欧米ブランドに「負けていないぞ!」

May 29, 2024

【村木るいさん連載】タンナーを15年取り続けた写真家とレザーのJIS規格の話

カテゴリー: 村木るいさんの「人に話したくなる革の話」

月1回のスペシャルコンテンツ、村木るいさんの「人に話したくなる革の話」。

今回は、タンナーを15年撮り続けた写真家の個展を見てきた、「レザー」「革」の表記がJIS規格で厳密になった。それに対するネットの反応などをまとめてくださいました。「東京レザーフェア」期間中に行われた「JIS K 6541:2024 革(レザー)-用語」制定などの説明会には、約160名もの皆さまがご参加くださいました。今週、新聞などで報道され話題になています。ぜひ、ご覧ください。

*   *   *

通常、皮革産業のさまざまなトピック、イベントのレポートなどをお届けしていますが、人気イベント「本日は革日和♪」を主宰する村木るいさんが月1回スペシャルコンテンツをお届けしています。イベント、セミナーなど精力的に活動する村木さん。皮革に関する確かな見識を有し、幅広い情報発信に支持が寄せられています。

当ブログでは、レザーに関心をもちはじめた若い世代のかたや女性ユーザーにお伝えすべく、わかりやすい解説とともに西日本の皮革産業の現状をご紹介しています。独自の視点・レポートが大好評です。

今後のスケジュールなどは下のリンク先をチェックしてください。


*   *   *

毎度です!「量産の職人仕事をしつつイベント運営は相性が悪すぎる」ムラキです。

5月24日(金)・25日(土)、東京・浅草橋で「本日は革日和♪」を開催しました。事前予約制、かつ、入場料1,500円、かつ、3時間制限、というイベントでしたが、来場者の方の満足度は高かったと思います。1,500円もらっていますので来場者がいる間は常に来場者を見ており、右往左往している方や、出展者が来場者に気づかない場合などには必ず声がけをします。お金もらっている以上は親切ですので、私。

さて、今回の内容は、

・タンナーを15年撮り続けた写真家の個展を見てきた
・「レザー」「革」の表記がJIS規格で厳密になった。それに対するネットの反応紹介

という2点です。結論としては、

「革、に興味ある人はこれだけいた」という話です。

2405jlia001.jpg
2405jlia011.jpg

タンナーを15年撮り続けた写真家 上吉川さんの個展

概要

・畜産農家からタンナーまでを丁寧に取材し、牛革製品が完成するまでの過程を撮影した作品を展示。

・普段は見る機会の少ない皮の加工工程やそれを支える職人たちの真剣な表情などを、ライティングなど細部にまでこだわって撮影した作品により、現場の臨場感を伝える。

・牛を食肉加工した際に副産物として産出される皮を利用して制作された牛革製品を通じて、「いのちの大切さ」について考えるきっかけとなる写真展。

2405jlia015.jpg

2405jlia016.jpg



イベントの合間をぬってこの写真展を見に行きました。

会場は富士フイルムフォトサロン大阪

2405jlia010.jpg

写真家の上吉川氏の初個展は東京で2週間、札幌で1週間、最後に大阪で2週間行われました。この個展は富士フィルムが行っている若手写真家応援プロジェクト「写真家たちの新しい物語」の一環で開催されています。

写真集「かわと生きる」発売

2405jlia004.jpg

2405jlia007.jpg

今回の東京開催での個展をきっかけに写真集が発行される、とのことです。5月30日(木)発売ですが、会場では先行販売されていました。タンナーを紹介した写真集も個展も今回が初めてだそうです。


版元からのメッセージ

国内の牛革なめしの現場を捉えた写真集はこれまで類がありません。
工場の床いっぱいに広がる牛の皮、大きなドラム型の機械から立ち上る湯気、そしてきびきびと働く職人たち。
著者は皮革産業のさかんな兵庫県たつの市に生まれ育ち、多くの縁から、現場で働く人々との交流を通して撮影を続けてきました。

皮革産業は、動物の皮を扱うことから、差別と偏見にさらされてきた過去があります。しかしそこで働く人々は、食肉加工の副産物に再びいのちを吹き込む自らの仕事に誇りを持ち、皮革を心から愛しています。作品とインタビューから、真摯な職人魂を感じ取っていただき、皮革への興味を高めていただけたら幸いです。

上吉川さんにインタビュー

知らない世界を見るのは面白いですな。いろいろと新しい視野のきっかけをもらえました。また後日、インタビュー動画でもあげます。

2405jlia001.jpg

2405jlia002.jpg

タンナーの撮影はいつから? はじめたきっかけは?

