッセージを発信しています。こちらも革業界をわかりやすく考えられているな、と感心してみています。

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一般社団法人 日本タンナーズ協会の取り組み

一般社団法人日本タンナーズ協会も近年、子どもでも大人でも理解しやすいように「革は食肉の副産物」という発信を行っています。



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このPRチラシ、ふりがな付きも作ったのはすごいな!と感心したものです。

「ある精肉店のはなし」もあくまでお肉屋さんのドキュメンタリー映画です。

この映画は、2012年に屠畜場が廃場する最後の1年を扱ったお肉屋さんのドキュメンタリー映画です。
決して革業界を紹介するためものではありません。ですが見ることで「なるほど、革というのは肉と連なるんだ」「食べている肉はこのように私達の手元に来て、食べているんだ」ということが知ってもらえるかと思います。多分。

めちゃいい映画ですので是非見てもらいたいです。


映画上映後に10分ほど革と肉についてのはなしをします

映画上映後に革の話をさせていただきます。

・タイコの皮である乾皮ってどんなもの?
・映画で出てくる食べ物「かす」ってどんなもの?
・歴史で見る肉屋の立場の違い

などを話します。

また、東京・大阪でも映画の後に革の話セミナーなどを行います。

革を知ってもらう努力をしているタンナーさんの取り組み:たつのレザーのキタヤさん

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キタヤさんは、以前当ブログでも紹介した革の森、を運用されているタンナーさんです。



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大阪からの小学校見学!? よくまぁ、こんなマニアックな工場見学するなぁ。どこからどうタンナーという工場まで小学校がたどりついたのか。おもしろいので直接キタヤさんに電話して聞きました。

いつからタンナー工場見学ってやっているの?

「たつの市の小学生たちにはもう10年以上前からやっているよ。年間1,000人くらい来るかな。
うちだけで1,000人、というわけじゃなくて、龍野レザーに協力してくれているタンナーの中の株式会社キタヤ、株式会社モリヨシ、エルヴェ化成株式会社で分担して受け入れているよ」(キタヤさん)

大阪の小学校が見学って珍しくない?

「ここは2年ほど前からかな?
学校の授業でタイコづくりがあるそうで、その一環で革の工場見学、ということになったそう。

広島に修学旅行して、その帰り道で岡山で一泊。で、大阪に帰る途中にたつの市で工場見学30分。
お昼ごはんにそうめん食べるそうだよ」(キタヤさん)

あぁ、たつの市の名産は醤油とそうめんと革、という水に関わる産業だから。

何人くらい受けて入れているの?

「今回は50人くらい。これでうちの工場でギリギリだよね」(キタヤさん)

だろうなぁ。タンナーは危険なものもあるし、巨大な機械もあるのであまり気楽に行ける場所もでありません。

なんで受け入れているの?

「龍野レザーを複数のタンナーで協力してやっているけど、やっぱり知ってもらうためには工場を見てもらわないと、ということでこういうことをしているんだよ」(キタヤさん)


「本日は革日和♪」で行う映画上映やタンナー見学バスツアー

上記のタンナー「キタヤさん」に行くわけでもないタンナー見学会を紹介するのもちょっと気が引けるのですが、今後の予定のリンク先などです。


9月30日(土)・10月1日(日)「ジャパンレザーアワード2023 応募作品展」

会場では「ジャパンレザーアワード2023」の全応募作品を展示しています。初日は審査が行われていますので、一般公開は16:00(開始予定)~18:00となっています。早めに来たら、フェニックスブースで遊んでいってください。

ブースの出展メンバーは・・・
・レザークラフトフェニックス
・zittoolsによるミシン・漉き機体験
・レザクラ用CAD「leathercraft CAD」開発者を招いてのCADソフト実演解説。予約不要


10月20日(金)~22日(日)「浅草エーラウンド」(映画上映+セミナー)


・各種セミナーを開催予定。
・会場近くでは、レザークラフトフェニックスによる彩り靴ワークショップと、lizedによる染色ワークショップを開催予定。



10月27日(金)「フェニックスナイト」(大阪・レザークラフトフェニックス 毎月最終週金曜 夜間延長営業20時まで)


18:30より約1時間 技術セミナー(無料)開催予定。

11月4日(土)~5日(日)「オーラウンド」(大阪/映画上映+セミナー)


・映画「ある精肉店のはなし」+映画解説(ラスト約12分「本日は革日和♪」)
・期間中 芦原橋会場内でセミナー開催予定。

11月18日(土)「タンナー見学バスツアー」


プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

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