2019年1月30日 の記事
January 30, 2019
村木るいさんの「人に話したくなる革の話」 革業界独特の工具「刃型」で同じ形をいくつもいくつも量産できる
カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」
当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。
この春も横浜で開催される人気イベント「素材博覧会」に革日和ブースの出展が決定! 2月15日(金)から3日間行われます。今回の「革日和ブース出展 in 素材博覧会 横浜」は6社が出展。レザークラフト体験ワークショップも開催予定です。詳しくは下記リンク先をチェックしてください。
毎度です! 人生が108回あるならば8回くらいは刃型屋やりたいな、と思っているムラキです。
長々と話してきた革にまつわる加工業の話ですがとりあえず今回で最終回です。
で、トリを務める刃型屋は思い入れたっぷりに紹介します。
私が革業界で生きている理由の2割位は刃型という工具が大好きだからです( ´∀`)bグッ! 刃型はそれくらい工具として面白い!
目次 [hide]
刃型ってどんな工具?
イメージとしては巨大で頑丈なカッターナイフの刃を折り曲げて溶接したものだと思ってください。あるいは、ものすごく頑丈なクッキー型ですね。
これを以前紹介した裁断師がクリッカーという工具で裁断していきます。
「人に話したくなる革の話」 革を裁断する仕事「裁断師」の世界
クッキーの抜き型でクッキー生地を抜くことで同じ形が何個も何個もできます。
刃型で革を裁断することで同じ形が何個も何個も裁断できます。
量産に欠かせない工具、それが刃型です。
どうやって作られるの?
なんと手作業で1つ1つ折り曲げていきます。
コツコツと曲げていき一つひとつを溶接していきます。
完全に型紙通りに作れるの?
刃型職人の腕前と素材次第です。
難しいのは「直角」に作ることと「平行」に作ること。
例えば、下のようなドーナッツの刃型はなかなか難しいです。
円形という誰が見ても歪みがわかりやすい形&同じように平行に配置しないと狂いがわかりやすい、というドーナッツ形状は見た目以上に難しい刃型です。
大きなもの、例えばカバンの型紙などは大きい形なので、多少狂っていても製作の際にリカバリーがききます。財布などは小さいパーツだけに1mm狂っていても違和感を感じますね。
刃型に使われる鋼材は「スウェーデン鋼(すうぇーでんこう)」と呼ばれるものを使います。スウェーデン鋼にも切れ味の良いもの、悪いものなどが存在し、それは刃型会社がどれを使うかによって異なります。
スウェーデン鋼以外にも火造り用の鋼やトムソン鋼なども存在します。
これらを適材適所で使い分けていきます。
値段はいくらくらいかかるものなの?
材料費よりも職人さんの時間工賃で値段は算出されると思ってください。
そのため、「大きいから高い」よりも「手が込んでいるものであればあるほど高く」なります。単純な40cm×20cmの長方形の刃型よりも、5cm四方の桜の花型の刃型のほうがはるかに値段は高くなります。
例えば、下の桜の刃型は「全く狂いなく作ってほしい」と依頼しました。そのため手で曲げるのではなく、彫刻刃型で作っています。
彫刻刃型は、「金属の無垢の塊からCNCで削り出して先端を尖らせて刃型を作る」というものです。CNCで作るため1mmの狂いなくできます。その分値段は高めです。(3万円ほどかかるんじゃないかなぁ)
他にも、
・穴をあけるハトメ抜きが追加されると1本あたり600円ほど追加される>刃型の話をしよう:ピンと穴あけポンチの違い | phoenix blog
などなど、さまざまな条件で値段は高くなります。
見ているだけで大変そうなベルト穴
例えば、下の写真は「ゲタ刃型」と呼ばれているものです。
こちらの品は金属をゲタのように組みあげ、そこに刃型を埋め込んでいます。この上にベルトの端っこを置いて裁断するとベルトの端っこにつけるようにベルトバックル用の穴が空き、ホックを止めるための穴も4つ開けてくれる。さらにはベルトの端を直角ではなく、少し丸めてくれる、という大変便利な工具です。
ここで使われているベルト穴などは、下の写真右側から左側に向かって作っていきます。
1 必要となるベルト穴の長さを計算し、それ近い直径の金属の円柱を用意する
2 穴をあけていく
3 パイプ状にする
4 ナナメに角度をつける
5 該当するベルト穴に潰していき、焼きを入れてヤスリがけをして刃を付けていく
このように非常に手間暇がかかっています。
ですので、こういうベルト穴部分が1つ増えると問答無用で+10,000円ほどしますね。
刃型の話をしよう:穴も空けてくれる刃型は注意点がいっぱい。バックル穴はめさ高くなる | phoenix blog
裁断するためにはクリッカーが必須なの?
クリッカー以外にも手で裁断する方法も一応あります。
その場合は、ひたすらガンガン叩くよりもどれだけしっかりした土台で作業するか・きっちり保持するかのほうが重要になります。
また、対象とする革の厚みなどにも難易度は左右されます。
革以外は使えないの?
布地も裁断できますが、糸1本だけ残ることもあります。
紙や薄いプラスチック、フェルトなどは裁断できます。
布を刃型で裁断可能なのか、という話 | phoenix blog
応用性は高いの?
ご自身のアイディア次第です。
例えば、上にあげたベルト用のゲタ刃型は高くつきますが、下の写真にあるように「20mm幅のベルトの端っこを丸くするためだけの刃型」ならば、それほどお金はかかりません。数千円レベルです。
どこで頼めばいいの?
当ブログでは、「ここにあるよ」などお答えができません。私個人もできません。
ネットで検索していただくか、私が働いているレザークラフトフェニックスで代行もしています。
どれくらい高いの?頼むときに何に気をつけばいいの?
お願いする職人さんや難易度、使用する鋼材によっても異なります。
頼む際には、次の点に注意しておいてください。
・自分で切った型紙を持っていく。型紙に出ている歪みや直角のズレなども再現されます。
・刃型屋さんによってはCADやイラストレーターで作った型紙のほうがありがたい、という会社もありますし、「パソコンなんて触れないから印刷したもの持ってきて」というところもあります。
・印刷する場合は厚紙に貼って提出してください。カレンダーの裏を利用、などでは紙が薄いですね。
・裁断する革の種類や厚み。裁断する方法や機械も伝えたほうが話はスムーズに行くかもしれません。
刃型屋さんはプロ向けの専門職種です。そのため、「私は何もわかりませんから一から説明してください」という人は嫌がられます。
まぁ、刃型屋さんに限らず問屋や加工業などのプロ向けの職種はおしなべて同じ傾向が見受けられます。
表には出てこないけど、革製品を支える仕事はいろいろとある
今までのシリーズでいろいろと紹介してきました。
「人に話したくなる革の話」革業界周辺の職業紹介シリーズ 「漉き屋」
「人に話したくなる革の話」 あなたが見る革に押されたブランドロゴの影にはこんな苦労がある。箔押し屋という仕事
「人に話したくなる革の話」 革を裁断する仕事「裁断師」の世界
「人に話したくなる革の話」 革を薄くする仕事「漉き割り」の世界
紹介した仕事以外にも、靴には靴独自の専門職種や、カバンやバッグ、財布にもそれぞれ独自の工程が存在します。今後もまた折に触れて紹介していく予定です。
プロフィール
鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター
東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。
最近のブログ記事
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