15年前から地元のたつの市のために何かを、と思って撮り始めました。最初は市の商工会議所からの依頼で撮り始めたんですが、その後御縁もあり撮り続けてきました。

---当初はやはり現場は危険だ、ということで嫌がられたりもしたんですが、その後撮影した写真を見せたら、<俺、かっこよく撮っているな!>ということで徐々に認められた感じに」(上吉川さん)。

目に浮かぶ光景だなぁ。

個展開催期間中、ずっと在廊? 来場者は?

「東京では2週間、毎日個展会場に立っていました。大阪は2日だけ休んでそれ以外はずっと立っています。6月にやる埼玉では1か月の間、半分は立とうかな、と思っています」(上吉川さん)。

在廊予定などは、下のリンク(上吉川さんのFacebookアカウント)を参照してください。


「東京で立っている間に1.1万人が来てくれました。富士フィルムフォトサロンはとても有名な場所ですので来てくれる人も多いんですよ。来場者は多彩です。先日も小学校の先生が来てくれて、写真集を買っていただき、生徒に<牛を食べて、その皮が使われる、という話をしたい>と言っていただきました」(上吉川さん)。

来場者の反応は?

「皮をとるために牛を育てているんですか? という人がかなり多いです。体感8割くらい。来ていただいた方にはカメラの話や写真技術の話、なども解説するんですが、それは体感2割。8割くらいは、皮は食肉の副産物とか、革の工場は機械が自動化しているわけじゃないというような話ばかりしました」(上吉川さん)。

8割!? めちゃくちゃ多いな、それは。解説・PRの費用をフォローしてほしい・・・。

タンナーの写真について、写真家仲間の評価は?

写真を実際に見た写真家仲間からは、魅力的な撮影対象だ! 羨ましい! という声もあがりました。僕は生まれたのはたつの市だったため、生まれた場所にそんな撮影対象があるなんて卑怯だ! という声もあるくらいです。魅力的な撮影対象なんですよ、タンナーさんというのは」(上吉川さん)。

そら、たつの市に引っ越せ! と言いたくなりますなぁ。下のサイトで写真のいくつかを見ることができます。

批判的な声は?

「東京、札幌、大阪と個展をやってきましたが、一切なかったんですよ。正直、富士フィルムの方もそれは気にしていたんですよ。写真内容的にもタンナーのみならず牧場の風景や牛が屠畜場に積み込まれる写真などもあります。なにかしら「残酷だ!」的な声が出るかな、と思ったんですが、一切なかったです。それどころか <いただきます、ごちそうさまというのを確認できる機会がもらえた><とても勉強になった><実際に見たい>などの声ももらいました」(上吉川さん)。

次回は埼玉県川口市で開催


2405jlia017.jpg

2024年3月より「革」「レザー」と呼べる製品は動物由来のものに限定する、とJISで規定されました

2405jlia011.jpg

JIS規格の「革」「レザー」の定義についての説明会が5月24日(金)に行われ、約160名が参加しました。

JISで「革」や「レザー」の規格が制定される、とは?

「繊研新聞」(5月27日)の記事では・・・

JISは革・レザーを「皮本来の繊維構造をほぼ保ち、腐敗しないようになめした動物の皮」に限定、「人工的な材料の名称として使用してはならない」と定義した。

ここ数年、ヴィーガンレザーなど非動物性の原料を使った素材でレザーの用語が乱用され、消費者の誤解と混乱を招いていたことから、国際的な用語に統一して理解を深め、正しい認識での消費を促す。ISO(国際標準化機構)は19年に「Leather」の用語を規定した。

革・レザーは動物の皮を使い、仕上げ塗装や加工による表面層の厚さが0.15ミリ以下のものとする。「エコレザー」は、皮革の製造過程で排水、廃棄物処理が法令を順守していることが確認され、消費者と環境に有害な化学物質などに配慮した革と規定した。革を繊維状、粉末状にして50%以上配合した加工素材は「皮革繊維再生複合材」とする。基材の表面に合成樹脂面を配して、革の外観に類似させた素材は、「合成皮革」「人工皮革」に分類され、フェイクレザーも不適切な表現となる。

JIS 革・レザーの用語規定見直し 動物由来に限定 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

「なんとかレザー、という曖昧な表現しているのはもう駄目よ」「レザーという表記は今後動物由来、かつ、皮本来の線維構造を保ったものに限る」という話です。

「動物由来、かつ、皮本来の繊維構造」とは、動物由来、だけだと、シルクを使ったものや、革を砕いて固めたものも「なんとかレザー」とか使われかねない予防ですね。

法的拘束力は?

罰則があるわけではないです。ただ、「なんとかレザー」と書かれているものは消費者に錯誤を招く、と判断されます。百貨店などでは扱いにくくなるのかもしれません。

企業の対応は?

調べた範囲内ではニトリなどは「なんとかレザー」という表記はやめて、「皮革(牛革)」「PVC」「合成皮革」など表記をここ数年で厳密に変えてきています。気付いたときには驚いたものです。

ダイソーなどはこの1年くらいで「レザー調」という表記を使い始めているな、と思っています。アパレルでは「レザータッチ」という表現を使ったりしています。

ネットの反応は?

Yahoo! ニュース(WWD JAPAN)



コメントをピックアップしてみると、

「レザーと書いてあって本革だと思ったらPVCだった」
「なんとかレザーは結局は人工皮革だったりフェイク」
「植物原料を化学処理してホンモノの「革」に作り変えたなら錬金術やんか」

などなど。

繊研新聞



コメントをピックアップしてみると、

「フェイクレザーという表記すらNG。例外作るのは危険だものな」
「レザーで検索してフェイクレザーがヒットすると腹が立つ」
「リサイクルレザーってなに? ベジタブルタンニンレザーはわかるがヴィーガン? PUレザーってなに?」

このJISでの規格制定は結構前から動いており、関係者の尽力も傍から見ていて「ほんとに大変だな」と思っていたものです。コメントを見ていると思った以上に消費者も錯誤されて迷惑被っていたんだなぁ、と実感しました。

知ってもらう努力を続ける、ということ

さて、今回は写真家の上吉川祐一さんの個展とJISの話を紹介しました。
全く違う話題ではあるのですが、「革という素材を知ってもらう努力を続けるのは大事だな」と思い知らされましたわ。

ムラキの今後予定

6月2日(日) レザーソムリエ 大阪講習会 講師として登壇。



7月19日(金)・20日(土) 「本日は革日和♪」(福岡・博多 博多チクモクビル)。
7月21日(日)は同じビルにてレザーソムリエ講習会が。



下のリンク先サイトにて情報を追記していきます。


プロフィール

鈴木清之

鈴木清之(SUZUKI, Kiyoyuki)
オンラインライター

東京・下町エリアに生まれ、靴・バッグのファクトリーに囲まれて育つ。文化服装学院ファッション情報科卒業。文化出版局で編集スタッフとして活動後、PR業務開始。日本国内のファクトリーブランドを中心にコミュニケーションを担当。現在、雑誌『装苑』のファッションポータルサイトにおいて、ファッション・インテリア・雑貨などライフスタイル全般をテーマとしたブログを毎日更新中。このほか、発起人となり立ち上げた「デコクロ(デコレーション ユニクロ)部」は、SNSのコミュニティが1,000名を突破。また、書籍『東京おつかいもの手帖』、『フィガロジャポン』“おもたせ”企画への参加など、“おつかいもの愛好家”・”パーソナルギフトプランナー”としても活動中。

最近のブログ記事

カテゴリー

月間アーカイブ

rss
facebook witter

このページの一番上へ